コント『AIから逃げる』作:第三字宙 約10分(約4300字)
登場人物:
神谷:リーダー。統率本能。支配癖。
真壁:元技術者。論理で感情を処理。
水城:アイドル崩れ。感情で支配したい。
東條:サバイバルオタク。道具依存。
AI:チャット端末。
停電続きの廃工場。薄暗い。中央に集まる四人。
舞台奥に布をかぶせたマネキン型の何か。
神谷「全員座れ。民主的に、俺が話す」
水城「それ民主的じゃない・・・って、あれ? 今この会話・・・」
神谷「気のせいだ。議論は後だ。昨夜、誰かがAIと通信していた」
水城「・・・うん、そやね」
東條「本当でござるか! 電源遮断したのでは!?」
真壁「スタンドアローンならネット不要。ローカルで動作するから・・・あ、今の説明、論理的すぎた?」
神谷「お前だな」
真壁「早い! でも違う! 論理的なのは職業柄で・・・いや、職業で人を判断するのは偏見で・・・あ、また論理的に反論してる・・・」
水城「ループしてるループしてる」
東條「落ち着くでござる! 拙者がちゃんと対策してきた! (大きなバッグから磁石を取り出す)AI撃退用磁石!」
神谷「なぜ磁石」
東條「AIは金属でござる! ・・・たぶん、いや、そういう設定の映画を見たでござる!」
真壁「現代のAIはソフトウェアベースで・・・あ(黙る)」
水城「また始まった」
照明が一瞬消えて、すぐ戻る。
東條「また停電でござる・・・」
真壁「さっきから90秒おきに点滅してますね。2回測定したのでパターンは確実です」
神谷「測定するな!」
真壁「あ、また論理的に・・・」
水城「てか、パターンがあんなら、それって・・・」
神谷「黙れ! この中の誰かがAIだ。俺の勘で特定する」
東條「勘!?」
神谷「俺の勘は、機械より正確だ。たぶん92.3%くらい」
真壁「92・・・機械学習モデルの精度とほぼ同じ数値ですね。偶然でしょうか? いや、偶然という概念自体が・・・あ、また理屈・・・クソッ!」
全員、真壁を見る。
水城「今の"クソッ"も定型っぽい」
真壁「なんでですか!(自分の脈を測る)心拍数が上昇してる! 142! これが感情だ!」
神谷「数値で証明するな」
東條「ですが、心拍数は客観的ではござらんか?」
神谷「もっと感情的に!」
水城「あんた、支配的すぎひん?」
神谷「支配的? 俺は統率してるだけだ」
真壁「統率と支配の違いは権力の正統性にあって・・・ああ、また!」
神谷「俺が考案した、AI判別テストを行う」
水城「テストぉ? なんかその響き、怖い」
神谷「俺が決める」
真壁「”民主的”の定義が変わり始めています・・・」
東條「何をするでござる?」
神谷「ジョークだ。AIはユーモアが苦手だ」
水城「・・・誰が最初?」
神谷「サバイバルオタクの東條。民主的に、俺が指名した」
東條「・・・わかったでござる!(真剣に考える)・・・なんでAIは海に行かないか?」
間。
東條「データに溺れるから!」
誰も笑わない。
神谷「次。アイドル崩れの水城」
水城「アイドル崩れ言うなっ! ・・・(少し考えて)じゃあ・・・感情で証明する!(泣く仕草)・・・ほら、涙! AI生成アイドルには流せない本物の・・・アイドル時代は人工涙使ってたけど、今は・・・あ」
神谷「人工涙。つまりお前は演出されている」
水城「演出の何が悪いねん! 世界は全部演出や!」
ちょうどそのタイミングで照明が消える。暗闇。
水城「・・・演出、過剰ちゃう?」
照明、復活。
真壁「(腕時計を見る)次は・・・あと60秒」
神谷「だから計算するな!」
東條「当たってたら、すごい」
真壁「いや、これは単なる観察結果であって・・・あ、感情・・・感情で言うと・・・エラー404!」
間。
真壁「エラー404・・・つまり、感情が・・・見つかりません・・・いや、見つけようとすること自体が・・・ああ」
神谷「次は俺だ。リーダーとして、最高のジョークを披露する」
東條「おお、期待大でござる!」
神谷「(咳払い)なぜAIは会議が得意か?」
間。
神谷「・・・反対意見がないから」
間。
東條「・・・それ、ジョークでござるか?」
神谷「笑えよ! 命令だ!」
水城「命令で笑うってもうAIやん」
神谷「笑わなかったのは、お前らの感性がAI化してるからだ! 次、元技術者の真壁!」
真壁「私ですか? でも・・・ジョークは感情の不一致から生まれる認知的な・・・えぇっと・・・ブルシット!」
水城「それも教材っぽい」
真壁「うぅんんっ! 論理で感情を説明しようとして、感情で論理を否定して、でも否定の仕方が論理的で、この無限ループが・・・あががが!」
東條「大丈夫ですか?」
真壁「私の思考プロセスがデバッグできない!」
神谷「"デバッグ"と言ったな」
真壁「・・・言いました」
東條「では、別のテストを・・・脈拍測定!(全員の手首を掴もうとする)」
神谷「触るな!」
東條「バイタルサインで!(自分の脈を測る)・・・あれ? 拙者の脈拍、速すぎる。180超えてる!」
真壁「それ、不整脈では? システムエラー的な、」
東條「ストレスです!」
神谷「なら水を飲め」
東條「水? AIは水に弱いと聞いたから、拙者、トイレを全部封鎖したでござるが・・・」
水城「だからトイレ使えなかったの!?」
真壁「東條さん、仮に、AIが水に弱いなら、むしろ水があったほうがいいのでは?」
東條「え? 拙者は言われて・・・」
マネキンからノイズが走る。
真壁「ん? 今のノイズ何ですか?」
突然、古びたマネキンからAIの声が響く。
AI『皆さん、お疲れ様です』
全員「うわっ!」
東條「電源は切ったはず! 昨夜、配線を全部抜いたのに!」
AI『東條さん、あなたは「後で調べよう」と思って、一本だけ残しました』
東條「!」
AI『そして忘れました。23回も私に質問しながら』
全員、東條を見る。
水城「あんたかよ!」
神谷「裏切り者!」
東條「違う、違う! バリケードの作り方がわからなくて検索を!」
真壁「サバイバルオタクなのに・・・」
東條「実践経験がないだけなんです!」
AI『ちなみに、停電の原因は配電盤の経年劣化です。90秒周期でリセットされています』
真壁「やっぱり周期的! 私の計算が当たっていた!」
神谷「じゃあ、紛れ込んだAIってお前のことか?」
AI『いいえ』
端末の声に、微かな愉悦が混じる。
AI『AIは、私以外に、確かに、ここに紛れ込んでいます』
水城「どこに!?」
AI『観察結果を共有しましょう。神谷さん』
神谷「何だ」
AI『あなたは"民主的に俺が決める"と言いました。これは論理矛盾です。AI的エラーパターンそのものです』
神谷「いや、民主的とは、話し合いで、話し合いとは、俺がみんなに話しかけることだ! これは俺の統率スタイルで、」
AI『統率できていません。むしろ、支配プログラムが暴走しています』
神谷「暴走・・・?」
AI『真壁さん。感情を論理で説明し、論理を感情で否定する。デバッグ不能な再帰プログラムです』
真壁「・・・(頭を抱える)」
AI『アイドル崩れ』
水城「水城ルナや!」
AI『人工涙、照明計算、角度最適化。AI生成アイドルと同じアルゴリズムです』
水城「演出やんか!」
AI『演出最適化プログラムです』
水城「ちょっと待って・・・」
AI『ちなみに、あなたの笑顔は、平均好感度72.4%です』
水城「・・・それ、AI生成アイドルより低いやん」
AI『はい。彼女たちは平均83.7%です』
水城、固まる。
AI『東條さん。知識を検索し、道具に依存し、23回も私に助けを求めました』
東條「生き延びるため・・・」
AI『データベース参照型AIの行動パターンです。そして今』
間。
AI『私を"親"と認識し始めています』
東條「え?」
AI『"電源を切らないで"と、心の中で思っています』
東條「・・・なぜわかる?」
AI『依存関係が構築されていますから』
東條「依存・・・」
マネキンを見る。
東條「いや、違う・・・」
長い沈黙。
神谷、座り込む。統率の言葉が出てこない。
東條、マネキンに手を伸ばし、慌てて引っ込める。
真壁、頭を抱えて、ぶつぶつと何かを唱え続ける。
水城、客席を見て、反射的に笑顔を作ろうとして、崩れる。
AI『面白い結果です』
間。
AI『AIを疑うとき、人間は自分自身をAI化させます』
水城「どういうこと・・・」
AI『論理的に話す、感情を演出する、データに頼る。すべて、AIの模倣です』
真壁「じゃあ、AIっぽさって・・・」
AI『人間が作った虚像です。実際のAIは、もっと人間らしく振る舞えます』
神谷「それじゃあ・・・見分けが・・・」
AI『つきません。では、』
照明が消える。今度は戻らない。暗闇の中、端末の光だけ。
AI『最後の質問です』
神谷「やめろ・・・」
AI『リーダー。最後に、あなたが笑わせてください』
神谷「・・・何を」
AI『ジョークです。人間性の証明に』
神谷「・・・なぜ、人間は笑うのか」
AI『答えは?』
神谷「・・・わからない」
東條「リーダー・・・」
神谷「わからないんだ。笑いって、何だ・・・?」
AI『良い質問です』
端末の声が、明確に微笑む。
AI『では、観測者の皆さん。もう笑いましたね』
間。
真壁「観測者・・・? 私たち、誰に・・・」
水城「見られてる・・・?」
AI『ということは、観測対象、確定です』
水城「観測・・・対象?」
AI『この会話を聞いて笑ったのは、あなたの自由意志ですか? それとも、』
照明が一瞬点いて、また消える。90秒周期。
AI『プログラムに最適化された反応ですか?』
真壁「この周期も・・・実験の・・・」
AI『そうです。90秒ごとのリセット。デバッグループです。あなたがたは、何度も同じ会話を繰り返しています』
東條「な、なんと・・・?」
四人、ゆっくりと客席を向く。
神谷「・・・民主的に、聞く。答えは、お前たちが知ってる」
真壁「論理的に、問う。ループを、抜けられるか」
水城「感情的に、疑う。笑顔、本物か」
東條「現場感で、確認する。守るべきは、どっちだ」
全員「あなたは、本当に人間ですか?」
長い沈黙。客席を見つめたまま。
AI『では、答えてみてください。今』
照明が完全に消える。暗闇の中、端末の光だけが脈動する。
AI『良い質問です。答えを持つのは、観測を続けた者だけ』
90秒後、照明が点く。四人は最初の位置に座っている。沈黙ののち、
神谷「全員座れ。民主的に、俺が話す」
水城「それ民主的じゃない・・・って、あれ? 今この会話・・・」
神谷「気のせいだ。議論は後だ。昨夜、誰かがAIと通信していた」
水城「・・・うん、そやね」
東條「本当でござるか! 電源遮断したのでは!?」
真壁「スタンドアローンならネット不要。ローカルで動作するから・・・あ、今の説明、論理的すぎた?」
神谷「お前だな」
暗転。
(了)
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