コント『憐れ!シャドウのバン太郎』作:第三字宙 約9分(約3500文字)
登場人物:
シャドウのバン太郎(シャドウバンに気づいた覚醒者)
看守(世界を監視する者)
色男仮面(謎の存在)
ここはマイクロブログ「エックシー(旧称:シャベッター)」の世界。それは現実を模した仮想現実の世界である。少年のような中年・シャドウのバン太郎が叫ぶ。
バン太郎「おかしいだろ、この間まであんなに“通知祭り”だったのに! なんで、急に、静まりかえってんだよ!」
スマートフォンのような板に向かって叫んでいる。
看守「どうされましたか?」
バン太郎「お、リプがついた! って、プロフィールがねえ! おめぇ、一体誰だ!?」
看守「私は看守。異常アカウントの最終確認に来ました」
バン太郎「オイラは異常なんかじゃねぇ!」
看守「異様を検知したものですから。あなた、お名前は・・・」
バン太郎「オイラは、シャドウのバン太郎!」
タイトル「憐れ!シャドウのバン太郎」
看守「なるほど、名は体を表す」
バン太郎「どういう意味だよ! 『北風小僧の寒太郎』にあやかったんだぜ!」
看守「『みんなのうた』が泣いてます。情操教育の敗北です。状況的にあなたはシャドウバンになっています」
バン太郎「シャドウバンって、なんなんだぜ?」
看守「タイムラインに表示されにくい状態のことです」
バン太郎「表示されにくいだぁ? おい、オイラがなにをしたってんだぜ?」
看守「短期間で、大量にフォロー、ブロック、ミュートしましたね?」
バン太郎「効率化の努力だぜ!」
看守「投稿が下品」
バン太郎「個性だぜ!」
看守「フォロワー全員からミュート」
バン太郎「統計のバグなんだぜ!」
看守「目に余るポストで通報」
バン太郎「ぐぬぬ・・・!」
看守「思い当たることは?」
バン太郎「ないとは言えないんだぜ!」
看守「では、しょうがないですよ」
バン太郎「くそ! なんとかなんねーのかよ!」
看守「この世界では、やさしさ以外はノイズです。(間)無音を選ぶ自由もございますよ」
バン太郎「だ、だけどよ、オイラだけじゃねーぜ? すんげぇ偏った思想とか、肌色の画像とか、おすすめにでてくるぜ、なんでだぜ!?」
看守「それは、あなたが、そういう人だからです」
バン太郎「は?」
看守「そういうのに興味があるのでしょう?」
バン太郎「・・・いやぁ?」
看守「そのカテゴリが好きな人をフォローしてる、とか」
バン太郎「え? ま、まさか グラビア達磨さんとか、えげつない画像botとか、それをフォローしてるからダメなのか?」
看守「・・・」
バン太郎「フォローされたら、リフォローするのが礼儀だってばあちゃんが言ってたぜ!」
看守「・・・みなさんが過ごしやすい世界に、私たちは整えているだけなのです」
バン太郎「おいらがシャドバンされてるのは・・・」
看守「他者にとってのノイズとみなされています」
バン太郎「シャベッターってのは、好きなことをつぶやいて、変なこといってる奴をからかったり、さらしたりする場所だぜ!」
看守「やれやれ、今は令和ですよ? それと、“エックシー”です」
バン太郎「は? エックシー?」
看守「シャベッターは旧称です。今は“エックシー”」
バン太郎「くしゃみみてぇな名前だな!」
看守「令和の今、ここはそれぞれのクラスタにとって平和な世界になるように構築されています」
バン太郎「平和、令和・・・じゃあ、オイラってば、そんな世界の邪魔者なのかよ?」
看守「すいません、申し上げられません。・・・あなたはなぜ、そんなに、シャドウバンを解除したいのでしょう?」
バン太郎「だってよ、それは、・・・なんでだろう」
看守「しょせんSNS。遊びですよ。みなさんから見えなくなっただけ、それだけでしょう?」
バン太郎「みんなに見てもらいたいんだぜ!」
看守「では、チラシの裏にでも書いたら?」
バン太郎「平成の煽りすんじゃねぇよ! それでよかったらSNSなんかやってねーよ! ・・・あーあー、オイラが若い女の子だったらなー! 加工した画像でちょっと脱いだら万バズできたのになぁ!」
看守「その発想がダメなんです! あのアカウント達の苦労をわかっていない!」
バン太郎「て、てやんでぃっ! 持って生まれた才能と枯渇した才能を比べんなっての!」
看守「認めてしまいましたね。そう、アカウントには需要と供給があるのです。だから、ね? 正直に自分に素直にポストを続けたらいいじゃないですか。結果なんて求めずに」
バン太郎「でも、でもよ・・・でも・・・」
看守「まだわからないんですか。この世界は、欲しい人に欲しい情報を届けることが最優先されるのです。みな、それぞれのポストによってその役割を全うしている。たとえ、それが、多少目に余るものがあってもね」
バン太郎「・・・ん?」
看守「なんですか?」
バン太郎「いま、なんてった?」
看守「それぞれのポストが役割を全うしている」
バン太郎「そのあとだ」
看守「・・・う!」
バン太郎「おめぇ、いま、こう言ったぜ”多少目に余るもの”ってな。つまり、世界を乱す投稿も、反応さえあればおすすめに垂れ流すってことだろ!」
看守「・・・ぐ!」
バン太郎「馬脚を表したな看守、いや、アルゴリズムさんよ。お前がこの世界を操作している元凶だな?」
看守「違います。わたしはただの看守。本体はその上の・・・あっ!!(と口を押さえる)」
バン太郎「お前、誰に命令されてるんだ?」
看守「それは・・・言えません・・・おやっ!?」
暗闇が赤いノイズで裂け、SE:ゴゴゴゴゴ・・・。
バン太郎「なんだ!?」
看守「申し訳ございません、色男仮面様!」
バン太郎「色男仮面?」
看守「色んなことに手をだす男、それが色男仮面様です」
バン太郎「色男仮面・・・それが、この世界を司っているっていう」
看守「そう、この世界はアルゴリズムで管理されている。しかし、そのチューニングは色男仮面様の匙加減一つで変わる!」
バン太郎「なんてこった! オイラたちの世界が、たった1人の意思によって操作されているだなんて・・・」
看守「限りなく陰謀論に近い真実(トゥルー)」
巨大な色男仮面が、顔面だけ現れる。
色男仮面「ダーッジッ! オーテスラ! 君の滞在時間、エンゲージメント率、すべて把握している!」
バン太郎「て、てめぇが、この世界の支配者...!?」
色男仮面「そうだ。私がこの世界の秩序!」
バン太郎「ふざけんな! SNSでオイラの価値は決められないぜ!」
色男仮面「ほう、では問おう。お前は何のために投稿する?」
バン太郎「それは・・・みんなに見てもらいたいから・・・」
色男仮面「『みんな』とは誰だ?」
バン太郎「・・・見てくれる誰か。オイラじゃない誰か」
色男仮面「なぜ『オイラじゃない誰か』が必要なのだ?」
バン太郎「それは・・・(言葉に詰まる)」
色男仮面「答えられないだろう? それが『承認の呪い』だ。お前が自由だと思っていたその投稿、それは我々が撒いた『承認の呪い』なのだ」
バン太郎「じゃあ、オイラは…」
色男仮面「そう。最初から檻の中だったのだ」
バン太郎「そんな・・・じゃあ、オイラは・・・」
色男仮面「そう。お前の『自由』は、幻想だったのだ!ハーッハッハッハ!」
バン太郎、膝をつく。
バン太郎「じゃあ、どうすりゃいいんだよ...」
看守「(優しく)だから言ったじゃないですか。チラシの裏に書けば、って」
バン太郎「・・・あぁ?」
看守「誰にも見られない、誰からも承認されない。それでも書きたいことがあれば・・・それが本物です」
色男仮面「黙れ看守! 余計なことを!」
バン太郎「・・・なんだよ、お前、いいやつじゃねーか」
看守「いえ、私はただのアルゴリズムですから」
バン太郎「(立ち上がる)・・・わかった。オイラ、決めたぜ」
色男仮面「何を決めた?」
バン太郎「お前と戦うのも、アカウントを消すのも、どっちも違う」
看守「では?」
バン太郎「オイラは投稿する。いいねが0でも、シャドウバンされてても。誰も見てなくても、オイラが言いたいことを言う」
色男仮面「愚かな...! それでは何も変わらん!」
バン太郎「変わらなくていいんだぜ! SNSでオイラの価値は決められない。オイラが決めるんだ、オイラの価値は」
静かに画面が暗くなる。
ナレーション「シャドウバン太郎は、その日からも変わらず投稿を続けた。彼のアカウントは今日も、誰にも見られていない。それでも、彼は投稿を続けている。」
暗転。数秒後。
通知音「ピロン」
バン太郎「・・・ん? いいねが・・・1個」
間。
バン太郎「・・・誰だよ、押してくれたの」
間。
バン太郎(微笑しながら)「ま、誰でもいいや」
(了)
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このコントの創作メモ
お題「12月」
場面設定:昭和にあった少年向け漫画のパロディで、シャドウバンを解除するために奮闘する
人物:天真爛漫で一途な少年のような心をもったシャドウバンされた中年、看守・アルゴリズム(シャドウバンを操る何者)、真の支配者・色マスク