コント『ダンス教室 最後の儀式』作:第三字宙

コント『ダンス教室 最後の儀式』作:第三字宙

コント『ダンス教室 最後の儀式』作:第三字宙 約6分(約2700文字)

登場人物:
田中先生(35歳・女性):ダンス教室の教祖。常に真顔で厳粛。ダンサーネームは「グルーヴ導師タナカ」
美咲(高3・女性):脱会希望の信者。ダンサーネームは「リズム・ミサキ」
ユカリ(高3・女性):徐々にトランス状態になる信者。ダンサーネームは「ステップ・ユニヴァース」

3月最終週、ダンス教室のスタジオ。田中先生が祭壇(鏡の前)で厳粛に準備している。

田中先生「(教典を開いて)教典第3章、"魂の律動"を授けます」
ユカリ「ステップ・ユニヴァース、準備完了です」
美咲「・・・リズム・ミサキ、準備—」
田中先生「(言い終わる前に)声が小さい」
美咲「リズム・ミサキ!・・・準備完了です」
田中先生「今日は"魂の昇格儀式"です」
美咲「あの・・・私は、今日で卒業のはずですが」
ユカリ「"卒業"は世俗の言葉だよ、リズム・ミサキ」
美咲「その名で呼ぶのはやめて、ユカリ」
田中先生「今日からあなたたちは"ソウルの階級"へ昇格する。さあ、祭壇に立ちなさい。5・6・7・8」
美咲「あの、最後のレッスンってことでいいんですよね?」

と、美咲の言葉は音楽にかき消され。踊り始める3人。美咲が少しミスをする。

田中先生「今の。もう一回いこう」
ユカリ「グルーヴ導師、今のリズム・ミサキは"律動の乱れ"です」
田中先生「そうね、ステップ・ユニヴァース。・・・リズム・ミサキ、0.5秒遅れたのは煩悩のせい」
美咲「いや、急に始めるから」
ユカリ「教典第3章第2節。"軸のブレは迷い"」
田中先生「煩悩を振り払いなさい、リズム・ミサキ」
美咲「あの、その律動名で呼ばないでもらえますか」
田中先生「変えられない。それはあなたの魂の周波数、」
美咲「魂の周波数って」

以下、同時に

田中先生「もう一回。5・6・7・8」
美咲「なんですか?」

と、音楽が流れ、踊らされる。
しかし、田中先生、突然動きを止めて手帳を取り出す。

田中先生「リズム・ミサキ、いつもの2分35秒のところ。"魂の化石"が残っている」
美咲「魂の化石って?」
ユカリ「(ノートを見せて)3年前の春から、ずっと同じところで0.2秒遅れてます」
美咲「3年前から測ってたの!?」
田中先生「過去の動きは未来の振付。すべてつながっている」
美咲「もう着いていけません! 今日こそキッパリ辞めます。だから、最後に一言だけ言わせてください」
田中先生「いいでしょう。懺悔、それは"魂の洗浄"」

と、ユカリが田中先生の合図で、スイッチを入れる。
照明が落ち、美咲にスポットライト。

美咲「いろいろありましたが、ダンス教室での5年間、本当に・・・ありがとうございます」

途中から、田中先生とユカリ、無意識に動き始める。

美咲「じっと聞けないんですか?」
田中先生「あなたの言葉が振付として入ってくる」
ユカリ「"ありがとう"は、テンポ120、4拍子です!」
田中先生「今の"ありがとう"、リズムが不安定だった」
ユカリ「"ざいます"の"す"が0.3秒早いです」
美咲「語尾まで!?」
田中先生「(教典を開いて)第5章第8節。"語尾の乱れは信仰の揺らぎ"」

田中先生、さらに真顔で厳粛になる。

田中先生「リズム・ミサキ、”魂の洗浄”をするなら・・・泣きなさい」
美咲「泣きはしませんよ」
田中先生「泣き方にも教義がある」
美咲「私の声、届いてますか?」
ユカリ「(急に興奮し始めて)教典第7章! "涙の4ステップ"!」
田中先生「まず"感情"。次に"表情"。"呼吸"。最後に"涙"。涙は魂の水分。その落下は、神との通信」
ユカリ「涙の落下速度、秒速0.8センチメートル…それは教典第7章と第3章の交差点です」
田中先生「そう、第3章第4節。“魂の化石は涙の中に眠る”。」
美咲「だから魂の化石って何!? どこに埋まってるの!?」
ユカリ「左足の甲」
美咲「適当に言わないで?」
田中先生「ステップ・ユニヴァース、"涙の4ステップ"を実践して」
ユカリ「はい! 5・6・7・8で泣きます!」

ユカリ、カウントに合わせて本当に泣く。完全にトランス状態。

美咲「ユカリ、正気に戻って!!」
ユカリ「(泣きながら恍惚として)私は・・・神と同期しました・・・」
美咲「ダメだ、完全に洗脳されてる!!」

美咲、限界に達する。

美咲「もう帰ります!! もう踊りたくない! 私の魂は私のもの!!」
田中先生「待ちなさい。"律動名の返還"が必要です」
美咲「返還!?」
ユカリ「(トランス状態で)"8・7・6・5・・・"と逆カウントで魂の名を手放します」
美咲「普通に"辞めます"じゃダメなの?」
田中先生「リズム・ミサキ、気づきなさい」
美咲「何を・・・」
田中先生「歩くこともダンス、呼吸もダンス、すべてがダンス。だから、あなたは永遠に"リズム・ミサキ"」
美咲「もう本当に帰ります!!」

美咲、自分の律動名を引き剥がすように、目に見えない何かを脱ぎ捨て、床に叩きつける。 田中先生、その"何か"をゆっくりと拾い上げ、胸に抱く。

田中先生「(静かに、厳粛に)さようなら・・・リズム・ミサキ」
ユカリ「(涙声で)さようなら・・・リズム・ミサキ・・・」

美咲、ドアを開ける。その瞬間、教室で何かが始まる。

田中先生「さあ、ステップ・ユニヴァース。"律動名コール"を始めましょう」
ユカリ「(完全にトランスで)はい!」
田中先生「"別れの教義"第9条。去りゆく魂には、祝福の律動を」
ユカリ「祝福の律動!」

二人が手拍子して叫ぶ。日本人の遺伝子に組み込まれたリズム。

田中先生・ユカリ「リズム・ミサキ! リズム・ミサキ! ソウルに昇格、リズム・ミサキ!」
美咲「なんかダサいっ! 宴会のおじさん!」
ユカリ「先生、次は"律動名ラップ"に進化させましょう!」
田中先生「いいね。ビートは88BPM。」

二人、即座にラップ調で。

田中先生・ユカリ「Yo! リズム・ミサキ! 魂のグルーヴ! ソウルに昇格! 煩悩はリセット! 肩甲骨はフリースタイル!

美咲、振り返る。

美咲「...ほんとうに、バカだなあ」

足がステップを踏みかける。

美咲「足が?」

腰が揺れる。

美咲「腰まで! やめて、腰! 腰がグルーヴしてる!」

肩が動く。

美咲「...え? いやっ!」

首も動きかける。

美咲「もう全身!? …でも、踊ってるときだけは…自分になれる気がしてた」 

一瞬だけ鏡を見る。自分の姿にハッとする、でもすぐに首を振ってドアへ。

美咲「やっぱり帰ります!!」

ドアを閉めて出ていく。教室では、二人がラップを続けている。

田中先生・ユカリ「Yo! リズム・ミサキ! 魂のグルーヴ! ソウルに昇格! 煩悩はリセット! 肩甲骨はフリースタイル!

暗転。教室の音楽が遠くなる。
遠くから聞こえる声。

ユカリ「先生…神が…見えます…」 

音楽が止まる。完全な静寂。

田中先生「(静かに)5・6・7・8」 

完全暗転。
(了)

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このコントの創作のメモ

お題「3月」
場面設定:ダンス教室・ワークショップ
人物:ダンスの先生、生徒

下書き

ダンスの先生あるある
・何回も同じ注意をしているうちに、自分の口癖が決まってくる(「はい、もう一回いこう!」など)
・カウント(「5・6・7・8!」)を言わないと落ち着かない
・発表会前になると生徒より緊張している
・教えるよりも踊りたくなって、つい全力で振りを見せてしまう
・生徒の成長に感動して泣く瞬間がある
・生徒の振りを見ながら、無意識に自分も小さく踊ってしまう
・「そこ、もっと気持ち入れて!」と言いながら、自分が一番感情込めて踊ってる
・音響トラブルに異常に敏感(「スピーカーの調子が…」)
・生徒の衣装やメイクにもつい口出ししたくなる
・「今日は軽めに」と言っておいて、結局汗だくになる
・レッスン中に「あと1回」が5回続く
・振付を忘れたとき、生徒にこっそり確認する
・生徒がうまく踊れた瞬間にテンションが爆発する
・つい自分の好きなジャンルの振付に寄っていく
・生徒の私生活の変化にも詳しくなる
・「本番に強い子」と「リハは完璧な子」を把握している

ダンスのあるある
・鏡の前で自分の動きが気になりすぎて、つい表情が硬くなる
・左右反転がこんがらがって「どっちだっけ?」となる
・「この振り完璧!」と思って動画を見ると、全然違った
・曲がかかった瞬間にテンションが3倍になる
・振りの一部だけめちゃくちゃ印象に残って口ずさんでしまう
・自分の影やガラスに映った姿でテンションが上がる
・振りを覚えたと思ったら、次のレッスンで全部飛んでる
・「この曲で踊りたい!」と思ったら、すでに他のチームが使ってる
・スロー再生で見ると、意外と手の角度が変だった
・振りの途中で「この動き、何の意味だっけ?」と哲学的になる
・イントロで自分の立ち位置を一瞬忘れる
・同じ振りを練習しすぎて曲が耳から離れない
・リハーサルでだけ完璧に決まる
・本番で衣装の一部が取れて焦る
・人の振付を見ると自然に体が反応して動いてしまう
・動画で他チームの構成を研究しがち

教室あるある
・スタジオの床に残されたテープの跡が歴史を物語る
・レッスン後の靴の山に自分のを探すのが大変
・新入りが入ると、全員なんとなく姿勢が良くなる
・「休会します」と言って無期限の“おやすみモード”に入る生徒がいる
・発表会シーズン前だけ異常に活気づく教室
・スタジオの時計がなぜかいつも少しズレてる
・鏡の前の“定位置”がなんとなく決まっている
・レッスン後、誰かが必ず「動画撮っていいですか?」と言う
・先生のテンションでその日の空気が決まる
・発表会の衣装が届くと、みんなで開封の儀式をする
・発表会後は数日、抜け殻状態になる
・忘れ物コーナーが常に充実している
・スタジオの空調が極端(暑すぎるか寒すぎる)
・鏡掃除の時間だけ全員が静かになる
・特定の曲が流れると「このクラスの曲だ」と全員がわかる

3月あるある(ダンス教室編)
・卒業や転勤で「最後のレッスンです」と別れが続く
・発表会の準備で全員が焦りモードになる
・新年度のクラス変更・新メンバーの緊張感が漂う
・保護者から「1年間ありがとうございました」が飛び交う
・桜の開花と同時に新しい衣装やチーム名の話題が出る
・卒業生が最後に踊ると、全員泣きそうになる
・新しいチーム名を決める会議が、なぜか盛り上がりすぎる
・「春っぽい振りにしよう」と言いながら、結局激しい構成になる
・桜と一緒に集合写真を撮るのが恒例
・急に「卒業生だけの練習日」が増える
・衣装サイズ調整でバタバタする
・「春の体験レッスン」申し込みが急に増える
・卒業生の親が差し入れを持ってくる
・泣かないと決めていた先生が、最後の挨拶で一番泣く

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