登場人物3名、上演想定約6分(約2236文字)
- レッド(戦隊メンバー・胴体担当。熱血で純粋)
- ブルー(戦隊メンバー・左足担当。理知的で懐疑的)
- 怪人ゾンゲラー(敵組織の戦闘員。哲学的で皮肉屋)
街の広場。怪人ゾンゲラーが腕を組んで立つ。そこへレッドとブルーが駆けつける。
レッド「(ポーズを決めて)正義の戦隊、フルフォースファイブ!」
ブルー「(同じくポーズ)悪を挫き、平和を守る!」
間。
怪人「・・・2人?」
レッド「そうだっ!」
ブルー「本来は5人編成だ」
怪人「残りの3人は?」
レッド「来られないっ!」
怪人「来られない? 5人揃わないことなんてあるのか?」
レッド「くどいっ! 心の中に3人いるっ!」
ブルー「つまり、8人?」
レッド「いや、6人っ!」
怪人「計算が合っていない。フルフォース"ファイブ"だ。5人で合わせろ、そこは」
レッド「・・・どうする?」
ブルー「じゃあ、僕の心の中1で、レッドが2」
レッド「俺の負荷が高いっ!」
ブルー「じゃあ、僕が2で、レッドが1で、」
レッド「ピンクはどっちだ?」
ブルー「・・・グリーンとイエローが僕で、ピンクはレッドだよ」
レッド「ふむ・・・。イエローも捨てがたいな、暖色系だから」
怪人「なんだっていい」
レッド「とにかくっ! 俺たちは戦う覚悟があるっ!」
怪人「その前に聞きたい、お前たちは何のために戦う?」
レッド「正義のためだっ!」
怪人「その正義って、何?」
レッド「悪を倒すことだっ!」
怪人「では、私がいなかったら、正義は成立しない?」
ブルー「! ・・・それは」
怪人「あなた方が正義でいられるのは、私が悪だから。共犯関係じゃないですか?」
レッド「きょ・・・共犯だと?」
怪人「そう。相互依存。あなた方の・・・スポンサーも、情操教育のためと言っている。しかし、その正義を観て育った大人たちは、今・・・」
間。
レッド「何だ?」
怪人「ネットで誰かを叩いてる」
ブルー「う・・・」
怪人「それが“正義”の帰結じゃないのか?」
レッド「違うっ!」
怪人「でも、正義だと思ってやっているんですよ。あなた方が教えた“悪を許さない正義”を」
ブルー「・・・確かに、昨今の正義は攻撃的かもしれない」
怪人「でしょう? 悪を見つけたら叩く。あなた方の教育の成果です」
レッド「俺たちはそんなつもりじゃ、」
怪人「つもりはなくても、現実はそう」
ブルー「や、でも人による」
レッド「そうだ、人によるっ!」
怪人「人による・・・、じゃあ社会が?」
レッド「社会が悪いというのかっ!?」
怪人「まあ、社会も五人揃ってませんし」
レッド「それはどういう比喩だ。さぁ! 来いっ!(と、決めポーズを変える) どうしたブルーっ!?」
ブルー「・・・一理ある、な、と思って・・・」
レッド「どぉうしたんだブルーっ!?」
怪人「私にも矛盾があるんです。私は“悪”の役割。でも、本当に悪ですか?」
ブルー「・・・あ、暴れてるじゃないか」
怪人「そう。演出の悪。あなた方も正義を演じるだけ。演じるだけの正義と悪に意味がありますか?」
レッド「演じる・・・エンタメかっ!」
怪人「そう。正しいことを魅せるエンタメ。それもプロパガンダの一種。本物の悪は正義の顔をして歩いてる」
レッド「なに? そんな恐ろしい奴が世の中にいるのか・・・?」
怪人「損得と利害が生じれば誰しも」
ブルー「・・・俺も?」
間。
レッド「惑わされるなブルぅーっ!」
ブルー「一理ある・・・俺たちが倒せるのは、演じる相手だけだ」
怪人「だから・・・やめませんか?」
レッド「やめる?」
怪人「私が悪を演じるのをやめる。あなた方も正義を演じるのをやめる。そして、本当の問題に向き合う」
ブルー「本当の問題・・・」
怪人「なぜ人は他者を攻撃するのか。それを」
レッド「それは戦隊の役目じゃないっ! 俺たちは戦うんだっ!」
怪人「役割に縛られてますね?」
レッド「使命だっ!」
怪人「その使命が巡り巡って別の悪を生むなら?」
レッド「・・・むずかしいことはわからない」
ブルー「俺もだ」
怪人「わからないのが正しい。わかったふりをする方が危険です」
間。
レッド「じゃあ、今日戦わないですか?」
怪人「戦ってもいいですよ。でも・・・何のために?」
ブルー「何のために・・・」
怪人「二人しかいないあなた方が、巨大化した私を倒せますか? 胴体と左手だけのロボットで」
レッド「それでも戦うっ! 不完全でも戦うっ!」
怪人「なぜです?」
レッド「それが・・・俺たちの・・・」
怪人「役割だから?」
間。
怪人「一度止めましょう、戦いを。そして考える。正義とは何か、悪とは何か」
ブルー「でも止まったら・・・放送が、」
怪人「何も起きません。倒す必要はない。ただ、お互い存在するだけ」
レッド「テレビの前で楽しみにしているちびっ子たちは?」
怪人「見せるべきは完璧な正義ではない。迷いながら答えを探す姿を見せる」
ブルー「日曜の朝にか?」
レッド「難しいな・・・」
二人、いたたまれなくなり、その場を去ろうとする。
怪人「一つだけ最後に」
レッド「何だ?」
怪人「あなた方の活躍を見て、かつての子供達は、”正義は攻撃”だと思い込んでいる。それを修正できるのはあなた方だ」
ブルー「修正?」
怪人「次に子供の前に立つ時、伝えてください。正義とは他人を攻撃することじゃない。自分の矛盾と向き合うことだと」
レッド「お前が言うのか」
怪人「悪だから言えるんです。私の方が見えてるものがある」
ブルー「・・・ありがとう」
怪人「どういたしまして。では、また五人揃った時に」
レッド「待てっ! 揃っても・・・」
怪人「揃っても?」
ブルー「前と、同じ戦いはできない・・・」
突然の未登場メンバーたちの声。
未登場メンバーたちの声「(遠くから)遅れてすまんっ!」
レッド・ブルー・怪人「タイミング!」
暗転。
(了)
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