匂い - 劇団コピュラ

休憩をしている人がいる、そこに下敷きを持って人がやって来る。 先人 「あれ、その下敷き」 当人 「あ、わかりました？ 当たっちゃいましたぁ」 先人 「わぁ、すごい、クジすぐ売り切れですよね」 当人 「そうなんですぅ、たまたま入ったら、やってて、まぁ、当たらないかってやったら、なんと、当たっちゃいましたぁ」 先人 「わぁ、わぁ、おめでとうございます」 当人 「あ、ありがとうございますぅ」 先人 「くさっ」 当人 「え」 先人 「あ、ごめんなさい」 当人 「え、くさい？ あれ」 先人 「いえ、体臭とかじゃなくて」 当人 「え、え」 先人 「くんくん、くん、く、くさっ」 当人 「え」 先人 「あ、これだ、これ、くさい」 当人 「え、え、だっえ」 先人 「この下敷きくさいっす」 当人 「そんな明確に」 先人 「どうしたんすか、え、なんで、普通に」 当人 「いや、あの」 先人 「がまん、してました」 当人 「いえ」 先人 「いや、だって、くさっ！ これ、一朝一夕の匂いじゃないですよ、もっと根源的な部分でくさいっす」 当人 「そんなに、そんなにその万物的な」 先人 「がまんしてたんですね」 当人 「え」 先人 「自慢、したい、するために」 当人 「そんな、いやだって、当たったし」 先人 「当たってたって、これ、このくささ、製造工程から疑うレベルっす」 当人 「あのね、あの、人の物をね、そう、そんなにくさい、くさいって」 先人 「だって、当たる前までは、所有してなかったっすよね、くささの根源は、あなたにはないんですよ」 当人 「いやいやいや、でも、当たったし、当てたのは私ですよ？ということはですよ、今は私のもので、そのわたしのモノをあなたわぁ」 先人 「ちょ、あおがないで、あおがないで、尊くないから、全然、仰がれても尊くない」 当人 「尊いでしょうが」 先人 「推しは尊い、かもしれませんけど、私が問題視してるのは、その下敷きそのものなんですよ」 当人 「不可分なんですから」 先人 「何がですか」 当人 「この推しがプリントされた下敷き、推しと下敷きは別ですか？カレーとライスは別ですか？カレーとライスでカレーライスでしょう？カレーライス好きでしょう？」 先人 「話をすげかえないでください、わかります、その一体となっている以上、推しとほぼ同一視して、自分の所有物になったそれそのものに愛着をもつのはわかります、だがしかし、だがしかしですよ、その製造工程、あるいは企画者、このアウトプットにゴーを出した人たちはですね、この問題に気づかなかったのかと」 当人 「テレワークの時代だから、現物はみていないのでは」 先人 「そこですよ！そこ！自分でもいま、気づいてますよね、現物を見て嗅いだら、あれ、これ、ヤバいなと、市場に流通させてはいけないものだなと、どうやって会社までもってきたんですか」 当人 「まぁ、普通に包んで（何重にもなったビニール袋を見せる)」 先人 「ほら！ほら！やばいのだなと、すくなくとも、移動中、周囲に違和感を感じさせないようにするためですよね！喫煙者が携帯灰皿を入れる工夫と酷似してますよそれ！」 当人 「タバコほどじゃないでしょう」 先人 「タバコもね、わたしね、体質的にね、苦手なんですけどね、それ以上のアトミック級のね、ヤバさです」 当人 「そんなに」 先人 「どうするんですか」 当人 「え」 先人 「どうするんですか、それ、体調が悪くなったら推し活だって支障がでるでしょう」 当人 「…密封して、部屋に飾ります」 先人 「だめです！だめですよ、ダメよダメダメ」 当人 「じゃあ、どうしたらいいの」 先人 「捨てましょう」 当人 「え、捨てる」 先人 「捨てましょう」 当人 「そんな、もったいない」 先人 「わかりますよ、だって、推しがプリントされてますからね、そんなイエスが印刷されたくらいの、踏み絵みたいなね、恐ろしい試練、わたしもさせたくないです」 当人 「そうだよ、捨てるなんて」 先人 「だから、譲りましょう」 当人 「ほぅ」 先人 「必要としてる人に」 当人 「ん」 先人 「必要としている人に施せばもしかしたら、もっと良い出会いがあるかも」 当人 「ちょっとまって」 先人 「はい」 当人 「あれ、うそ、もしかしてなんだけど」 先人 「え？わたしが、そうお思いで？」 当人 「うん、だってさ」 先人 「わたしはいりませんよ！だってわたしがいち早くくさいと気づいたのですから、まず、わたしは除外でしょ、推理モノだったら真っ先に消えるでしょ、容疑者から」 当人 「いや、ここまで喚き立てられると、逆にミスリードかなって」 先人 「こんなところにはいられん、わしは部屋に戻るって、いって真っ先に殺されるタイプでしょう、なんらなら」 当人 「うん、そうだね、たしかに」 先人 「てことは、犯人ではないですよね」 当人 「え、なに、犯人？」 先人 「私は犯人ではなく、第一、あるいは第二の被害者であると」 当人 「ちょっとまって、ちょっと落ち着こう、整理しよう、あの、これはまず」 先人 「くさいっす」 当人 「それで提案は」 先人 「捨てることです、手放しましょう」 当人 「捨てるのはあれだから、手放すとして、誰、あるいはどこに」 先人 「チ、チ、チ、チ」 当人 「うん、教えて」 先人 「メルカリっす」 当人 「えー、いいのかなぁ、くさいんでしょ、あとで低評価つけられて、メルカリでフリになるじゃない」 先人 「書いとけはいいんですよ、めちゃ臭いって」 当人 「えー」 先人 「ノークレーンノーリターンで」 当人 「んー、なんか値下げ交渉とかされてめんどくさそうなんだよね」 先人 「くさいだけにね」 当人 「あ、ははは」 先人 「わたしが代わりに出品しましょうか？」 当人 「いいの？」 先人 「いいですよ、メルカリ全然やってないんで」 当人 「やってないんだ」 先人 「そうです、やってないので、別に不利になってもいたくもかゆくもないですね」 当人 「おぉ、じゃあ、お願いしようかな」 先人 「代わりにここで払いますね、わたしが」 当人 「あ、ありがとう至れり尽くせりだ」 先人 「いくらですか？」 当人 「えーと、クジが500円だったから、500円でどう？」 先人 「いやしい」 当人 「え」 先人 「いやしいですよ、なんなら、強欲です」 当人 「そんなに」 先人 「いいですか？いま、供養されようとしています、この下敷きは」 当人 「えぇ、はい」 先人 「それをあなた、お寺さんに逆にお金くださいといえますかね」 当人 「え、いわないですけど、いくらですかっていうから」 先人 「かぁ、チ、チ、チ、チ」 当人 「ちょっとイラッとくるから、それやめてほしいかな」 先人 「0です」 当人 「ゼロ」 先人 「ゼロで済むんですよ、マイナスちゃいまっせ」 当人 「なんで急に関西っぽさ」 先人 「わたしが、無料で、この下敷き、供養してさしあげます」 当人 「メルカリで」 先人 「そう、メルカリで、手数料はわたし負担」 当人 「メルカリじゃなく」 先人 「売れると手数料とられるんですよ、むしろ、わたしが取られるくらいの」 当人 「その手数料見込んで金額積むわけでしょ、なんなら、もしかしたら、ほら、売れてるから、プレミア価格ついて」 先人 「あーあー、もう、ほら、そこ、そこですよ、強欲ですよ、火に焼かれますよ、塩化ビニールだから、燃やしてはだめですよ、なんですか、急にあおいで」 当人 「いや、なれたのかなと」 先人 「え？なれた？その下敷きの香りに？くんくん、くさっ！何さすんすか！」 当人 「いや、結構な時間一緒にいてさ、もうなれちゃったのかなって、その程度のものなのかなって」 先人 「みくびらないでくださいよ！その下敷きの臭さを！」 当人 「みくびってるわけじゃないのだけど、あれね、結構慣れってあるよね」 先人 「なれは怖いです」 当人 「そうね（と、しまう）」 先人 「あれ、しまってどうするんですか」 当人 「うん、会社にもってこないでさ、部屋に飾ろうかなって、そうしたら誰にも迷惑かからないし」 先人 「え、あ、いや、体調が」 当人 「うん、そうかもしれないんだけどね、そんなにほら、お手数おかけするのも申し訳ないし、今後メルカリで処理してもらったっていう負い目を推しにも、君にも背負いたくないかなって」 先人 「あ、あ」 当人 「それに、僕も悪かったよ、当たった事がうれしくて、くさいにもかかわらず、君にみせたいが一心でさ、こんなビニール袋何重にもして、いま袋もタダじゃないのにね」 先人 「あの」 当人 「ごめんね、今日は持って帰るよ、もう二度と持ってこない」 先人 「そう、ですか」 当人 「うん、ありがとう心配してくれて」 先人 「はい」 当人 「もうそろそろ休憩も終わるね、戻るよ」 先人 「はい」 当人 「じゃあ」 先人 「あの、」 当人 「うん？」 先人 「たまに見に行っていいですか？」 当人 「…」 先人 「すいません」 当人 「いいよ、もちろん」 おわり

匂い

休憩してたら知り合いがクジで当たった下敷きを見せびらかしにやってきた

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