コント台本『燃料はシーハーイーツでお届け-LOVE.SYNTH.ETHICSシリーズ-』作:第三字宙

コント台本『燃料はシーハーイーツでお届け-LOVE.SYNTH.ETHICSシリーズ-』作:第三字宙

登場人物3名、上演想定約6分(約2370文字)

登場人物:

  1. ゆうた(ゆーくん。ミュージシャン志望の青年。常識人だが徐々に狂気に引きずられる)
  2. もえみ(ゆうたの恋人。技術狂。倫理観が欠落している)
  3. 牧田(ストーキングシンセMAKITA。もえみの元ストーカー。改造されてシンセサイザーになった。忠誠心が強く、燃料はもえみの咀嚼物)

ゆうたの部屋。恋人にもらった“自作ストーカー改造シンセ”から今日も音が出ている。牧田が寝転がっている。ゆうたは作曲の作業で苦戦している。

ゆうた「AIでも合成音でもない。今どきの音楽は、狂気と倫理違反で鳴らすんだって」
牧田「あー、暇ですねー、お腹も減って、波形も出ません」
ゆうた「僕は、彼女が開発した元ストーカーのシンセサイザーMAKITAと暮らしている」
牧田「せめて視覚的刺激でもあれば、なんとかこの空腹もまぎらわせるのですが・・・」
ゆうた「・・・ほら、スマホ」

牧田、スマホを借りて見る

牧田「ネトフリないんですか?」
ゆうた「・・・U-NEXTなら」
牧田「通好みですね。・・・あの、FANZAは?」
ゆうた「何を再生しようとしてるの?」

牧田は答えない。ゆうたは堪える。牧田の腹が鳴る。

牧田「だめだ。映像だけでは、腹も音も満たされません・・・。ウーバーイーツ、頼みませんか?」
ゆうた「お金ないし。ってか、いつまで居るつもり?」
牧田「はっ! そりゃあ、あなたの曲が完成する日まで、ずっとですよ!」
ゆうた「地獄の長期滞在じゃないか」

ドアが開く音、彼女のもえみが明るく東條、ポリタンクを抱えている。

もえみ「こんにちわー! シーハーイーツのお届けでーすっ!」
牧田「待ってましたっ!」
ゆうた「”シーハー”って、なんかアメリカのポルノ女優みたい、シーハー、シーハー、」
もえみ「なんか言った?」

間。

牧田「・・・して」
ゆうた「なに?」
牧田「して・・・誤魔化して」
ゆうた「あ、彼女っ! だから、she と her なんだねー!」
もえみ「今日の分の燃料、出来立てだよ! あたたかいうちにどうぞ!」

もえみ、ポリタンクを掲げる。中身は不明だが、人を不安にさせる粘度。

ゆうた「これ・・・あれ?」
もえみ「うん、咀嚼物」
ゆうた「それを、僕に手渡されても・・・」
牧田「ありがたく、いただきます」

牧田が受け取る。

ゆうた「この人、さっきウーバー頼もうとしてたよ? ほんとうに、もえみちゃんの咀嚼物が燃料なの?」
もえみ「そうだけど?」
牧田「別腹ですね」
ゆうた「今“別腹”って言った!?」
もえみ「わかんない。聞き取れなかった」
牧田「低音用の別腹です」
ゆうた「ほら、“別腹”って言ったよ!?」
もえみ「タッパーある?」
ゆうた「なんで?」
もえみ「これ小分けして冷凍しとこ」
牧田「素敵です。燃費、上がりますね。」
ゆうた「やめてくれ、生活感のある地獄」
もえみ「で、どう? いい曲書けた?」
ゆうた「・・・ダメ、全然、降りてこない」
もえみ「ちょっとどういうこと?」

もえみ、牧田に迫る。

牧田「申し訳ありません。ご主人様がなにも浮かばないんじゃ、わたしにできることもありませんので・・・」

ゆうた、さらに追い詰められてしまい、つい立ち上がる。

ゆうた「この関係おかしいよっ! 彼女の元ストーカーが改造されたシンセに、彼女の咀嚼物が燃料!? どう考えても地獄の循環じゃないか!」
牧田「もえみさんの循環なら、喜んで」
ゆうた「黙っててっ!」
もえみ「ゆーくん、ひどい。私はあなたの音楽のために命賭けてるのに」
ゆうた「命じゃなくて倫理を賭けてるんだよ!」
牧田「今日の燃料、いつもよりスパイシーですね。昨日カレー?」
もえみ「10辛!」
牧田「音色に深みが出ます」
ゆうた「やめろっ! その会話やめろ!」
もえみ「ゆーくん、あのね。牧田はシンセサイザーになってから、すごく音がいいの。特に彼の未練とか執着とか、そういう負の感情が低音に響くのよ」
牧田「そうなんです。もえみさんへの想いが、今は音楽になってます。ご主人様、ぜひ僕を弾いてください」
ゆうた「気持ち悪い! 全部気持ち悪い!」
もえみ「じゃあ、デモでも作ってみようよ。ほら、牧田、スタンバイ!」
牧田「はい! ウィーン」

と、牧田が機械的に動き四つん這いになり、背中のシンセサイザーのキーボードがあらわになる。

牧田「準備完了です。どうぞ」
ゆうた「・・・いや、弾かないから」
もえみ「ゆーくん、音楽やりたいんでしょ? じゃあ弾きなさいよ!」
牧田「・・・して」
ゆうた「なに?」
牧田「・・・して、鳴ら・・・して」

渋々、ゆうたが牧田の背中のキーを押すと、美しい音色が響く。

ゆうた「あれ? これ・・・結構いい音・・・」
牧田「でしょう? もえみさんの技術は本物ですから」

ゆうた、夢中になってメロディを弾き始める。

ゆうた「待って、これ、もしかして・・・降りてきた! 曲が降りてきたぞ!」
もえみ「やったー! ゆーくん!」

ゆうた、激しく演奏。牧田も高揚して、奇妙な声を出し始める。

牧田「あああ! これが、これが僕の存在意義!」
ゆうた「変な声出すな!」
もえみ「いいじゃない! それも表現よ!」
牧田「して・・・鳴らして・・・もっと・・・」

演奏が最高潮に達したとき、突然牧田の体から煙が出始める。

牧田「あっ・・・あっ・・・燃料が・・・」
もえみ「あ! エネルギー切れ! ゆーくん、給油! 給油して!」
ゆうた「どうやって!?」
もえみ「ポリタンクから口に流し込むのよ!」
ゆうた「やだ!」
牧田「お願いします・・・ご主人様・・・もう一音だけ・・・」
もえみ「ゆーくん! 早く! さっきの曲、録音してないんだから!」
ゆうた「絶対にやだっ!」

ピンポンの音。ゆうたが応対に出る。間。

ゆうたの声「すいません、すいません」

ゆうたが戻ってくる。

ゆうた「騒音の苦情が来た」
牧田「安普請のアパートでは音楽は無理ですね」
もえみ「じゃあ・・・引越しする?」
ゆうた「え?」
もえみ「うちの地下室。防音完璧。燃料運びもラク」
牧田「最高の環境です!」
もえみ「冷凍庫も地下にあるよ」
牧田「えぇっ! そうしましょう!」
ゆうた「あ、牧田、出てくの?」
もえみ「何言ってるの! もちろん、ゆーくんも一緒に地下生活よ」
ゆうた「誰か・・・僕に人間らしいチューニングを・・・!」

暗転。
(電子音ピピッで終わる)
(了)

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