登場人物2名、上演想定約6分(約2096文字)
- 牧師
- 僧侶の男性
牧師が穏やかに、礼拝に来ている人々をもてなしている。
牧師: また来週お待ちしております。はい。あ、よかったらお茶とお菓子があるのでゆっくりしていってください。はい。あ、もしお知り合いの方がいらっしゃいましたら、お誘いいただければ。はい。毎週日曜日にやっておりますので。神は教会に来る人、すべてを愛しています。
礼拝者が去った気配。僧侶に気づく。
僧侶: 牧師さん、今日も素晴らしいご説教、ありがとうございました。
牧師、鬼の形相。
牧師: またお前か。
僧侶: 「愛と許し」について、諸行無常を感じました。
牧師: 帰れ。
僧侶: お義父さん、そんな冷たいこと言わないでください。
牧師: お義父さんじゃない。何度来ても無駄だ。お前に娘はやらん!
僧侶: どうして僕ではダメなんですか? 僕、前世で何か悪いことでもしたんですか?
牧師: お前が坊主だからだっ!
間。
牧師: 娘はクリスチャンだ。坊主のところに嫁へやる気はない。
僧侶: 何度も言っているじゃないですか、信仰は「自由」、結婚は「縁」であると。
牧師: 何度言われてもやらん。
僧侶: 条件交渉の続きをしましょう。まずは…
牧師: お前、またそれか。
僧侶: 煩悩とはいえ、やはり経済的安定は大事ですよ。うちは年収四桁、万単位で稼いでおります。
牧師: ……よ、四桁?
僧侶: はい。
牧師: 千じゃなくて?
僧侶: 万です。
牧師: 万って……一万じゃないよな?
僧侶: もちろん違います。
牧師: ……イエス様、ちょっとだけ揺らいでます。
僧侶: 檀家がめちゃくちゃいるんで。葬式、法事、お盆、お彼岸と、年間スケジュールがパンパンで。
牧師: (揺らぐ)うらやましい…いや、ダメだ! 他者の境遇を羨むな! 人間の幸せは愛だ。イエス様の愛があればそれだけで幸せになれる。
僧侶: でもなぁ。娘さんがうちに来てくれた方が、経済的にも安心できて、幸せになれると思うんですよ。現世利益も大事です。
牧師: お前はいつも金の話ばっかりだな!
僧侶: すいません。神の話でなくて。
牧師: そうだ! 信仰は清貧潔白にならなければならない。金儲けに向いてねえんだ。
僧侶: そうなんですね。大変だ。
牧師: それでも真面目にやってきたんだ、今まで。
僧侶: それは尊いことです。(間)もしよろしければ、金銭的に援助できるんですけどどうですか? 布施の精神で。
牧師: …いくらだ?
僧侶: うちの収入の15%。
牧師: 25%出せないか。
僧侶: 割とがめついですね。
牧師: うるさい! 出せるのか出せないのか!? 誠意を見せてみろ。
僧侶: お義父さん、煩悩剥き出しじゃないですか?
牧師: 煩悩じゃない信仰心だ。イエス様も十分の一を捧げよと言っている。なら四分の一は信仰心が厚い証拠だ。
僧侶: なるほど…。うちの寺、本堂とは別に離れがあるんです。
牧師: 離れ?
僧侶: 新婚夫婦用の。8畳二間、キッチン付き。
牧師: ……うちは娘の部屋、4畳半だからな。
僧侶: でしょうね。娘さんのブログに「部屋狭い」って書いてありました。
牧師: お前、何、監視してんだ!
僧侶: 監視じゃないです。見守りです。慈悲の心で。
牧師: どこから見守ってんだ。
僧侶: 参拝圏内です。
牧師: 地元神社での初詣感覚だなっ!
僧侶: うちのWi-Fi、めちゃ速いです。
牧師: うちは電波が弱い…。
僧侶: うちは戒律がゆるいですよ。
牧師: ゆるい?
僧侶: ええ。日曜も自由。礼拝とか強制じゃないんで。
牧師: (ムッとして)うちだって強制じゃない。
僧侶: でも毎週来てほしいんでしょ?
牧師: ……それは、まあ。
僧侶: うちは年に三回。正月、お盆、彼岸。それ以外フリーです。
牧師: それで信仰は保たれるのか?
僧侶: だいたい皆さん、Netflix観ながら心を整えてます。
牧師: 何観て整えてんだ。
僧侶: だいたい韓ドラです。浄化されるんですよ。
牧師: だいたい泣けるからなぁ。
僧侶: あと、うちの檀家に、医者が多いんです。
牧師: 医者?
僧侶: ええ。内科、外科、小児科。将来、子供ができても安心です。
牧師: もう孫の話まで…!
僧侶: それに歯医者も。ホワイトニング無料です。清らかな白い歯で、清らかな説教。
牧師: お前、イメージさせるの上手いな。
僧侶: 極楽浄土へ導く仕事ですから。
牧師: (長い沈黙)……20%だ。20%で誠意を見せろ。
僧侶: 20%か…厳しいな…。わかりました。20%で。
牧師: よし、お前に娘をやろう。
僧侶: 本当ですか!
牧師: ああ。ちゃんとプロポーズしろよ。
僧侶: はい!(携帯を取り出して)今、電話しますね。
電話をかける僧侶。
僧侶: あ、もしもし? 僕だけど。うん、今お父さんと話してて。許可もらえたよ。え? (トーンが落ちる)…あ、そう。うん。分かった。
電話を切る。
僧侶: 「ごめんなさい」と。
牧師: え?
僧侶: 振られました。
牧師: は?
僧侶: 「なんで父と勝手に話進めてるの」って。
牧師: ……。
僧侶: 「そもそもあなたの名前覚えてない」って。
牧師: そんなことある?
僧侶: 「ずっと“お寺の人”って呼んでた」そうです。
牧師: 役職で呼ばれてる…。
間。
牧師: なぁ、名前を覚えてもらうために、10%でどうだ?
僧侶: 虚しすぎます。
牧師: じゃあ…ニックネームつける、5%で。
僧侶: それもう、洗礼じゃないですか!
(了)
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