コント『お雛様になりたい』作:第三字宙 原作:こんもみ 約6分 (約2300文字)
少女:お雛様にあこがれる中学生
お雛様:少女にお雛様になる方法を教える
雛壇の前で”うれしいひなまつり”を歌う少女。
少女「(歌う)明かりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花・・・(歌、途切れ)私、お雛様にあこがれる女子中学生。あーあ、私もお雛様になりたいな」
お雛様の声「なれるわよ」
少女「え、誰?」
お雛様「ここよ」
少女「わ! お雛様が喋った!?」
お雛様「あなた”雛”になりたいの?」
少女「ひな?」
お雛様「わたしの一人称よ」
少女「自分のこと、雛って言うんですね」
お雛様「自分に敬称はつけない」
少女「「は、はい」
お雛様「なんでなりたいの?」
少女「だってお雛様って女の子の憧れでしょうう? 綺麗で清楚で、男の人を立て、内助の功・・・」
お雛様「バカね。古い古い!」
少女「え?」
お雛様「今は、女も総理大臣になれる時代なのよ! あんた、高市早苗の爪の中でも煎じて飲みなさい」
少女「わー! このお雛様、辛辣!」
お雛様「ねぇ、あなた。本当に”雛”になりたいの?」
少女「はい・・・なりたいです」
お雛様「雛になったらね、毎日綺麗な着物が着られるし、美味しいお酒やご飯もいっぱい食べられるし、五人囃子も官女もいてね、身の周りのこと、何でもしてもらえるから」
少女「わーいいな! なりたい! 私、お雛様になりたいです!」
お雛様「よし、じゃあ特別にね、あなたに”雛”になるための三箇条を教えてあげる」
少女「三箇条!? メモしなきゃ!」
お雛様「1つ!」
少女「1つ!」
お雛様「絶対に動かない」
少女「絶対に動かない・・。お人形ですものね。今はすごく動いてますけれど」
お雛様「普段は、絶っ対に動かないっ!」
少女「はい!」
お雛様「2つ!」
少女「2つ!」
お雛様「"タンスにゴン"は忘れない」
少女「どういうことですか?」
お雛様「変な虫がつくでしょ?」
少女「あ! 防虫剤! 仕舞われる時に必要ですね!」
お雛様「ムシューダでもいいわ」
少女「ムシューダでもいい」
お雛様「最近の流行りはね、匂いのないやつ」
少女「匂いのないムシューダでもいい」
お雛様「”変な虫がつかないよう”に、これ二つの意味ね」
少女「変な男が寄りつかないようにって意味ですね! すごい! お雛様はダブルミーニングもできるんだ!」
お雛様「あなた、太鼓持ちの才能があるわ」
少女「えぇ〜・・・お雛様から、五人囃子へ降格ですか?」
お雛様「慌てない!」
少女「は、はい! 3つ!」
お雛様「私が言うから! 慌てない!」
少女「は、はい!」
お雛様「・・・さぁさ、おまちかね・・・3つ!」
少女「3つ!」
お雛様「コミュ力(りょく)高く!」
少女「えぇ・・・」
お雛様「どうしたの?」
少女「コミュ力か・・・私、自信ないんですよね・・・、お雛様にコミュ力必要なんですか?」
お雛様「雛はね、1年の大半、仕舞われて、暗い中でひしめき合っているわけでしょ。で、みんな心が暗くなるわけ」
少女「はい」
お雛様「その時にね、雛が盛り上げるのよ」
少女「ああ、そっか! クラスの人気者みたいに!」
お雛様「そう! コミュ力がないとね、やってらないのよ」
少女「なるほど!」
お雛様「(歌う)春のうららの隅田川」
少女「どうしたんですか?」
お雛様「知らない?」
少女「知らないです(スマホを取り出す)」
お雛様「うそでしょ? 花よ! 武島羽衣(たけしまはごろも)と瀧廉太郎! 音楽の授業で習ったでしょ」
少女「(スマホで調べて)あ! この人、見たことあります」
お雛様「(歌う)もういくつ寝るとお正月」
少女「もう過ぎてます、今、3月だから結構先です」
お雛様「これは、東(ひがし)くめと瀧廉太郎よ」
少女「・・・もしかして、瀧廉太郎推しですか?」
お雛様「そうね。あなたにわかりやすく言えば、明治の米津玄師よ」
少女「わかりやすい!」
お雛様「ねぇ、あなた、さっき、雛を讃える歌うたっていたじゃない?」
少女「いえ?」
お雛様「うたってたじゃない! ”あかりをつけましょぼんぼりに”って」
少女「あ、あれ、讃える歌なんですね」
お雛様「昔から伝わる民謡だと思ってるでしょう?」
少女「違うんですか?」
お雛様「あれ、最近よ、作られたの」
少女「最近? いつなんですか?」
お雛様「1936年」
少女「100年近く前でも最近なんですね・・・え? まさか、それも瀧廉太郎?」
お雛様「河村直則とサトウハチローよ」
少女「あ、違うんだ」
お雛様「瀧廉太郎が1903年に亡くなった後に作られたのが、”雛を讃える歌”よ」
少女「へぇっ! 勉強になった!」
お雛様「でしょう! ・・・ね、こうやって場を回すの」
少女「こ、これがコミュ力! すごい!」
お雛様「ま、ざっとこんなもんよ。それじゃ、私はこれで(そそくさと雛壇を降りようとする)」
少女「待ってください!」
お雛様「なあに?」
少女「質問です! コミュ力が重要なのはわかったんですが、私、心配なんです」
お雛様「なにが心配なの?」
少女「私が、お内裏様の隣に座っていいのかしら?」
お雛様「いいって何が?」
少女「だって、お二人はご夫婦でしょう? 愛を誓い合った・・・」
お雛様「ああ、あれね。大丈夫。ビジネスパートナーだから」
少女「あ、ビジネスパートナーなんだ。カップルYouTuberみたい」
お雛様「そうそうそうそうそう。だから大丈夫。じゃ、私もう行くね」
少女「もう行くんですか?」
お雛様「三箇条教えたんだから、もう行くわよ」
少女「忙しないですね。そんなに急いで何をしたいんですか?」
お雛様「もう長い髪にも飽きたし、ばっさりいって、ベリーショートにするの。そして丸メガネをかけて、ピアノを弾きたい」
少女「瀧廉太郎になる気だ! ファンがアーティストの姿に寄せるやつだ!」
暗転。
(了)
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