コント『おい、そこの少年』作:第三字宙

コント『おい、そこの少年』作:第三字宙

2025-10-31

コント『おい、そこの少年』作:第三字宙 約6分(約2500文字)

登場人物
中年男(40代後半、やや猫背、疲れた目。話し方は丁寧だが諦観が滲む)
女性(30代前半、髪は乱れ、服装もややだらしない。口調は軽くシニカル)

神社の境内。石段、鳥居が見える。朝の薄暗い光。薄暗い朝の境内。石段の脇に中年男が座り込み、項垂れている。鳥の声、遠くの風。静けさ。

女性の声「おい!そこの少年!」

鳥の声、ピタリと止まる。中年、顔を上げる。きょろきょろと周囲を見回す。

中年「・・・誰?」

女性、鳥居の陰からふらふらと現れる。

女性「あんただよ、あんた」
中年「あの・・・なんでしょう? 神社の関係者の方ですか?」
女性「関係者? 違う。(石段に腰を下ろす) 神社の裏で寝てただけ」
中年「・・・神社で寝てた。・・・バチ当たりですね」
女性「(頭を抱える)うぅ・・・さっそくバチか・・・」
中年「えぁ? ほんとに?」
女性「二日酔いがひでぇ・・・」
中年「・・・・・・それは、お気のに」
女性「あんたは・・・神様待ち?」
中年「・・・・・・いや、朝食待ちです」
女性「は?」
中年「朝食を・・・買いに行ったんです。コンビニに」
女性「で?」
中年「・・・恐ろしい事が目の前に繰り広げられまして」
女性「なんだ? 強盗か!?」
中年「・・・・・・おにぎり棚・・・全部、新作だったんです」

間。

女性「・・・は?」
中年「全部の具に“革命”と名付けてありました」
女性「革命・・・それだけ?」
中年「ルーティンをひっくり返され、どれを選べばいいのか・・・わからなくなって」
女性「(呆れて)・・・あんた、大丈夫?」
中年「それで、ここで・・・少し休もうかと」

間。女性、バッグをごそごそ、コンビニ袋からチューハイの缶を取り出す。

女性「これあげる」
中年「え、いや・・・朝からおは・・・」
女性「いいからいいから。迎えってやつ」
中年「迎え・・・いや、僕、酔ってないんで」
女性「じゃあ元気を出せ。(缶を何本も押し付ける)」
中年「あ、いや、こんなに、何本持ってるんですか!?」

中年、缶を受け取り、膝に置く。

中年「あの・・・さっき、”おい、そこの少年”て・・・。僕、少年に見えました?」
女性「全然」
中年「あぁ、じゃあ”おい、そこの中年”ですね」
女性「いいんだよ、そこは、”おい、そこの少年”で」
中年「・・・ドキドキしました」
女性「不整脈?」
中年「いえ・・・物語がはじまるなって。いや、始まってほしいなって」

間。

女性「実は私、異世界の女神で、あんたを救いに来た」
中年「今更・・・異世界に行っても、何もできる気がしません」
女性「おー、深いねぇ」

女性、石段に寝転がる。

女性「・・・二日酔い、マジでしんどい。ねぇ、話聞いててやるから、何があったか言ってみ」
中年「・・・話、ですか」
女性「うん」

無音に。風も鳥も消える

中年「(ゆっくりと)・・・僕はですね、かつて・・・剣を振るっていたんです」
女性「剣道?」
中年「いえ・・・魔物を、倒すための」

間。

女性「(目を開ける)・・・ほぅ」
中年「炎の魔獣、氷の巨人・・・数えきれないほどの敵と戦い、世界を・・・救いました」
女性「(起き上がる)ちょっと待って。あんたは、なんなの?」
中年「僕は・・・勇者、だったんです」
女性「勇者・・・マジで?」
中年「(頷く)異世界で。召喚されて」

テンポアップ。以下、畳みかけるように。

女性「(身を乗り出す)マジで!? 異世界!? どんな感じ!?」
中年「空は・・・紫色で、月が三つ。魔法陣が街の至る所に」
女性「魔法使えたの!? 何系!?」
中年「えっと・・・光魔法と、少し」
女性「仲間は!? エルフとか!?」
中年「ええ・・・エルフの弓使いと、」
女性「ドワーフは!? 魔法少女は!?」
中年「ドワーフの戦士はいましたが・・・魔法少女は、いませんでした」
女性「そりゃダメだ、人気出ないよ」
中年「・・・そうですか」
女性「で、姫は? ヒロインは?」
中年「王女が・・・一人」
女性「王女は何人もいちゃダメだ! 恋愛フラグ立った?」
中年「・・・立ちませんでした」
女性「え〜・・・」

間。

女性「・・・それで、なんで今、こんなとこに」
中年「(俯く)・・・帰還したんです。使命を果たして。でも・・・」
女性「でも?」
中年「この世界には・・・僕の居場所が、なくて」

長い間。

女性「・・・そっか」

間。女性、中年を見つめる。

女性「・・・で、その異世界の話、どこまで書いたの?」
中年「・・・え?」
女性「だって、ライトノベルでしょ?」

間。

中年「・・・・・・タイトルだけです」
女性「タイトルだけ!?」
中年「まだ・・・一行も、書けてません」
女性「(笑い出す)なんだよそれ! タイトルだけって!」
中年「すみません・・・作家志望、なんです」
女性「で、タイトルは?」
中年「・・・”異世界帰還勇者の朝ごはん問題”」
女性「地味だな!」
中年「・・・でも、そうしたいんです。手な冒険のあとに、朝ごはんで悩む。それが、僕なんです」
女性「・・・そうか」
中年「はい・・・(笑)」
女性「いや、面白かったよ!」
中年「・・・そうですか」
女性「てか、その設定いいじゃん。「帰還した勇者の憂鬱」みたいな。地味なタイトルも逆にアリかも」
中年「・・・本当に?」
女性「・・・なんか、久々に面白い話聞いた気がしてさ。ちょっと見てみたくなった」

女性、立ち上がり。

女性「本屋行ってくるわ」
中年「本屋・・・?」
女性「ラノベコーナー。どんなもんか見てみたくなった」
中年「・・・そうですか」
女性「(歩き出しながら)あんた、ちゃんと書けよ!」
中年「・・・はい」

女性、手を振りながら去っていく。中年、一人残される。間。中年が空を見上げた瞬間、柔らかな朝日が境内に差し込む。遠くから街の生活音がゆっくりと立ち上がる。車の音、人の声。中年、歩き出す。

中年「・・・主人公の名前は、やはり「アルト」がいいか・・・いや、「レイン」の方が・・・魔法体系は六属性。いや、七にしてもいいか。風と雷を分けて、固有スキルは・・・」

少し歩いて、立ち止まる。

中年「・・・いや、朝ごはん、買わなきゃ」

再び歩き出す。朝の光が満ちていく。街の音が日常のボリュームに。中年、ゆっくりと去っていく。
暗転。

(了)

コントワークショップのお知らせ

コントワークショップ「心は青空、草コント教室」参加者募集中

草野球みたいに、コントを趣味で楽しむ教室です。毎回、コントを創作してその時間のうちに披露まで行います。毎回1本、あなたのオリジナルコントが作れます。参加無料(会場費のカンパ歓迎)。 KUSAConte

ビジュアルシミュレーション