コント『新連載のタイトル案』 作:第三字宙

コント『新連載のタイトル案』 作:第三字宙

2025-10-28

コント『新連載のタイトル案』 作:第三字宙 約8分(約3100文字)

登場人物:3人
タク・フクタ(ちょっと大御所の漫画家)
林田(若手の編集者。マーケティング脳)
フクタカエ(漫画家のアシスタント兼配偶者。ほんわか天才)

漫画家の仕事場。漫画家のフクタと編集者の林田がいる。

林田「マンガデー編集部の林田です、本日からよろしくお願いします」
タク「漫画家のタク・フクタです。よろしくおねがいします。新人さんって聞いてるけど・・・漫画雑誌は初めてなんだって?」
林田「はい、右も左もわからず・・・“データ分析”は得意なんですが」
タク「漫画にデータ?」
林田「はい、最近は“タイトル分析AI”がありまして」
タク「(苦笑)AIかぁ・・・」
林田「先生の新連載、タイトルでバズらせましょう!」
タク「タイトルでバズらせる?」
林田「最近のヒット作、全部“タイトル勝ち”なんですよ! 内容はあとで整えればOKです!」
タク「内容より、タイトル先行なの?」
林田「そこで、いただいたネームからタイトル案を考えました・・・”幼馴染が実は未来から来た自分だった件”。トレンドタグが立ちそうです!」
タク「お、おぉ・・・、なるほど?」
林田「もうちょっとタイムリープ感が欲しいので「〜時間を超えて自分と付き合うことになった少年の物語〜」も付けて検索に引っかかるようにしましょう」
タク「漫画というより広告コピーだな」

アシスタントのフクタカエが入ってくる。

タク「(カエを手で示して)妻です。アシスタントもやっててね」
カエ「フクタカエです。よろしくお願いします」
林田「はじめまして、林田です! 今ちょうど新連載のタイトルを、」
カエ「うふふ、どんなですか?」
林田「”幼馴染が実は未来から来た自分だった件〜時間を超えて自分と付き合うことになった少年の物語〜”です!」
カエ「ふふ・・・」
タク「(否定されるの予測して)はは。まぁね、いくらタイトルが長いのが流行ってても、長すぎて、ねぇ?」
カエ「うふふ、うん、素敵!」
タク「(即迎合して)うん、そう! 素敵だよね」
カエ「それって"自己愛のメタファーとしての時間SF"でしょう?」
林田「え・・・はい!?」
タク「うん! そうそう、そうね。メタファーね」
カエ「時間を超えた自己対話ということね。過去を赦すための旅」
タク「さ、さすが僕の一番の読者!」
林田「なるほど! ではサブタイトルに『〜自己受容と癒しの時間旅行譚〜』も加えましょう」
タク「追加する方向なの?」
カエ「うふふ。でもこれ先生の構想だと、少年と少女のラブコメでしょう? 少年が自分と付き合うって・・・(考え込み)あ、でも“未来で性転換して戻ってきた”なら、理屈は破綻してるけど面白いわね」
林田「乗りましょう! “性転換”でジェンダー多様性をカバー!」
タク「いや、そこは”男の娘”っていう設定にしようかと・・・」
カエ「うふふ、でもそれって、ジュディス・バトラー的展開ね」
タク「誰? カードバトラーなら知ってる・・・」
カエ「つまり“ジェンダーと自己同一性”の物語」
林田「難しいけどバズりそう! “〜ジェンダーを超えた自己同一性の探求〜”を追加します!」
タク「また追加するの!?」
林田「先生! 今、ピンときました!「〜実は平行世界の別人だった可能性も否定できない件」!」
タク「そのピンはどこから来たの!?」
林田「"考察系YouTuber"を狙います。謎が多い方が解説動画が伸びるんです」
カエ「うふふ。平行世界なら、同じ人物が複数存在するわね」
林田「マルチエンディングの伏線ですね!」
タク「・・・ねぇ、ジャンルはラブコメだよ?」
林田「“癒しのSFダイバーシティ群像ラブコメ”に進化しました!」
タク「キメラみたいな進化をさせないで」
カエ「うふふ。平行世界まで含むなら、“観測されるまで確定しない”構造にできるわね。量子的。」
林田「量子きた! じゃあ“〜量子論的観測者効果により存在が確定しない件〜”です!」
タク「待って、漫画じゃなくて論文になってきてる」
カエ「でもそうなると、”観測者は誰か”という問題が出てくる」
タク「それは! ・・・読者じゃないの?」
カエ「うふふ! そうなのよ! “読者が観測する”ことで結末が変わる。つまり、読者参加型メタフィクション」
林田「“〜読者が観測者となる結末生成型メタフィクション〜”! いただき!」
タク「いただかないで! 返上して!」

ちょっと沈黙。林田がタブレットを見ながら。

林田「これ、AIに食わせたらタイトル案が自動生成されるんですよ! 先生、まだ聞いてます?」
タク「聞いて欲しいのは、僕の声よ?」
カエ「うふふ。いっそ作者も作中に介入させれば、構造として完成ね。“作者も観測対象に含まれる世界”に」
林田「きた!  “〜作者自身も巻き込まれる多層的自己言及ループ〜”!」
タク「内容よりタイトルが膨張してる」
林田「(打ち込むが)あー!! 先生! タイトルが長すぎて編集部の投稿フォームに入りませんでした」
タク「それじゃぁ、すでに編集部から拒否されてるようなものじゃない」
林田「しょうがないのでアナログで! 最終タイトルまとめます!」
タク「まとまるかね、それ・・・」
林田「タク・フクタ新連載タイトル!『幼馴染だと思っていた少女が実は未来から性転換して来た自分だったことが判明するも、実は平行世界の別人だった可能性も否定できず、量子論的観測者効果により読者が観測するまで存在が確定せず、作者自身も巻き込まれる多層的自己言及ループに陥る件〜自己受容とジェンダーを超えた量子的メタフィクション時間旅行譚〜』!」
タク「長いっ! それはあらすじ! しかもジャンル何?」
カエ「略すと?」
林田「幼件(ようけん)」
タク「“ようけん”って、なんか、裁判記録みたい・・・」
カエ「うーん・・・情報が消えすぎる・・・」
タク「いや! もう、消えたくらいがちょうどいいよ」
林田「でも消えるってつまり”情報圧縮”ですよね。テーマと一致してる!」
タク「そんなテーマ設定した覚えがない!」
カエ「わかった! 逆に”タイトルがどんどん長くなっていく漫画”を描けばいいのよ。毎話タイトルが伸びていって、最終話では本編より長くなる」
タク「そんなにページ数を取ったら、編集部から原稿料泥棒って呼ばれるよ?」
林田「カエさん、天才です! 検索結果で他を圧倒します!」
カエ「さらに、読者からタイトル案を募集して、採用したものを次話に追加するの」
林田「読者連動、SNS時代にぴったりです!」
タク「ねぇ! 僕とも連動して? 僕もぴったりさせて?」
カエ「これこそ真の「読者が観測者となる量子的メタフィクション」よ」
林田「・・・完っ璧じゃないですかっ!!」
カエ「うふふ。タイトルが伸びることで、読者の理解力も試される」
林田「タイトルだけでKindle出版できます!」
タク「じゃあ本編の漫画いらないじゃん!」
林田「いやいや、漫画としてやるからインパクトがあるわけで」
タク「そんなの・・・僕、描けないよ」
カエ「うふふ。じゃあ私、原作やるわ。先生は作画で」
林田「契約、進めますね! 『原作:フクタカエ、作画:タク・フクタ』で!」
タク「え? じゃあ僕、実質、アシスタント?」
林田「いえいえ、そんな! 先生はもう“観測対象”ですから」
カエ「観測者が対象になると観測体系が崩壊するのよ」
タク「はぁ? どういうこと?」

林田とカエがいなくなる。

タク「え? ちょっと、どこ行くの? 何? 決まったの? え、え?・・・(かなりうなだれて)俺、もう“漫画家かっこ観測対象”って書かれるんだろうな・・・。(ため息)・・・漫画家はどこに行くんだろう。いや、そのうちタイトルに吸収されるんだ」

(了)

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