コント『目的不在〜概念たちの秘密基地〜』 作:第三字宙

コント『目的不在〜概念たちの秘密基地〜』 作:第三字宙

2025-10-26

コント『目的不在〜概念たちの秘密基地〜』 作:第三字宙 約8分(約3300文字)

登場人物:
推測(早口。語尾「〜んだ」「〜と思う」。断定的だがすぐ揺らぐ)
達成(体育会系。語尾「〜ぜ」「〜だろ」。常に動きたがる)
目標(優等生的。語尾「〜です」「〜ですから」)
現状(冷静。語尾「〜ね」「〜だよ」。手帳を持つ)
事実(無口。短い一言。動かない)
相違(理屈っぽい。語尾「〜でしょ」「〜じゃない?」)
目的(落ち着いた口調。語尾「〜から」)
─────────
矛盾(ゆったり。語尾「〜だけどね」「〜なんだよね」。両義的な動き)=事実
可能性(軽やか。語尾「〜かも」「〜じゃん」)=推測
気付き(静かに観察。語尾「・・・ああ」「そうか」)=現状

秘密基地。机と椅子が複数。推測が息を切らせて駆け込んでくる。

推測「大変だ! 達成!」

達成が筋トレをしながら立ち上がる。

達成「どうした推測?」
推測「目的がいないんだ!」
達成「ん? 誰がいない?」
推測「目的が! いないんだよ!」
達成「筋トレ中断していいレベルの話か?」
推測「めちゃくちゃしていいレベル!」
達成「とんでもないな! なにがどうした?」
推測「秘密基地に来たら、目的がどこにもいないんだ・・・。失踪の仕業だと思う!」
達成「誰だよ失踪って?」

目標がうろたえている。

目標「ちょっと待ってください・・・目的がいないと、私、立ってられないんです・・・」
達成「目標、どうした?」
目標「だって私、目的に向かって進むものですから・・・このままだと、私が消えそう」
達成「それは困る! 俺だって、達成するには目標が必要だよ」
推測「とにかく失踪が怪しいと思う!」
達成「で、その失踪ってやつはどこにいんだよ!」
推測「それは・・・わかんない・・・」
達成「お前、何がわかるんだよ!」
推測「わかんないよ、俺、推測だし!」

達成が腕立て伏せで気を紛らわそうとする。現状が手帳を開きながら落ち着いて登場する。

現状「お困りのようだな」
達成「現状、いたのか!」
現状「・・・まず、現状を整理しよう、点呼」

達成が腕立て伏せをしながら。

達成「達成!」
目標「目標・・・」
推測「推測・・・でいいの?」
現状「事実は?」

間。事実が壁にもたれたまま。

事実「・・・ここ」
現状「よし。で、目的がいない、としたのはどうして?」
推測「見た感じだ! あと失踪が怪しいと思う!」
事実「その理由は?」
推測「俺の勘!」
達成「それ推測じゃねぇか!」
推測「だから俺、推測だって!」
達成「知ってるよ!」

現状がため息をつく。相違が現れる。話し方が理屈っぽい。

相違「でも、ちょっと待って!」
現状「お前は・・・」
全員「相違!」
相違「そもそも『いない』の定義が曖昧じゃない?」
目標「いや、物理的不在と概念的不在は分けて考えるべきですから・・・」
達成「おい! 議論してる場合か! 動こうぜ!」

達成がその場でジャンプを始める。

現状「どこに?」
達成「・・・え?」
現状「目的がないのに、どこに動くの?」
達成「・・・」

達成が動きを止める。

達成「・・・あ」
推測「でも何かしないとダメだと思う!」
事実「根拠は?」
推測「ない!」
事実事実・・・目的が不在」
推測「だから、失踪が連れ去ったんじゃないか!?」
相違「でも『連れ去る』と『迷い出る』は違うでしょ?」
目標「そうです、だから私たちはまず目的の性質を分析すべきで・・・」
達成「もういい! 俺、探しに行くぜ!」

その場で走り出す動作。

現状「何を?」
達成「目的を!」
相違「それは目標じゃない?」
達成「え?」
目標「私ですか?」
達成「違う! 目的を探すのが目標で、」
目標「でも目標と目的は別物ですから、」
相違「目的は存在の理由でしょ? 目標は行動の方向じゃない?」
目標「でも、目的がなければ、目標はただの矢印ですから・・・」
達成「俺は矢印に向かって走るぜ!」
推測「つまり失踪が、」
達成「だから俺が言ってるのは、」
現状「現状、誰も聞いてないね」

全員が同時に喋り出す。カオス。

達成「動けって言ってんだよ!」
推測「絶対失踪の仕業だと思う!」
相違「それ前提が違うでしょ!」
目標「ちょ、ちょっと整理させてください!」
現状「一人ずつ話してくれ!」

全員が一瞬沈黙。

達成「じゃあ俺から!」

再び同時に喋り出す。

相違「私が!」
目標「私が先です!」
推測「俺の話を!」
達成「お前ら!」
事実「・・・」

事実が小さく手を挙げる。全員が止まる。

事実「・・・無理」

事実が壁からずり落ち、

事実「・・・重くなってきた」
現状「あぁ、事実が・・・崩れていく・・・」

座り直し、膝を抱えてうずくまる。沈黙。

現状「大丈夫か? 事実?」
推測「なんか・・・つじつま、合わなくなってきていない?」
達成「最初から合ってねぇよ!」
相違「つじつまが合わない、それって・・・」

事実が、立ち上がる。

現状「大変だ! 事実が!」

全員が振り向く。事実が矛盾に変化する。

現状「事実が積み重なって”矛盾”になった」
全員「矛盾!?」
相違「矛盾? 今まで、どこにいたの?」
矛盾「いたよ、ずっと。みんなの話の中にね」
目標「・・・確かに、そうかもしれません」
矛盾「目的がいないのに動こうとして、動けないのに動こうとして。私、最初からここにいたよね?」
推測「いや、でも、俺たちは、」
矛盾「私を認めたくないんでしょ? でも、私がいないと、この場、成り立ってないんだよね」

沈黙。

現状「・・・現状、それは事実
達成「ちょっと待てよ! じゃあ俺たち、矛盾を探してたってことか!?」
矛盾「違うよ。目的を探してた。ただ、目的がいないから、私が浮き上がっただけだけどね」
達成「意味わかんねぇ!」
矛盾「矛盾だから」

静寂。

推測?「ねぇ・・・」

全員が振り向く。

達成「推測? いや、お前は・・・」
全員「可能性!」

推測が可能性に変わっている。

可能性「みんなで探すこと自体が、もう『目的』なんじゃない?」
達成「は?」
可能性「だって、今、みんな動いてるじゃん」
達成「でも目的がいないから動いてるんだ!」
可能性「それって、矛盾なのかも?」
矛盾「呼んだ?」
達成「お前、さっきからいるだろ!」

現状が変化して『気付き』になり、一歩前に出る。

気付き「・・・ああ」
達成「お前は?・・・」
全員「気付き!」
気付き「『目的』を探す、という目的が、もう生まれてる」
達成「だから意味わかんねぇって!」
目標「目的がないのに、目標に向かっている・・・ということですか?」
矛盾「それ、矛盾じゃない? でも、同時に、目的でもあるんだよね」
相違「いや、それって、矛盾じゃなくて、」
矛盾「矛盾だよ」
相違「でも、」
矛盾「矛盾」
気付き「・・・そうか。矛盾も、目的も、同じ場所にいた」

気付きが客席に目をやる。三秒の沈黙。全員が静止する。目的が椅子の陰からゆっくりと顔を出す。隣には矛盾が座っている。

目的「おい」

全員が凍りつく。

目的「俺、ずっとここにいるんだけど」
全員「目的ーーーー!!!」
可能性「え、いたの!?」
目的「いたよ」
達成「なんでいたんだよ!」
目的「なんでって・・・いつもここにいるから」
可能性「だって失踪が、」
目的「失踪? それ、お前の中にしかいないから」
可能性「え」
目的「お前が勝手に可能性を推測しただけだろ」
可能性「・・・あ」
達成「じゃあずっと、そこにいたのかよ!」
目的「いたよ。お前らが『いない』って決めつけて、やたら動き回ってただけだから」
矛盾「私も一緒にいたんだけどね。誰も気づかなかったけど」
達成「お前もかよ!」
気付き「・・・なるほど!」
目的「でもさ」

全員を見回す。

目的「お前ら、俺がいないと思った瞬間から、ちゃんと動いてたよな」
目標「・・・はい」
目的「それ、俺の仕事だから」

間。

気付き「・・・深い」
達成「よくわかんねぇけど、目的があってよかったぜ! な、目標!」
目標「私は、目的の影ですから・・・」
目的「影が動くとき、俺はそこにいるから」
矛盾「私もいるよ」
相違「でも『ある』と『いる』は違うでしょ?」
目標「また始まりました・・・」

目的が立ち上がり、その場の全員に語りかける。

目的「なぁ、みんな、“今も”なにか探してるんだろ?」

空間にいる全員への問い。静かな間。

可能性「ねぇ、もしかして、」

音が止まり、目線がゆっくり客席の向こうへ。

気付き「・・・そうか。探してる間だけ、俺たちは、生きてる」

照明少しずつ落ちる。

事実「・・・それが、事実

完全暗転。
BGM。

予告「目的はそこにいた。だが『疑念』が囁き、『不安』が立ち上がり、『絶望』が笑った。『無力』が沈み、『希望』が歩き出す。劇団概念次回公演「希望のともしび」お楽しみに!」
(了)

─────────

【演出ノート】
キャラクター演じ分けポイント:
達成(常に体を動かしている(筋トレ、ジャンプ、その場ダッシュなど)
推測(早口で身振りが大きい。自信満々だがすぐ自信喪失
現状(手帳を持ち、常にメモを取る仕草
事実(壁にもたれる、椅子に座ったまま動かない
相違(指を立てて論点を示す癖
目標(背筋を伸ばし、手帳を胸に抱える
矛盾(ゆったりした動き。両手を広げたり、首を傾げたり
可能性(軽やかに飛び跳ねる。目線が上
気付き(観察者の立ち位置。やや離れて見る

混乱シーンの演出:
「全員が同時に喋り出す」部分は、リズミカルに被せていく。一人が「一人ずつ話せよ!」と止めた瞬間、また全員が喋り出すという反復で笑いを取る。

小道具:
概念名を書いた名札を首から下げる。役を切り替える際に裏返すか、複数枚重ねて表示を変える。

コントワークショップのお知らせ

コントワークショップ「心は青空、草コント教室」参加者募集中

草野球みたいに、コントを趣味で楽しむ教室です。毎回、コントを創作してその時間のうちに披露まで行います。毎回1本、あなたのオリジナルコントが作れます。参加無料(会場費のカンパ歓迎)。 KUSAConte

このコントの創作のメモ

「目的」がいなくなった。「失踪」に連れ去られたらしい「推測」がそう言って、「目標」とともに僕らの秘密基地に現れた。最初に反応したのは「達成」だった。じゃあ、どうやって達成するんだよ?と。そうしたら「現状」がまず現状どうなっているのか、みんなを集めた。「目標」と「相違」は互いに寄り添って、何もできないでいる。そこに「事実」と「推測」が互いに言い争いをしている。どこかにはいる「可能性」が生まれて、みな「目的」と「失踪」の「行方」を探すことにした、ねぇ、これが、すでに「目的」なのではない?と、「気付き」が言う。概念達を擬人化した数人が複数の役割を担う会話コント。

ビジュアルシミュレーション