登場人物3名、上演想定約7分(約2482文字)
- 牧田(ストーキングシンセMAKITA。ゆうたの彼女の元ストーカーでシンセサイザーにされた男)
- きらら(路上ライバー。自身を楽器カリンバに改造した求道者)
- 謎の楽器戦士(きららに勝った楽器。マントで全身を覆っていて正体不明)
ゆうた(ゆーくん。牧田が仕える、ミュージシャン志望の男)
天下一楽器大会の会場。ステージ裏。牧田とゆうたがいる。
ゆうた「じゃあ、僕はここで」
牧田「え? 一緒に行かないんですか?」
ゆうた「だって天下一楽器大会なんでしょう? 楽器たちが戦う大会って」
牧田「そ、そうなんですが・・・」
ゆうた「なに? 不安?」
牧田「はい。いや、あの、私一人で戦うことの不安ではなく、ツッコミがいないため、ボケっぱなしになることが怖いのです」
ゆうた「それな。ま、頑張って。どうせ一回戦止まりなんだろうから、気楽にね」
牧田「それが、一回戦は不戦勝なんです」
ゆうた「そうなの?」
牧田「はい、なんでも相手の楽器戦士が景気付けにケーキをたくさん食べて腹痛に」
ゆうた「楽器戦士っていうんだ。人間味あふれるエピソードで心温まるよ」
牧田「そして、次の対戦相手は・・・あのカリンバ女」
ゆうた「きららさんがっ!?」
牧田「先日のリベンジを果たしてきます」
きらら「その必要はないわ・・・」
牧田「カリンバ女!」
ゆうた「きららさん! どうしたんですか? その腕の負傷は?」
きらら「一回戦負けよ。情けないわ、このフォロワー12万人、再生回数は月間300万、月収は80万、企業案件も来てるウチが、一回戦負けだなんて」
牧田「わーはははは! やーいやーい! 負けてやんの! プププ」
きらら「気持ちのいいくらいにゲスね」
牧田「噛ませ犬にかける波形はないぜ!」
ゆうた「恥ずかしくないのか」
きらら「いいの、負けは負け。噛ませ犬は解説に回るわ」
ゆうた「そうですか、僕は観客席で観てます」
ゆうた、退場。
牧田「ま、せいぜい、俺様の音色に圧倒されるんだな! ははははは!」
きらら「あんたも気をつけるんだね。相手の楽器戦士を舐めてると痛い目に遭うわ」
牧田「・・・相手の楽器戦士はどんな奴だ? そいつ強えのか?」
きらら「あっという間に負けたから・・・。相手の能力は未知数よ」
牧田「何もわからない、か」
きらら「怖いの?」
牧田「怖い? バカいうな、わたしが恐れるのはもえみさんに見放されることだ」
きらら「ふふ、忠実な僕(しもべ)ね。じゃああんたは無敵ってこと?」
牧田「観ていればわかる、さ、立ち位置に付くんだな、試合が始まる」
きらら、解説席へ移動。
牧田「ふん。このストーキングシンセサイザー牧田に死角はない。どんな楽器が来ようと、もえみさんの技術が負けることなんてありはしないのだ」
謎の楽器戦士「威勢がいいな、おっさん」
牧田「誰だ?」
謎の楽器戦士「次の対戦相手さ」
牧田「名を名乗れ」
謎の楽器戦士「・・・まだ決まっていない。これから書き進めるうちに次第に明らかになる」
牧田「そうか、書き手の都合だな」
謎の楽器戦士「ま、そういうことだ。せいぜい時間いっぱい引き延ばしてくれよ」
牧田「それはこっちのセリフだ!」
牧田と謎の楽器戦士が位置につく。きらら、解説席から、
きらら「さぁ、始まるわ。天下一楽器大会2回戦、ストーキングシンセサイザー牧田対、謎の楽器戦士・・・。この勝負、相手の設定が決まるかどうかで勝敗が分かれるわね」
牧田「さぁ、そろそろ設定は決まったのか?」
謎の楽器戦士「あぁ、ひとまず、俺は・・・」
謎の楽器戦士、マントを外そうとする、
牧田「待て、ここまで引っ張っておいて、『サラリーマン尺八』とか、『和太鼓僧侶』なんてのじゃぁ引きが弱いぜ。楽器だけにな」
謎の楽器戦士「く・・・。やる気を削ぐ天才だな、中年てやつは」
牧田「伊達に半世紀生きてないんでね。つまらないものは事前に制止しておくのが、苦言を呈するってやつだ」
謎の楽器戦士「そうやっていくつもの芽を潰してきたのだろう。お前は老害だ!」
牧田「ふーっ! はははははっはー! 愉快愉快」
きらら「すごい、どっちが主人公なのかわからないわ」
牧田「余談はここまでにして、さっそく勝負といこうじゃないか。制限時間も迫っている」
謎の楽器戦士「あぁ・・・それでは・・・」
謎の楽器戦士、再びマントを外そうとする、
牧田「まぁ、待て。音楽は戦うものじゃない、奏でるものだ」
謎の楽器戦士「な、なに?」
きらら「なんてこと!? あいつ、ちゃぶ台をひっくり返した! 会議とかでずっと黙ってたのに、最後の最後で傷跡残そうとする中年がよくするムーブ!」
牧田「そうだろう? 音楽は、戦いのためにあるんじゃない、平和のためにあるんだ」
謎の楽器戦士「く・・・、確かに」
きらら「正論だけど、イベントの趣旨を否定してる。強い・・・!」
牧田「だから、私から行かせてもらおう。聞いてください、ジョン・レノンで『イマジン』」
きらら「いけない! ジャスらが来る!」
謎の楽器戦士「おい! 誰かこいつを止めろ! ジャスらが来るぞ!」
牧田、弾こうとするが、背中にキーボードがあるので弾けない。
牧田「く・・・しまった! 背中にあるんだった」
きらら「ほっ、よかった。ヒヤヒヤした」
謎の楽器戦士「危ないところだったぜ」
牧田「・・・仕方ない、アカペラで歌うか」
きらら「誰か、あいつを止めて!」
謎の楽器戦士「・・・仕方がないっ! はっ!」
謎の楽器戦士が牧田にしがみつく。
牧田「なに!?」
謎の楽器戦士「天さん、さよなら」
きらら「チャオズー!!!」
ドカーン。暗転。ゆっくりと明るくなる。謎の楽器戦士は消えている。立っている牧田。
きらら「そんな、なんてこと? あいつ、効いてない」
牧田「雑魚はすぐに自爆しようとする・・・」
きらら「怖い。あいつ怖いわ」
牧田「あの、ジャスらが来るってなんですか?」
きらら「権利団体だよ。オリジナルが作れる者とそうでない者で印象は変わる」
牧田「そうか」
ゆうたが観客席から声を上げる。
ゆうた「牧田、落ち着け! ジャスラックは敵じゃない!」
牧田「オリジナル曲を作るゆうたさんにとっては味方、ということですね? わかっていますよ。それじゃあオリジナル曲をやります」
牧田、演奏を始める。シーン・・・
ゆうた「誰も知らない曲をやってどうする!」
牧田「知らないんですか? これから、知るんですよ。私の名は・・・」
ゆうた「ストーキングシンセサイザー牧田・・・!」
きらら「かっこいんだけど、もう勝負は決まったから終わってください」
暗転。
(電子音ピピッで終わる)
(了)
コントワークショップのお知らせ
コントワークショップ「心は青空、草コント教室」参加者募集中草野球みたいに、コントを趣味で楽しむ教室です。毎回、コントを創作してその時間のうちに披露まで行います。毎回1本、あなたのオリジナルコントが作れます。参加無料(会場費のカンパ歓迎)。

