コント『目的不在〜概念たちの秘密基地〜』 作:第三字宙 約8分(約3300文字)
登場人物:
推測(早口。語尾「〜んだ」「〜と思う」。断定的だがすぐ揺らぐ)
達成(体育会系。語尾「〜ぜ」「〜だろ」。常に動きたがる)
目標(優等生的。語尾「〜です」「〜ですから」)
現状(冷静。語尾「〜ね」「〜だよ」。手帳を持つ)
事実(無口。短い一言。動かない)
相違(理屈っぽい。語尾「〜でしょ」「〜じゃない?」)
目的(落ち着いた口調。語尾「〜から」)
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矛盾(ゆったり。語尾「〜だけどね」「〜なんだよね」。両義的な動き)=事実
可能性(軽やか。語尾「〜かも」「〜じゃん」)=推測
気付き(静かに観察。語尾「・・・ああ」「そうか」)=現状
秘密基地。机と椅子が複数。推測が息を切らせて駆け込んでくる。
推測「大変だ! 達成!」
達成が筋トレをしながら立ち上がる。
達成「どうした推測?」
推測「目的がいないんだ!」
達成「ん? 誰がいない?」
推測「目的が! いないんだよ!」
達成「筋トレ中断していいレベルの話か?」
推測「めちゃくちゃしていいレベル!」
達成「とんでもないな! なにがどうした?」
推測「秘密基地に来たら、目的がどこにもいないんだ・・・。失踪の仕業だと思う!」
達成「誰だよ失踪って?」
目標がうろたえている。
目標「ちょっと待ってください・・・目的がいないと、私、立ってられないんです・・・」
達成「目標、どうした?」
目標「だって私、目的に向かって進むものですから・・・このままだと、私が消えそう」
達成「それは困る! 俺だって、達成するには目標が必要だよ」
推測「とにかく失踪が怪しいと思う!」
達成「で、その失踪ってやつはどこにいんだよ!」
推測「それは・・・わかんない・・・」
達成「お前、何がわかるんだよ!」
推測「わかんないよ、俺、推測だし!」
達成が腕立て伏せで気を紛らわそうとする。現状が手帳を開きながら落ち着いて登場する。
現状「お困りのようだな」
達成「現状、いたのか!」
現状「・・・まず、現状を整理しよう、点呼」
達成が腕立て伏せをしながら。
達成「達成!」
目標「目標・・・」
推測「推測・・・でいいの?」
現状「事実は?」
間。事実が壁にもたれたまま。
事実「・・・ここ」
現状「よし。で、目的がいない、としたのはどうして?」
推測「見た感じだ! あと失踪が怪しいと思う!」
事実「その理由は?」
推測「俺の勘!」
達成「それ推測じゃねぇか!」
推測「だから俺、推測だって!」
達成「知ってるよ!」
現状がため息をつく。相違が現れる。話し方が理屈っぽい。
相違「でも、ちょっと待って!」
現状「お前は・・・」
全員「相違!」
相違「そもそも『いない』の定義が曖昧じゃない?」
目標「いや、物理的不在と概念的不在は分けて考えるべきですから・・・」
達成「おい! 議論してる場合か! 動こうぜ!」
達成がその場でジャンプを始める。
現状「どこに?」
達成「・・・え?」
現状「目的がないのに、どこに動くの?」
達成「・・・」
達成が動きを止める。
達成「・・・あ」
推測「でも何かしないとダメだと思う!」
事実「根拠は?」
推測「ない!」
事実「事実・・・目的が不在」
推測「だから、失踪が連れ去ったんじゃないか!?」
相違「でも『連れ去る』と『迷い出る』は違うでしょ?」
目標「そうです、だから私たちはまず目的の性質を分析すべきで・・・」
達成「もういい! 俺、探しに行くぜ!」
その場で走り出す動作。
現状「何を?」
達成「目的を!」
相違「それは目標じゃない?」
達成「え?」
目標「私ですか?」
達成「違う! 目的を探すのが目標で、」
目標「でも目標と目的は別物ですから、」
相違「目的は存在の理由でしょ? 目標は行動の方向じゃない?」
目標「でも、目的がなければ、目標はただの矢印ですから・・・」
達成「俺は矢印に向かって走るぜ!」
推測「つまり失踪が、」
達成「だから俺が言ってるのは、」
現状「現状、誰も聞いてないね」
全員が同時に喋り出す。カオス。
達成「動けって言ってんだよ!」
推測「絶対失踪の仕業だと思う!」
相違「それ前提が違うでしょ!」
目標「ちょ、ちょっと整理させてください!」
現状「一人ずつ話してくれ!」
全員が一瞬沈黙。
達成「じゃあ俺から!」
再び同時に喋り出す。
相違「私が!」
目標「私が先です!」
推測「俺の話を!」
達成「お前ら!」
事実「・・・」
事実が小さく手を挙げる。全員が止まる。
事実「・・・無理」
事実が壁からずり落ち、
事実「・・・重くなってきた」
現状「あぁ、事実が・・・崩れていく・・・」
座り直し、膝を抱えてうずくまる。沈黙。
現状「大丈夫か? 事実?」
推測「なんか・・・つじつま、合わなくなってきていない?」
達成「最初から合ってねぇよ!」
相違「つじつまが合わない、それって・・・」
事実が、立ち上がる。
現状「大変だ! 事実が!」
全員が振り向く。事実が矛盾に変化する。
現状「事実が積み重なって”矛盾”になった」
全員「矛盾!?」
相違「矛盾? 今まで、どこにいたの?」
矛盾「いたよ、ずっと。みんなの話の中にね」
目標「・・・確かに、そうかもしれません」
矛盾「目的がいないのに動こうとして、動けないのに動こうとして。私、最初からここにいたよね?」
推測「いや、でも、俺たちは、」
矛盾「私を認めたくないんでしょ? でも、私がいないと、この場、成り立ってないんだよね」
沈黙。
現状「・・・現状、それは事実」
達成「ちょっと待てよ! じゃあ俺たち、矛盾を探してたってことか!?」
矛盾「違うよ。目的を探してた。ただ、目的がいないから、私が浮き上がっただけだけどね」
達成「意味わかんねぇ!」
矛盾「矛盾だから」
静寂。
推測?「ねぇ・・・」
全員が振り向く。
達成「推測? いや、お前は・・・」
全員「可能性!」
推測が可能性に変わっている。
可能性「みんなで探すこと自体が、もう『目的』なんじゃない?」
達成「は?」
可能性「だって、今、みんな動いてるじゃん」
達成「でも目的がいないから動いてるんだ!」
可能性「それって、矛盾なのかも?」
矛盾「呼んだ?」
達成「お前、さっきからいるだろ!」
現状が変化して『気付き』になり、一歩前に出る。
気付き「・・・ああ」
達成「お前は?・・・」
全員「気付き!」
気付き「『目的』を探す、という目的が、もう生まれてる」
達成「だから意味わかんねぇって!」
目標「目的がないのに、目標に向かっている・・・ということですか?」
矛盾「それ、矛盾じゃない? でも、同時に、目的でもあるんだよね」
相違「いや、それって、矛盾じゃなくて、」
矛盾「矛盾だよ」
相違「でも、」
矛盾「矛盾」
気付き「・・・そうか。矛盾も、目的も、同じ場所にいた」
気付きが客席に目をやる。三秒の沈黙。全員が静止する。目的が椅子の陰からゆっくりと顔を出す。隣には矛盾が座っている。
目的「おい」
全員が凍りつく。
目的「俺、ずっとここにいるんだけど」
全員「目的ーーーー!!!」
可能性「え、いたの!?」
目的「いたよ」
達成「なんでいたんだよ!」
目的「なんでって・・・いつもここにいるから」
可能性「だって失踪が、」
目的「失踪? それ、お前の中にしかいないから」
可能性「え」
目的「お前が勝手に可能性を推測しただけだろ」
可能性「・・・あ」
達成「じゃあずっと、そこにいたのかよ!」
目的「いたよ。お前らが『いない』って決めつけて、やたら動き回ってただけだから」
矛盾「私も一緒にいたんだけどね。誰も気づかなかったけど」
達成「お前もかよ!」
気付き「・・・なるほど!」
目的「でもさ」
全員を見回す。
目的「お前ら、俺がいないと思った瞬間から、ちゃんと動いてたよな」
目標「・・・はい」
目的「それ、俺の仕事だから」
間。
気付き「・・・深い」
達成「よくわかんねぇけど、目的があってよかったぜ! な、目標!」
目標「私は、目的の影ですから・・・」
目的「影が動くとき、俺はそこにいるから」
矛盾「私もいるよ」
相違「でも『ある』と『いる』は違うでしょ?」
目標「また始まりました・・・」
目的が立ち上がり、その場の全員に語りかける。
目的「なぁ、みんな、“今も”なにか探してるんだろ?」
空間にいる全員への問い。静かな間。
可能性「ねぇ、もしかして、」
音が止まり、目線がゆっくり客席の向こうへ。
気付き「・・・そうか。探してる間だけ、俺たちは、生きてる」
照明少しずつ落ちる。
完全暗転。
BGM。
予告「目的はそこにいた。だが『疑念』が囁き、『不安』が立ち上がり、『絶望』が笑った。『無力』が沈み、『希望』が歩き出す。劇団概念次回公演「希望のともしび」お楽しみに!」
(了)
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【演出ノート】
キャラクター演じ分けポイント:
達成(常に体を動かしている(筋トレ、ジャンプ、その場ダッシュなど)
推測(早口で身振りが大きい。自信満々だがすぐ自信喪失
現状(手帳を持ち、常にメモを取る仕草
事実(壁にもたれる、椅子に座ったまま動かない
相違(指を立てて論点を示す癖
目標(背筋を伸ばし、手帳を胸に抱える
矛盾(ゆったりした動き。両手を広げたり、首を傾げたり
可能性(軽やかに飛び跳ねる。目線が上
気付き(観察者の立ち位置。やや離れて見る
混乱シーンの演出:
「全員が同時に喋り出す」部分は、リズミカルに被せていく。一人が「一人ずつ話せよ!」と止めた瞬間、また全員が喋り出すという反復で笑いを取る。
小道具:
概念名を書いた名札を首から下げる。役を切り替える際に裏返すか、複数枚重ねて表示を変える。
コントワークショップのお知らせ
草野球みたいに、コントを趣味で楽しむ教室です。毎回、コントを創作してその時間のうちに披露まで行います。毎回1本、あなたのオリジナルコントが作れます。参加無料(会場費のカンパ歓迎)。 
このコントの創作のメモ
「目的」がいなくなった。「失踪」に連れ去られたらしい「推測」がそう言って、「目標」とともに僕らの秘密基地に現れた。最初に反応したのは「達成」だった。じゃあ、どうやって達成するんだよ?と。そうしたら「現状」がまず現状どうなっているのか、みんなを集めた。「目標」と「相違」は互いに寄り添って、何もできないでいる。そこに「事実」と「推測」が互いに言い争いをしている。どこかにはいる「可能性」が生まれて、みな「目的」と「失踪」の「行方」を探すことにした、ねぇ、これが、すでに「目的」なのではない?と、「気付き」が言う。概念達を擬人化した数人が複数の役割を担う会話コント。

