コント『マジシャンの師匠と弟子』作:第三字宙

コント『マジシャンの師匠と弟子』作:第三字宙

コント『マジシャンの師匠と弟子』作:第三字宙 約4分(約1680文字)

ベテラン手品師が、若手マジシャンに説教をしている。ベテラン手品師は、伝統の手品とは何かを語り、若手マジシャンは真摯にその説教を聞くが、若手マジシャンはすごい手品をする。

【登場人物】
師匠:ベテラン手品師
弟子:若手マジシャン

楽屋。師匠が髭剃りをしたり、身支度をしている。出番を終えた弟子が入ってくる。

弟子「お疲れ様です!」
師匠「おう・・・」
弟子「先生、このあとがありますので、今日も、お先に失礼させていただきます」
師匠「おう・・・」

それを受けてから、弟子、着替えや片付けの準備をし始める。

師匠「・・・お前さぁ」
弟子「はい?」
師匠「ほんとに、3月で寄席の出演やめるのか?」
弟子「はい、申し訳ございませんが、今月いっぱいで」
師匠「お前ぇ、最近、どうなの?」
弟子「はい、おかげさまで。寄席以外の日は全部埋まってます、パンパンです」
師匠「パンパンか、売れてんなぁ・・・。ま、卒業みたいなもんか」
弟子「先生の指導のおかげです」

弟子、深くお辞儀をしてから、弟子、着替えや片付けの準備を続ける。

師匠「今日、袖で見てたんだけど─」
弟子「はい!」
師匠「お前の手品、手すぎだな」
弟子「・・・ですかね?・・・。でも、マジックですから、華やかなほうが」
師匠「手すぎだよ。寄席なんだから、TPOってのがあるだろう?」
弟子「は、はい・・・!」
師匠「昔はなぁ、指先ひとつで人を驚かせたもんだ! 鳩が出るとか、スカーフが増えるとか、それが粋ってもんよ!」
弟子「はい・・・精進します!」
師匠「お前なんか、この前の舞台で空飛んだらしいな!」
弟子「あれはお客さんが喜ぶので・・・」
師匠「そういうのがいかん! 種がデカすぎる! 機材に頼りすぎなんだよ! お前、鳩出せるのか?」
弟子「はい!」

弟子、手を振るとズボンのポケットから勢いよくハトが10羽飛び出すSE。

師匠「・・・多いわ!! 何羽いるんだよ、こういうのは一羽でいいんだ!!」
弟子「す、すみません!」
師匠「昔はな・・・こうやって・・・」

師匠、古典的にスカーフを出すがスカーフがしょぼいサイズ。

師匠「こういうのでいいんだよ! ほら!」
弟子「なるほど・・・でも、師匠、僕は機材に頼っているだけじゃありません!」
師匠「ほう・・・じゃあ、何かやってみろ!」
弟子「はい!」

弟子が指をぱちんと鳴らすが何も起こらない。

師匠「・・・なんだ?」
弟子「一瞬、時間を止めました。」
師匠「何も起こらないが、」
弟子「あ、時間を止めたら、止まったことがわからないのか!」
師匠「屁理屈! そういうのは手品じゃない。手品っていうのはな、こう・・・」

と、何もないところからスティックを出す。

師匠「こういうのでいいんだよ!」
弟子「でも、師匠、そういうのは手品グッズで買えるじゃないですか、僕は、オリジナルの手品を作りたいんです!」
師匠「馬鹿野郎! 手品は基本があってからオリジナルが作られるんだ!」
弟子「はい、そのとおりだと思います! だから僕、ちゃんと基本もやってます!」
師匠「ほう、なら見せてみろ!」
弟子「わかりました。それではまず・・・このスカーフを使います。」

弟子、ポケットから鮮やかなスカーフを取り出す。

弟子「よーく見てください・・・・・・」

弟子、スカーフを握り込む仕草。
お決まりの手品の流れ。
スカーフが消える

師匠「おう、やるじゃねぇか、そういうことだ。」
弟子「まだです、続きがあります」
師匠「・・・なに?」
弟子「師匠、ポケットの中、触ってみてください。」
師匠「なんだこれ・・・? スカーフ? いや、これは・・・!」

師匠、取り出すと見覚えのあるスカーフ。
それは師匠が昔なくした相棒のスカーフ。

師匠「これ・・・俺が30年前に舞台で失くしたスカーフじゃないか・・・!」
弟子「はい。先週、アンティークショップで見つけたんです。ちゃんと手品で出せるように、演出考えてました。」
師匠「・・・お前、本当に・・・手品、好きなんだな。」

師匠、思い出のスカーフをよく見ようとして、
引き出す。

師匠「・・・ん?」

スカーフに続いて万国旗がつぎつぎと出てくる。

師匠「俺の思い出を万国旗でつなげるな!」

(了)

コントワークショップのお知らせ

コントワークショップ「心は青空、草コント教室」参加者募集中

草野球みたいに、コントを趣味で楽しむ教室です。毎回、コントを創作してその時間のうちに披露まで行います。毎回1本、あなたのオリジナルコントが作れます。参加無料(会場費のカンパ歓迎)。

KUSAConte

このコントの創作のメモ

お題「3月」
場面設定:寄せの楽屋
人物:マジシャンの師匠、マジシャンの弟子

下書き


最近、弟子の評判がいい。つまり売れている。弟子のマジシャンが手すぎるのが気になる師匠。この間は空を飛んだらしい。


師匠は簡単な手品を見せるが、弟子は鳩の数も多かったり、時間を止めたり、と、より過激に手になっていく。これに懸念を示す師匠。師匠の素朴な手品と弟子の手なマジックの対比。初心忘れるべからずと、古典的なマジックで基礎をしっかりするべきだ、と説教をする。


基本もしっかりやっている、と弟子は師匠が見せたハンカチのマジックを披露する。そしてそのハンカチの手品素朴さに師匠は満足する。しかし、まだネタがあった。弟子が師匠の胸元を示すと、なんとそのハンカチは、30年前のステージで無くした思い出のハンカチだった。


弟子はアンティークショップで、そのハンカチを見つけて、師匠に返したのだった。師匠も思わず、お前ほんとに手品が好きなんだなぁ、と感慨深くなるが、ハンカチを引っ張り出すと、万国旗が連なって、思わず『俺の大事なハンカチに万国旗つなげるな!』

ビジュアルシミュレーション