「一万八獣(十)紛騒譚」 作:第三字宙
「願い叶う街」を舞台に、思惑交錯する神話的群像劇。
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あらすじ
1935年、復興記念横浜大博覧会。生きた鯨を展示する「生鯨館」は、多くの観覧客で賑わっている。鯨はそんな人々を観ている。時は移り、願いが叶う街と呼ばれる「寝横街」。人気配信者・伊達カレンを探す少女ミオ、過去に傷を負った男・降衣一輝、そして彼らを取り巻く個性豊かな住人たち。この街で次々と起こる「レン」と呼ばれる人物の連続殺人、そして「人が分裂する」怪現象。それぞれの思惑が分断し、交差するこの街で、彼らは何を見て、何を選ぶのか──。鯨とともに始まる、もうひとつの神話の物語。
登場人物 約21名+アンサンブル。(一人複役兼ねることも可)
【研究者】
三寺 男。三寺半次郎 みつでらはんじろう。研究者。
志乃 女。川上志乃 かわかみしの。三寺半次郎の助手。
【観光】
ガイド 女。バスガイド。観光客を街に連れてくる。
ミオ 女。澪。寝横街で伊達カレンを探す。
カレン 女。伊達カレン だてかれん。ミオが探す人物。
【スナック・薄暮】
ママ 女。かわかみえりこ。スナック・薄暮の店主。
蛇六郎 男。へびろくろう。ファンボーイズ。
鳥十郎 男。とうじゅろう。ファンボーイズ。
犬士郎 男。けんしろう。ファンボーイズ。
【降衣組】
一輝 男。降衣一輝 ふるいかずき。組から絶縁された若者。
姐御 女。あねご。降衣組長の妻。降衣ヨウコ。
黒岩 男。黒岩健三 くろいわけんぞう。組の次期組長候補。
石原 男。石原秀樹 いしはらひでき。組の若頭補佐。
笙野 男。笙野ヤスシ しょうのやすし。組の本部長。
【寝横街の住民】
虚無 男。きょむ。広場の占い師。そして情報屋。
バーテン 男。枡田馬天。ますだばてん。「深紅の檻」の店主。
ツォヴェ 男。裏組織「乱破団」のリーダー。
西郷 男。西郷蓮実 さいごうはすみ。寝横街の表の権力者。
レン 女。霧の館、落下傘、古書店の三箇所にいる。
【異星人】
ジルル 性別不問。他の銀河から来た緑の異星人。
モリリ 性別不問。他の銀河から来た赤の異星人。
【アンサンブル】
観光客
乱破団メンバー
西郷応援団
【言及のみ】
降衣組長 男。降衣権三。故人。降衣組の元最高責任者。
時代設定(2つの時代を描くが、主は、現在進行形とする。)
回想:昭和10年(1935年)4月から5月
現在:昭和100年(2025年)12月・上演時期に合わせて構わない。
場所一覧(6箇所)
1・山下公園、2・寝横街の広場、3・スナック薄暮、4・スナック薄暮の地下(過去・研究室)、5・深紅の檻、6・乱破団のアジト
戯曲本編
○イントロダクション・山下公園前・生鯨館
空間に「47304000」の表示、これは約90年前を分に直した数字。時代は1935年(昭和10年)、場所は関東大震災 復興記念 横浜大博覧会。生け簀(いけす)に展示されている鯨。それを見ている人々。三寺半次郎(みつでらはんじろう)が鯨を見ている。その隣で手を合わせている三寺の助手・川上志乃(かわかみしの)。
三寺「(志乃の仕草に気づき)志乃、何をしている?」
志乃「鯨は、神様の使いだって言われていたから。」
三寺「神の使いか…。それも、やがて我々の手の中だ。」
志乃「…本当に、いいのかしら。」
三寺「いいに決まってる。未来を変えられるんだ。」
志乃「三寺さん、あなたは、命を道具として扱っているように見える。」
三寺「道具? この展示だって同じことだろう?」
鯨、静かに目を開ける。その目は何かを語るかのよう。以下、観覧客の声の群像。順に、舞台空間を横切るように響く。
「魔法が使えたらいいな」
「家族が笑って過ごせますように」
「兄貴みてぇに、任侠に生きる漢になりてぇ」
「楽しく毎日過ごせますように」
「宇宙人っているのかな」
様々な願望が鯨に静かに吸い込まれていく。やがて鯨は空へと泳ぎ出す。幻想的な浮遊感の中でオープニングが幕を開ける。可能なら、登場人物が全員出演し、オープニングタイトル表示。「一万八獣(十)紛騒譚」
一部(Part)
○寝横街の広場(1日目・ミオ)
「47304000」が高速に減り「10080」と表示。1週間=「1日=1440分」×7日を表し、以降1日毎に減っていく様子が繰り返される。
広場に、西郷応援団、降衣姐御(ふるいのあねご)、路上占い師・虚無(きょむ)がいる。上手隅に花に手を合わせる姐御、下手隅に路上占い師。西郷応援団は、西郷の写真と「昭和100年! 戦後80年! 寝横街を特別自治区へ!」と描かれたプラカードを持ち、「寝横街を独立自治区へ!」「西郷蓮実、さいごうはすみ、でございます!」と呼び掛け。
スライド表示。「一部(Part)」
劇場の扉開き、派手な制服を着て旗を持つバスガイドが、観光客を引き連れやって来る。良きところでバスガイド発話。
ガイド「はーい。ここ寝横街は、独自に発展した特別自治区。連合国の租借地(そしゃくち)です。あ、パスポートはお持ちですか?」
観光客たち「はーい!(と、観客が受付でもらった物と同じチケットを掲げる)」
ガイド「はーい、大丈夫ですね。この街は、願い叶う街とも呼ばれています。実際に叶った方もいるとか、いないとか…!」
観光客が口々に
「あんた、お願い、何にする?」
「何を叶えてもらおうかな」
「知り合いが叶ったらしい」
ガイド「くれぐれも帰りのバスに乗り遅れないようにしてくださいね。では、参りましょう。みなさん、ついてきてくださーい。」
と、ガイド一行が去る。一人背中を見せるミオが残り、振り返る。
ミオ「本当に着いちゃったよ寝横街…! ここにあの人がいる。伊達カレンがいる!」
と、ケレン味たっぷりに街を見回す。スライド表示「ミオ MIO」。ミオが、ノートをみながら、ウロウロしている。そこに、逃げるように走ってきた、落下傘のレンがぶつかる。
ミオ「痛っ! どこ見てんのっ!」
落下傘のレン「どいてくれ!」
ミオ「(睨みながら、気付き)!? だ、伊達カレンっ!!」
落下傘のレン 「は?」
ミオ 「あああのぉ…、ど、動画配信者の、だだだ、伊達カレンさんですよね?」
落下傘のレン「だてかれん? 違うよ。私は落下傘のレン。」
ミオ「レン? またまた、伊達カレンさんですよね?!」
落下傘のレン「だから、違うったら! …あっ!!」
乱破団(らっぱだん)現れ、ミオを押しのけ落下傘のレンを囲む。姐御がミオの手を引く。
姐御「見ちゃダメだ。」
ミオ「わっ、え?」
落下傘のレンの声「わっ、あ、あ、あぁぁっっ…」
悲鳴途絶え、乱破団の囲みが開かれ、落下傘のレンが倒れている。いつの間にか、西郷応援団は消えている。
ミオ「え? え? え?…」
ツォヴェ現れ。
ツォヴェ「血、出てないか? (レンを覗き込み)…よし、死んだ。」
ミオ「ぇぇぇっ…!」
姐御「見るな…。」
ツォヴェ「(周囲を見回して)…運べ(角笛を吹く)」
乱破団とツォヴェ、落下傘のレンの死体を運び去る。
姐御「…あんた観光客だろ? バスガイドから離れちゃダメだ。」
ミオ「あ、あれ、し、し、しししし、」
姐御「落ち着いてよく聞いて。さっきの輩は乱破団。見かけたら逃げること。」
ミオ「なんで…、見ないふりするんですか? 警察は?」
姐御「…ここは外と違う。願い叶うなんて言葉に釣られて観光に来るが、命あっての物種だ。叶えたいことがあるのかい?」
ミオ「えぇ、まぁ…」
姐御「叶えたいことがあってもグズグズしてると危険だよ。来て帰るのが観光さ。早いとこ、ツアーに戻るんだね。それじゃ。」
事情ありげに姐御が走って去る。
ミオ「あの! ど、どど、どうすれば?」
人通り無く、不穏な空気に包まれ、周囲を見渡すミオ。路上占い師が離れた所から声を掛ける。
占い師「…お困りかな?」
ミオ「ひゃあぁーっっ!」
占い師「害はない、大丈夫。…あまりのパニック状態に見かねたもんだから、」
ミオ「困ってます…。ていうかっ! さっきの…見ました?」
占い師「毎日、見てる。」
ミオ「けいさつっ、警察に通報しなきゃっ!」
占い師「この街で仕事してる警察を見た事がない。」
ミオ「なっ! …なんなんですか、この街、」
占い師「寝横街。願い叶う街と言われている。」
ミオ「知ってます! 願いが叶うどころか、あんな…」
占い師「俺は、よく当たる占い師だ。錯乱を鎮めることができるだろう。ほら、顔を、よく見せて…。」
ミオ、恐る恐る近づき、占い師が鑑定し始めるものの…、
占い師「むぅ。…見えづらい。」
ミオ「見えづらい?(もっと近づく)」
占い師「近い近い! そうじゃない。…街の人間の未来はハッキリ見えるが、あんたは曇ってるんだ。この街に、何しに来た?」
ミオ「…人を探しています。」
占い師「(占いながら)…ここにいるとしても…、もう街の一部になっているだろう。」
ミオ「街の一部? それってどういう…?」
占い師「ここじゃ、自分が誰かも、何を願うかさえも見失って、街の一部になる。」
ミオ「…迷わせますね、占いなのに。」
占い師「示しても、迷うのが人間だ。」
ミオ、うんざりし、離れる。
占い師「まずは街を知るといい。…酒場に行ってみな(と、酒場がある方を指す)」
ミオ「酒場…。やっと、まともなことを教えてくれましたね(と、去る)」
占い師「…おいっ、金っ!」
と、占い師を残し、ミオが街の奥と歩いて行く。
○スナック・薄暮(1日目・薄暮と邂逅)
(※空間の想定:上手に出入口ドア。真ん中に棚ごと移動できる酒棚、その手前にL字型のカウンター席、丸椅子が数脚。下手にソファとローテーブル、の背後は店の奥へと繋がる。)
店内は、日没前後のような紫から橙が混在する色合い。カウンター席に突っ伏して寝ている人物(ジルル)。ミオが、様子を伺い、ゆっくりと入って来る。
ミオ「…すいません─。一人ですけど。」
反応がない。ミオ、仕方なく黙って待つ。手持ち無沙汰で、店に置いてある箱型マッチを手に取る。
ミオ「(マッチの店名を読みあげ)スナック・薄暮。(箱を振り)空だ。カラカラ、」
ジルル「カラカラ、デス、喉が…」
と、ジルルが起き上がる。顔はまだ客席からは見えない。
ミオ「お店、やってます?」
ジルル「うぅ…もう飲めまセェーン…」
ジルル、振り返り顔が見える、その顔は緑色。
ミオ「! 顔色悪いですよ。」
ジルル「ワタクシの顔、何色ですか?」
ミオ「緑緑。」
ジルル「なら、顔色良いデス。」
と、店のママ・川上エリコ(かわかみえりこ)が奥からやってくる。
ママ「いらっしゃい。」
ミオ「お店の人ですか? お尋ねしたいことが…」
ママ「道を聞くなら交番じゃない?」
ミオ「もちろん、お酒は頼みます、」
ママ「それなら結構っ…て冗談よ。観光の人でしょう? ツアーからはぐれちゃったの?」
ミオ「込み入った事情…で。それより、この人…(と、ジルルを指し)」
ジルル「ママ、お水をくだサイ…」
ママ「はいはい。(ミオに)なんて呼べばいい?」
ミオ「呼ぶ?」
ママ「だって、『お客さん』ってんじゃ、味気ないじゃない。」
ミオ「…みお。…だて、伊達ミオです。」
ママ「ミオちゃんね! よろしく(握手)」
ミオ「…はい。」
ママ「場末の店はどこも距離が近いの。他と違うウチの売りはね、魔女がいるってこと。」
ミオ「魔女って、この人?(ジルルを指して)」
ジルル「ワタクシはジルル、異星人デス。魔女はママ、」
ミオ「はぁ?」
ママ「改めまして、魔女やってます、この店のママです。」
ミオ「はい?」
スライド表示。「ママ MAMA」「ジルル JIRURU」。
ママ「はい(と、ジルルに水を差し出す)」
ジルル、水をグイっと飲んで。
ジルル「ハァ。お水、美味しいデス! どうして地球人はお酒なんか飲むんでショウ、実に不可解デス。」
ママ「スナックを否定されちゃった(笑い)。ミオちゃんは何飲む?」
ミオ「え? えーと…何飲もうかな…」
と、陽気なサウンドにのって老人3人が現れる。革ジャンの蛇六郎(へびろくろう)、アロハシャツに毛皮のコートの鳥十郎(ちょうじゅろう)、犬のプリントがされたセーターの犬士郎(けんしろう)。
ママ「来たね、ファンボーイズ、」
ミオ「ふぁん、ぼーいず?」
ジルル「陽気な三つ子の老人デス。」
スライド表示。「ファンボーイズ FUNBOYS(鳥十郎 TOJYURO /犬士郎 KENSHIRO /蛇六郎 HEBIROKURO)」。
鳥十郎「アンタ! 見ねぇ顔っちょ!」
犬士郎「クンクン。匂う、匂うけん。こいつぁは他所モンだわ!」
ママ「今日デビューの子に絡まないで。」
蛇六郎「ママ、ワシらはいつもの。それと、デビュー祝いに一杯ごちそうじゃ。」
ママ「ぁいよ、」
ミオ「いやいや! 知らない人に、奢られるわけには、」
ママ「まぁまぁ、いいじゃないの。何飲む?」
ミオ「じゃあ、焼酎お茶割り、」
鳥・犬・蛇「おぉ渋い! ギャハハハハ!」
鳥十郎「オイラ、鳥十郎! こいつら犬士郎、蛇六郎!」
ミオ「伊達、ミオです。」
ママ「はい、焼酎お茶割り。こっちはいつもの(とそれぞれに配りながら)」
蛇六郎「さぁさ、(と全員がグラスを持つのを確認し)ようこそ、寝横街のスナック薄暮へ…」
鳥・犬・蛇「カンパーイ!」
ミオ「いただきます…」
鳥・犬・蛇「グハーッ! …ハァ(と、ため息)」
鳥十郎「あぁ…。街が、変わっていく気配がするっちょ。」
犬士郎「んだ。変わっちまったら、ワイら、行き場がないけん。」
蛇六郎「このまま酒飲んでいられるのも、あとどれくらいかのう。」
ジルル「陰気指数を感知しまマシタ。らしくないデス。」
ママ「たしかに…。街が変わっていっている。観光客が来るたびに…」
ミオ「…ご迷惑でしたか?」
ママ「ごめん、そういう意味じゃなくて。」
鳥十郎「オイラは、毎日同じことを繰り返していられりゃいいっちょ。」
犬士郎「んだ。クジラ様にそう、お願いしてみるわ。」
ミオ「クジラ様?」
蛇六郎「この街の民話じゃ。クジラ様に願えば叶うっつう。昔、このあたりにも鯨がおったっていう話から来てるんじゃろう。」
ミオ「クジラ様が願いを叶えてくれる…」
ママ「ミオちゃんだったら、何をお願いする?」
ミオ「…会いたい人がいるんです。」
ママ「その人に会うのが、願い?」
ミオ「はい。だから…酒場に来たら、街のことがわかるって、」
鳥十郎「そう! この店は情報の掃き溜めっちょ。」
犬士郎「噂話が集まって、」
鳥十郎「飲んで、」
犬士郎「騒いで、」
蛇六郎「そんでぇ…」
鳥・犬・蛇「吐・い・ち・ま・うっ! ギャハハハハ!」
ママ「人探しなら、クジラ様にお願いしなくてもよさそうね?」
ミオ「だといいんですけど、」
蛇六郎「伊達ぇミオ…ちゃん、じゃったかな。探してるってのはどんな人なんじゃ?」
ミオ「男性です。名前は…伊達カレン。」
ママとジルルが顔を見合わす。
鳥十郎「だてかれん?」
蛇六郎「ミオちゃんの家族かなんかじゃろ?」
ミオ「(言い淀み)…そうです。兄。兄です。年は…二十八、九くらい、長い髪で目つきが鋭くて。…この店に来てたりしていませんかね?」
犬士郎「クンクン…。酒場にはいろんな客がいるけん。男も女もその他も、」
ジルル「その他って誰デスカ?」
鳥十郎「(指で頭トントン)伊達カレン、伊達カレン…」
蛇六郎「ん…。すまんが、そういう名前の男は聞いたことないんじゃ、」
ミオ「そうですか…」
犬士郎「けどよ、一つアテがあるわ、“虚無” がいるけん。」
鳥十郎「そうカー! 情報通で、街のことなら、なんでも知っちょる奴、」
蛇六郎「虚無! たしかにアイツに聞けば、わかるやもしれん。」
ママ「(不機嫌そうに)虚無ねぇ…、」
ミオ「キョム? 誰ですか?」
犬士郎「この店が情報の掃き溜めなら、アイツは情報の保管庫。」
蛇六郎「この街のことは、なぁんでも、アイツの頭ん中にファイルされてるんじゃ。」
ミオ「その人は、どこに?」
ママ「さぁ? うちは出入り禁止にしてるから。」
犬士郎「クンクン、雨だ。」
サーっと雨が降る音と共に、虚無が現れる。
ママ「噂をすれば…」
鳥・犬・蛇「虚無!」
スライド表示。「虚無 KYOMU」。
虚無「夕立だ。雨宿りさせてくれ。(ミオに気付き)おぉ、薄暮に来てたのか、」
ミオ「広場の! 人を迷わす占い師、」
蛇六郎「すでに顔見知りじゃったか、」
ママ「出入り禁止って言ったはずだけど?」
虚無「ママ、この子の奢りで一杯。」
ミオ「なんで!?」
虚無「占い代。さっき踏み倒された。」
ジルル「踏み倒しは、よくないデス。」
ミオ「うう…」
虚無「一杯奢ってくれたら、この街の情報をやろう。雨が止むまで。」
ミオ「うう…。…はい…お願いします。」
ママ「やれやれ…(と酒を作って虚無に出す)」
虚無「(受け取って一口)何が知りたい?」
ミオ「伊達カレンっていう男性のこと、知ってたら教えて欲しい。特徴は長い髪で、」
虚無「(言葉を遮るように)カレン? …人探しだったな。それがカレンって『男』なのか? 」
ミオ「そう。この街に来て以降、消息不明…」
虚無「(考えながらグラスを回している)カレンね…。」
ミオ「! 知ってるんですか?」
虚無「いや、」
ミオ「なんだ…」
虚無「だが、伊達カレンではなく『レン』 。そう呼ばれる人間なら、」
ミオ「レン? レン…。偽名使ってるのかな、」
虚無「一人目は『落下傘』のディーラー。二人目は『古書店アゲハ』の店員。そして三人目は『霧の館』のホームレス。レンはこの街に三人いる。」
ミオ「…また迷わせる。」
虚無「いや…。『三人いた』というのが正しいか。…『落下傘』のディーラーは、さっき広場で乱破団にやられ、残りは二人になった。」
ミオ「あの人が、三人のレン?!」
鳥十郎「また乱破団カーっ!」
犬士郎「白昼堂々、なんて奴らだわ。」
ママ「誰か止められないの?」
蛇六郎「降衣組の親分がやられてから、無法地帯じゃ。」
突然、ツォヴェと乱破団が入って来る。
ママ「! ツォヴェ、」
店内に緊張の間。各々が手近な道具で身構えている。
ツォヴェ「虚無を探してる。」
スライド表示。「ツォヴェ TSOVE」。
ツォヴェ「隠すなら暴く。(角笛を吹こうとする)」
ママ「ちょっと、やめて。」
虚無「待て! ママを困らせるな。…虚無はここにいる。」
ツォヴェ「いたか。ここは狭い、外で話そう。」
乱破団に強引に連れ出される虚無。次第に落ち着いていく店内。
ママ「『トラブルあるところ虚無あり』…だから出入り禁止。…どうしたの?」
ミオ「胸騒ぎがして…。すいません、お金はあとで払いますからっ!」
と、ミオが出ていく。
ママ「やだ、追いかける気だわ。ファンボーイズ! 守ってあげて!」
鳥・犬・蛇「ガッテンだ!」
ファンボーイズが急いで外へ向かって走る。
○寝横街の広場(1日目・二人目のレン)
虚無が、廃墟となった建物『霧の館』の前にいる。
虚無「…レン、いるか? レン…。 レン…。 レン…。(と、繰り返し)」
ミオとファンボーイズが現れる。
ミオ「虚無、」
虚無「! お前達、なんで来た。」
鳥十郎「おりょ? 乱破団がいないっちょ。」
蛇六郎「様子がおかしい…。犬士郎、匂いは?」
犬士郎「クンクン…」
と、バリケードを外すような音がして、建物から『霧の館のレン』が出てくる。
霧の館のレン「虚無どうした? 隠れてろって言ってたのに。」
ミオ「! 伊達カレンさんですか?」
霧の館のレン「伊達カレン? 違う、うちは霧の館のレンだけど…。虚無、この子、誰?」
虚無「…逃げろっ!」
霧の館のレン「え?」
と、乱破団とツォヴェが現れる。
犬士郎「乱破団、やっぱり隠れてたわ!」
霧の館のレン「どういことだ虚無?!」
虚無「すまんっ…!」
ツォヴェ「邪魔を連れてきた時はどうしようかと思ったが…、まぁいい。レン、抵抗するな。」
霧の館のレン「ツォヴェっ! なんでレンを殺して回ってんだ?」
ツォヴェ「街を牛耳るためだ。わかるだろ?」
霧の館のレン「あいつの言いなりか。」
ツォヴェ「黙れっ! …武器の調達は世話になったが、まぁ、潮時ってやつだ。」
霧の館のレン「用がすんで使い捨てか…。」
ツォヴェ「昔のよしみだ。楽に、苦しまない方法がある。血を流さなくてすむ。」
霧の館のレン「…くそっ!」
と、霧の館のレン、建物の中に入り、階を登っていく。
ツォヴェ「な!? お、追えっ! 追えっ!(と角笛を吹く)」
乱破団が建物に入ると、殴打音や罠の音がして、乱破団達の悲鳴が聞こえる。
ツォヴェ「トラップ仕掛けてやがったか。次、行け!(と角笛を吹く)」
と、次の乱破団が建物に入る。建物の上部に霧の館のレンが姿を現す。
霧の館のレン「お前らには絶対にやられないっ!」
と、シャツを開き、腹にまいたダイナマイト的な爆発物を見せる。
ミオ「なに、あれ…?」
虚無「下がれ! 爆弾だっ!」
と、建物の上階が爆発し、その場にいる全員が、突然の衝撃で倒れる。
全員「ぶわあぁっ!」
炎に包まれた建物。
ツォヴェ「あいつ、自分で…。」
建物の一部が崩れ落ちる。
鳥・犬・蛇「危ないっ!」
と、ミオを庇う虚無。しばし、呆然する全員。ようやく、
ツォヴェ「ちっ。派手にやりやがって。まぁいい。残るレンは、あと一人…! 行くぞ!(と角笛を吹く)」
乱破団とツォヴェ、去る。
虚無「…怪我はないか?」
ミオ「うん…なんとか。なんでこんな事に─(と、気絶する)」
鳥・犬・蛇「ミオちゃんっ!」
四人、気絶したミオを担いでその場を離れる。背後では、燃え盛る炎が夜空を赤く染める。日が変わっていく転換中に、広場を片付ける街の住民の姿、次のシーンのバスガイドたちの声が先行して聞こえてくる。
(つづく)
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