登場人物2名、上演想定約6分(約2120文字)
- 極留(きめる。登山者、30代、真面目で現実的)
- 理爪(りづめ。キャリアコンサルタント、40代、理屈っぽい)
理爪が倒れている。登山者の極留が現れる。
極留「(息を切らして) はぁ、はぁ・・・もうダメだ。完全に道に迷った・・・」
倒れている理爪を発見。
極留「あっ! 大丈夫ですか?! (揺さぶる)」
理爪「(目を覚まして) う・・・ここは・・・」
極留「よかった、意識がある。どうしたんです?」
理爪「水分不足で・・・少し休んでいました」
極留「一緒に下山しましょう。どっちから来たか覚えてます?」
理爪「ええ・・・正直どちらから来たか定かではないですね」
極留「そうですか・・・じゃあ一緒に何とか降りましょう。お名前は?」
理爪「理爪と申します。キャリアコンサルタントをしております」
極留「キャリアコンサルタント・・・遭難に全然役立たない職業ですね」
理爪「そうですね。遭難は苦手ですが、相談なら」
極留「そうだん?」
理爪「意思決定の支援なら得意ですよ」
極留「(立ち上がって) じゃあ助かった。さて、どっちに行きましょうか。こっちは登り道、あっちは下り道ですね」
理爪「なるほど。極留さんはどちらに行きたいですか?」
極留「下りに決まってるじゃないですか」
理爪「下りを選びたい理由を教えていただけますか?」
極留「早く降りたいからですけど」
理爪「承知しました。ただ、意思決定にあたっては複数の選択肢を検討することをお勧めします」
極留「登りも検討しろってことですか?」
理爪「私からの提案ではありません。極留さんご自身で判断していただきたいんです」
極留「・・・じゃあどっちがいいと思います?」
理爪「どちらにも可能性がありますね。最終的に決めるのは極留さんです」
極留「・・・分かりました。じゃあ登りにします!」
理爪「承知しました。それではご一緒します」
二人、登り道を進む。
極留「(息を切らして) きつい・・・本当にきつい・・・」
理爪「そうですね・・・」
極留「理爪さん、やっぱり下りの方が良かったんじゃないですか?」
理爪「登りを選択されたのは極留さんご自身ですよね」
極留「そうですけど! アドバイスが欲しかったんです!」
理爪「私の役割は意思決定の支援であって、決定そのものではないんです」
極留「支援って何を支援したんですか!」
理爪「極留さんが自らの意思で選択できるよう、環境を整えました」
極留「整ってない! 全然整ってない!」
極留、座り込む。
極留「もう動けない・・・腹も減ったし・・・」
理爪「あ! キノコがありますよ」
極留「本当だ!」
理爪「一般的に派手な色のキノコは毒キノコの確率が高いと言われています」
極留「色が派手ですね・・・」
理爪「極留さんはこのキノコをどう思われますか?」
極留「毒キノコじゃないですか?」
理爪「その可能性はありますね。食べますか? 食べませんか?」
極留「理爪さんの意見を聞いてるんです!」
理爪「私の意見より、極留さんご自身の判断が重要です。食べるか食べないか、決めるのはあなたです」
極留「(ため息) もういいです・・・食べます! いただきます!」
理爪「では私も。(一緒に食べる)」
極留「・・・思ったより悪くないですね」
理爪「良い選択でしたね」
極留「(歩きながら) なんか・・・変な感じがしてきた・・・」
理爪「私もです・・・」
極留「あっ! クマだ! クマが来ます!」
理爪「どうされますか?」
極留「どうするって! 逃げるか追い払うしかないでしょ!」
理爪「極留さんはどちらを選びますか? 決めるのは」
極留「(同時に)"決めるのは私"なんでしょ! うわああああ!」
極留、手を振り回す。しばらくして。
極留「・・・あれ? いませんね」
理爪「確かに今、襲われたような気がしましたが・・・」
極留「もしかして、さっきのキノコ・・・」
理爪「毒キノコだったかもしれませんね。幻覚症状です」
極留「だから言ったのに!」
理爪「決めたのは極留さんですよ」
極留「(座り込んで) あぁ・・・もうダメだ・・・」
ヘリコプターの音。
理爪「あれ? 幻聴でしょうか? 音が聞こえます」
極留「あれ、ヘリコプターじゃないですか!?」
理爪「見えますね」
極留「手を振りましょう!」
理爪「極留さんはそう判断されるんですね」
極留「当たり前でしょ!」
理爪「ただ、先ほどクマの幻覚がありました」
極留「・・・そうか」
理爪「幻覚は音より映像の方が先行するケースもあります」
極留「そうなんですか」
理爪「あのヘリコプターについて、極留さんはどう思われますか?」
極留「・・・幻覚かもしれない」
理爪「その可能性はありますね。どうされますか?」
極留「・・・放っておきます」
理爪「承知しました」
ヘリコプターは通り過ぎていく。極留と理爪、見送る。
極留「幻覚かもしれませんが、行っちゃいましたね・・・」
理爪「行っちゃいましたね・・・」
極留「・・・あれ、本物だったんじゃ・・・」
理爪「かもしれませんね」
極留「なんで止めなかったんですか!」
理爪「判断されたのは極留さんです」
極留「あなたが幻覚かもって言ったから!」
理爪「可能性を提示しただけです。選択は極留さんがされました」
極留「(頭を抱える) もう・・・もう・・・
理爪「今回の学びとしては、意思決定の重要性と自己責任の所在が明確になりましたね」
極留「相談しなければ良かった・・・」
理爪「今後のキャリア選択にも活かせそうですね」
暗転。
(了)
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