コント台本『オリジナルライアー』作:第三字宙

コント台本『オリジナルライアー』作:第三字宙

2025-11-09

登場人物3名、上演想定約8分(約2967文字)

登場人物:

  1. 田中(山田に憧れるサラリーマン)
  2. 佐藤(田中の同僚、やや懐疑的)
  3. 木村(人事部。冷静沈着)

オフィスの休憩室。佐藤がいる。田中が入ってくる。

田中「(興奮気味に)佐藤さん、聞いてくださいよ! うちの部署に配属された新人の山田君、すごいんですよ!」
佐藤「ほう、何がすごいんです?」
田中「彼、オリジナルライアーなんですよ!」
佐藤「・・・は? オリジナル・・・ライアー?」
田中「そうです! 本物の嘘つき。正真正銘、先発の虚言者です!」
佐藤「いや、それ褒めてないでしょ・・・」
田中「いやいや、今どき珍しいんですよ。最近のみんなジェネリックライアーばかりじゃないですか」
佐藤「ジェネリック・・・ライアー?」
田中「今の嘘ってSNSからのコピーばっかりですよ。もしくはAIに書かせたような・・・」
佐藤「あぁ、使い回しの言い訳、ってやつですか」
田中「でしょう? 「電車が遅延して」「祖母が危篤で」「スマホの充電が切れて」・・・もう聞き飽きたオルタナティブエクスキューズばっかり」
佐藤「オルタナティブ・・・エクスキューズ・・・」
田中「でも山田君は違う! ブランド品レベルの嘘です。先発医薬品レベルの創作性!」
佐藤「(呆れて)いや、だから褒めてないでしょそれ・・・」
田中「昨日、カラスが僕の靴を持って巣を作ってて・・・それで遅刻ですって!」
佐藤「予備の靴はどうしたんです?」
田中「そこが嘘の質の違いってやつで」」
佐藤「嘘の質・・・?」
田中「そう! オーセンティックな嘘! 一次創作の虚言! 真正の本流ライアーの仕事です!」
佐藤「(ため息)田中さん、それ、人事に報告した方が・・・」
田中「先週は”満月の影響で体が軽くなりすぎて、会社まで飛んできたら通り過ぎちゃった”って」
佐藤「もはやメルヘンですね」
田中「そう! メインストリームライアーじゃなく、かといってサブカル系のホラ吹きでもない。彼は・・・彼こそが、根源的な虚言の体現者!」
佐藤「田中さん、今の話全部、田中さんの嘘じゃ・・・?」
田中「・・・え?」
佐藤「この部署、新人、配属されてませんよね?」
田中「・・・あ」
佐藤「まさか田中さん、自分がオリジナルライアーだったとか?」
田中「・・・実は、僕が先発虚言者だったんです」
佐藤「もう帰っていいですか?」
田中「待ってください! 「山田君が嘘」っていうのも嘘で、実は本当に山田君はいて・・・」
佐藤「もういいです!!」佐藤、立ち去ろうとするが、そこへ木村がコーヒーを持って入ってくる」木村「あれ、なんだか騒がしいですね。何の話ですか?」
田中「あ、木村さん! ちょうどいいところに! 山田君の話を、」
木村「山田君?」
田中「木村さん、人事システムで確認してもらえますか? 山田っていう新人、本当にいるのか。佐藤さん知りたいでしょう?」
佐藤「いえ、別に」
木村「(スマホを操作しながら)・・・ああ、山田さん・・・入社3ヶ月目ですね」
田中「ほら! やっぱりいたじゃないですか!」
木村「でも変ですね。配属先が「営業二課」になってる。(田中を指して)営業一課ですよね?」
田中「え、営業二課・・・?」
木村「それに、写真見ると・・・」
佐藤「(少し緊張して)何か?」
木村「(スマホを見せながら)これ、佐藤さんじゃないですか?」

間。

田中「・・・は?」
佐藤「(静かに微笑む)・・・あれ、バレちゃいました?」
田中「どういうこと・・・?」
佐藤「(ゆっくりと)田中さん。僕の名前、本当に知ってますか?」
田中「・・・佐藤さん、ですよね?」
佐藤「実は僕、入社3ヶ月の山田ですけど」
木村「(冷静に)なるほど。田中さん、最初から山田さんの名前を間違えてたんですね」
田中「(混乱)でも、君はずっと佐藤として・・・」
山田(佐藤)「訂正しなかっただけです。田中さんが「佐藤さん」って呼ぶから、僕もそのままにしておいた」
木村「(スマホを操作しながら)あ、記録がありますね。田中さんの勤怠申請、先週「満月の影響で浮いた」って」
田中「(小声で)・・・あれは詩的表現で・・・」
木村「その前は「カラスに靴を奪われた」「時空の歪みに巻き込まれた」「夢の中で出社した」・・・これ全部田中さんの申請理由です」
山田(佐藤)「田中さんが僕に話してくれた「山田君の嘘」、実は全部あなた自身の過去の言い訳ですよね?」
田中「(愕然)じゃあ、僕が語っていた「オリジナルライアー山田君」は・・・」
山田(佐藤)「田中さんのイマジナリーフレンドです」
木村「ちなみに田中さんの虚言記録、社内で「虚言文学全集」として回覧されてます」
田中「(崩れ落ちる)うわああああ・・・」
木村「それにしても山田さん、なぜ3ヶ月も名前の訂正をしなかったんですか?」
山田(佐藤)「(静かに微笑む)僕はメタライアーなんです。「嘘つきに見えないこと」が僕の嘘」
木村「なるほど。つまり、あなたは「正直者のふり」をして田中さんの嘘を収集していた」
山田(佐藤)「その通りです」
田中「(震えながら)じゃあ、君が今言ったことも嘘かも・・・?」
山田(佐藤)「さあ、どうでしょうね」
木村「(スマホを見ながら)あれ、変ですね」
田中&山田「え?」
木村「人事システムの「田中」の登録、今消えました」
田中「(恐る恐る)木村さん・・・まさか・・・」
山田(佐藤)「勤務態度が悪いので懲戒免職ですね、御愁傷様です」
木村「山田さん、あなたもですよ?」
山田(佐藤)「え? そんな!?」
木村「あなた方二人とも、最初からいなかったのかもしれません」
山田(佐藤)「(動揺)いや、でも僕たちはここに・・・」
木村「あるいは、僕が三人目の存在を「確認した」こと自体が、新しい嘘なのかもしれません」
田中「(頭を抱える)もう何が本当で何が嘘か・・・」
木村「(静かに微笑みながら、コーヒーを一口飲む)ちなみに私、人事でも総務でもないし、木村でもないんですけど」

間。

山田(佐藤)「・・・え?」
田中「・・・あれ、あなた誰?」

二人、凍りつく。

木村(?)「オーセンティックライアーってやつですね」
山田(佐藤)「オーセンティック・・・?」
木村(?)「「本物らしく見える嘘」です。データも書類も全部本物っぽく作る。それが僕の仕事」
田中「じゃあ、人事システムの記録も・・・」
木村(?)「全部その場で...いや、今見せた記録は元からありましたよ。ただ、どう見せるかは僕が決めてた、というだけで」

沈黙。

山田(佐藤)「(小声で)・・・僕たち、三人とも嘘つきだったんですね」
木村(?)「(穏やかに)いいえ。僕たちは本物の嘘つきです」
田中「本物・・・?」
木村(?)「三人揃って初めて、真実の嘘が完成するんですよ」
山田(佐藤)「真実の...嘘?」
木村(?)「(コーヒーカップを持ち上げ、一口飲もうとして)あ、でも今の話・・・(カップを見て)このコーヒー、実は空っぽなんですけどね」
田中&山田「えっ!?」
木村(?)「嘘です。ちゃんと入ってます(飲む)。・・・でも、これも嘘かもしれませんね」

木村(?)、コーヒーカップを置いて退場。

田中「・・・待って。今の人、本当に木村さん?」
山田(佐藤)「わかりません。でも、僕たちは確かにここにいる」
田中「それも確かじゃないかもしれない」
山田(佐藤)「じゃあ、何が確かなんですか?」
田中「・・・嘘だけが、確かなのかもしれない」

二人、顔を見合わせる。

田中&山田「 (同時に)あれ、あなた誰でしたっけ?」

暗転。
(了)

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