コント台本『着ぐるみが盗まれた』作：第三字宙

1. めぐみおねえさん（司会のお姉さん）
2. 山田太郎（ゆったくんの中の人）
3. ゆうたの父（子供を大事にする父親）

ステージの裏、めぐみおねえさんが、客席を見ている。

山田「どうしたんですか？」
めぐみ「あそこ、浮いてる人が座ってるんだけど」
山田「誰かのお父さんじゃないですか？」
めぐみ「それにしては、子供見ている気配がない・・・もしかして、スカウト？」
山田「え？」
めぐみ「聞いたことがある。子供向け番組のプロデューサーが、こうして全国津々浦々の現場を回って、”新しいお姉さん”を探しているって」
山田「いやぁ・・・そんな、高校野球の青田刈りじゃないんですから」
めぐみ「とうとう、私にもチャンスが来たわ」
山田「はぁ、そうですか」
めぐみ「山田、今日のステージ、私のおねえさんスキルの全部を捧げるから、アンタもよろしく頼むわよ・・・って、なんでまだ着ぐるみ着てないの！？　はやく着替えてきて！」
山田「は、はいっ！」

と、山田が捌けて、めぐみお姉さんがクルッと回ると、そこは子供向けイベントのステージ。司会のお姉さんが元気に登場。

めぐみ「みんなー！　こーんにちーわー！」
子供たちの声「こーんにちわー」
めぐみ「元気いっぱい！　じゃあ、ゆったくんを呼ぶよー！　せーの！」
子供たちの声「ゆったくーん！」

無音、出てこない。

めぐみ「あれ・・・？　あはは、照れてるのかなー！？　もう一回呼んでみよう！　せーの！」
子供たちの声「ゆったくーん！」

それでも出てこない。
袖から中の人、山田が顔を出す。

山田「・・・すいません、着ぐるみが、なくなりました」
めぐみ「は？　なくなりようがないでしょう？」
山田「盗まれました」
めぐみ「どうやって！？　冷蔵庫よりでかいのに！」
山田「ないんです。もう”ない”としか言いようがない」
めぐみ「ちゃんと探した？」
山田「探しましたよ、向かいのホーム、路地裏の窓、」
めぐみ「そんなとこにいるはずもない！　山崎まさよしか！」
山田「どうしよう・・・」

子供たちがザワザワ。

めぐみ「いいからなんか出して！　誤魔化して！」
山田「ご、誤魔化すってどうやって？」
めぐみ「夢と勢いでどうにかして！」
山田「わ、わかりました！」

山田、袖に引っ込む。

めぐみ「それじゃあ今日は、ゆったくんのお友達の〜・・・なんて名前かな〜？」
山田「（袖から）・・・うさちゃん」
めぐみ「うさちゃんでーす！」

ストッキングをかぶって出てくる山田。悲鳴。
めぐみ、蹴って引っ込ませる。

めぐみ「はい！　うさちゃんでしたー！」
山田「（袖から）なんで！？　登場1秒！」
めぐみ「犯罪者顔で来るな！」
山田「ありもので頑張ったんですよ！」
めぐみ「私のじゃないよな？」
山田「・・・」
めぐみ「なんか言えよ！」

子供たちザワザワ。

めぐみ「（山田に）次、次！」
山田「続けるの！？」
めぐみ「みんな、びっくりしたよね？　うさちゃんはね、ダイエットで激やせしちゃったの！　でも元気よ！　はーい、次のお友達は〜？」
山田「（袖から）・・・食パンくん」
めぐみ「あんこの友達じゃないよね？・・・しょ、食パンマ、食パンくんでーす！」

山田、紙袋を頭に被って登場。悲鳴。
めぐみ、山田を蹴り引っ込ませる。

めぐみ「はい！　食パンくんでしたー！」
山田「なんでだよ！　歓声あがってたじゃん！」
めぐみ「歓声じゃない、悲鳴！」
山田「じゃあ、次！」
めぐみ「もうやめよう・・・」
山田「最後！　俺でいきます！」
めぐみ「俺でいく！？」

山田、そのままの姿で登場。

山田「どうもー！　山田太郎です！」

会場沈黙。

めぐみ「むきだしのおっさんで出てくんな！」
山田「もう正直に話します、ゆったくんは・・・盗まれました！」
子供たち「えぇぇー！」
めぐみ「子供たちの夢が、新しいお姉さんの夢が・・・」
山田「盗んだ人、手を挙げて！」
めぐみ「教室じゃないのよ！」

客席の大人が手を挙げる。

めぐみ「いるんかい！」
山田「あなたが盗んだんですか！」
父「すみません・・・子供がファンで、会わせてやりたくて・・・つい」
めぐみ「”つい”で盗むな！　会場に連れてくればいいじゃん！」
父「そうしたいんですが。今、病気で長く入院していまして、さらに離婚調停中で、会えないんです」
めぐみ「・・・そんな事情が・・・って重いな！　あ、子供たち耳を塞いで！」
父「やっぱり返そうと思ったんです。でも・・・置き引きにあいまして・・・」
めぐみ「泥棒でリレーしてんのか！　ゆったくんはバトンじゃないんだよ！」
山田「お子さんのお名前は？」
父「”ゆうた”です」
めぐみ「ゆうたくん？」
山田「じゃあ・・・その子も”ゆったくん”なんですね」
父「はい。名前が似ているから、元気なゆったくんに自分を重ね・・・だから大好きなんです」
めぐみ「・・・でも、盗んだゆったくんに会ってもうれしくないでしょ」
父「えぇ・・・本当にすみません」

間。

山田「みんな！　ゆったくんは今、とっても大事なお友達のところへ行ってるんだ！　その子の名前は、ゆうたくん！」
子供たち「ゆうたくん？」
山田「そう！　ゆうたくんはね、今、病気と戦っていて、ゆったくんが励ましにいったんだよ！」
めぐみ「あんた・・・」
山田「だから、みんなも、ゆうたくんを応援しよう！　せーの！」
全員「ゆうたくん、がんばれー！」
父「あ、あぁ・・・」

拍手。

父「ありがとうございます、ありがとうございます！」
山田「さ、おねえさん！」
めぐみ「え？　あ？　あ！　こ、これでゆったくんショーはおしまいです！　ありがとうございました！」

万雷の拍手が続くなか暗転。
（了）