コント『彼は封筒をしまいライターを拾った』作:第三字宙 約6分(約2400文字)
登場人物:
モノローグ(最初と最後に出てくる)
背広(屋上で何かを目撃してしまう)
アロハシャツ(屋上でタバコを吸いに来たが別の目的がある様子)
モノローグ「僕にとって人生はいつも希望通りだった。順風満帆。第一志望の大学に合格し、在学中にサークルのヒロインとデートをして、就職活動をすれば一流の会社に内定をもらう。自慢話はうんざりだって?まぁ、聞いてほしい。これは、そういった”質素な人生”を歩む僕が、ちょっとだけ足を踏み外した時の話だ。」
ビルの屋上。革靴を手に、縁に立つ男。背広がビル風にはためいている。遠くから、自動車の走る音。時刻は午後5時。遠くの太陽がまだ沈む気配を見せない夏の午後。男が無言のまま、ポケットから封筒を取り出して、屋上の地面に置く。飛ばないように革靴で封筒を抑える。アロハシャツの男が、タバコを手に屋上に現れる。背広の男が封筒を飛ばされないよう革靴の位置を調整しているのを眺める。背広の男は、アロハシャツの男に気づくと、封筒をしまい、革靴を履く。
アロハシャツ「あ、どうぞ続けて。一本、いや二本吸ったら降りますんで。」
背広「いえ。」
アロハシャツ「今日はね、風が強いから、ちょっと紙的なものはね、飛んじゃう、飛んじゃうって言っちゃだめか、なんだ、吹かれちゃうからね。」
背広「いえ、いいんです。」
アロハシャツ「あ、はい。どうも。」
背広の男が歩きだし、入り口で止まる。
背広「あの、今見たことは、できれば、誰にも…。」
アロハシャツ「えぇ、えぇ、はいはい、大丈夫、大丈夫です。」
背広「できれば、忘れて欲しいです。」
アロハシャツ「ええ、大丈夫です、わすれます。」
背広「…。」
アロハシャツの男がライターの火をつける。風が強くて火がつかない。
背広「風が、強い、ですからね。」
アロハシャツ「そう、ん、で、すね。」
ライターの火はつかない。
背広「喫煙所なくなっちゃいましたからね。」
アロハシャツ「え?あぁ、そうそう。ね、だから。」
背広「…。」
アロハシャツ「あの、ちょっと…(と手招き)。」
背広「はい。」
背広の男が風をよける壁になってやり、アロハシャツの男は無事にライターの火をつけることができた。
アロハシャツ「はは、どうも。」
背広「いえ、どうも。」
アロハシャツの男が一息吸うと、煙が風に飛ばされる。
アロハシャツ「ここもね、禁煙なんだけどね。」
背広「えぇ、立ち入り禁止ですから。」
アロハシャツ「だから誰も来ないからね。」
背広「えぇ、誰も来ないはずなのに。」
アロハシャツ「来ちゃいました。」
背広「来ちゃいましたね。」
アロハシャツ「…どうですか?」
アロハシャツの男、タバコを差し出す。
背広「あ、すいません。」
アロハシャツ「あ、吸わない。」
背広「あ、吸います。普段は吸わないんですが、すいません、吸います。」
アロハシャツ「え?ん?」
背広「…やっぱりいいです。」
背広の男が立ち去ろうとする。
アロハシャツ「あ、なんか二回も邪魔しちゃった形になっちゃって、すいません。」
背広「いえ、こちらこそすいません。」
アロハシャツ「なんか、こういう状況って、ドラマならなんかお互いの事情とか話したりするんでしょうけど。」
背広「いえ、いえ、忘れてください。」
アロハシャツ「大丈夫、大丈夫です。吸ったら降りますんで。そしたら忘れてますから。」
背広「では。」
アロハシャツ「あ、はい。」
背広の男がいなくなる。上空から巨大なUFOが降りてきて、ビルのギリギリのところで停止する。ビルの屋上が影に包まれる。アロハシャツの男は、UFOに手を振り、合図を送る。UFOから箱のような何かがゆっくりと降りてくる。
風に揺られて、その何かの箱は右へ左へと揺れている。アロハシャツの男は、箱に合わせて動き、ついに屋上の縁にたどり着く。背広の男がいつのまにか入り口に立っている。
背広「あの、やっぱり1本もらっていいですか?え?」
背広の男がUFOを確認する。
アロハシャツ「え?あっ…。」
アロハシャツの男が足をすべらせ、ビルから落ちる。
背広「あ…。」
アロハシャツの男がいた場所には、何かの箱と、ライターが一個落ちている。背広の男は、縁に近づき、下を見る。
下の方では人が集まっている様子、その中心にあるものに目をこらしている。
背広「やっちゃった〜。」
背広の男がライターを拾う。UFOが何かの箱を残して去っていく。背広の男は、UFOと箱を交互に見る。縁から下を除き、下の状況を確認する。
背広「どこの人だったんだろう。」
ポケットから封筒を取り出して、封筒から便箋を取り出す。
背広「使い回せるかな。」
何度か便箋を見ている。
背広「消せば…。」
便箋の名前の部分をちぎり、もともとそういう状態だったかのように便箋を整え封筒に戻し、箱の下に封筒を収める。
背広「あれ…。」
UFOが飛んでいった方向を見ている。そして箱に目を移す。
背広「ここでなにか、受け取るつもりで。」
背広の男、縁から下を見て、箱を見る。屋上から出ていこうとするが、箱が気になり戻ってくる。長い無言の間。箱を見つめ、開けようと動き出す。なかなか開け口が見つからないため、しばらく奮闘している。ようやく箱が開く。 箱からタバコがたくさん出てくる。背広の男はポケットからライターを取り出し、タバコを吸い始める。
モノローグ「っていうことがありまして、僕はその時、別のビルでその一部始終を見ていたのだけど、人が屋上から落ちる瞬間にビックリして、踊り場の階段を踏み外してしまったんです。・・・いや、UFOにもビックリしましたけどね。それよりも、この話の教訓は、タバコは体に悪いからやめたほうが良い、ってことです。だからUFOがタバコを積んで持ってきたのは、人間にタバコを輸入してたんじゃないかってことで、え?長い?興ざめ?でも、そうでも理由つけないと、いつまでも落ち着かなくって、希望通りの生き方でなくなってしまうから。」
(了)
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