コント台本『路上ライブでバトル-LOVE.SYNTH.ETHICSシリーズ-』作:第三字宙

コント台本『路上ライブでバトル-LOVE.SYNTH.ETHICSシリーズ-』作:第三字宙

登場人物3名、上演想定約7分(約2663文字)

登場人物:

  1. ゆうた(ゆーくん。ミュージシャン志望の青年。常識人枠だが、徐々に狂気に引きずられる)
  2. 牧田(ストーキングシンセMAKITA。もえみの元ストーカー。改造されてシンセサイザーになった。忠誠心が強く、燃料はもえみの咀嚼物)
  3. きらら (路上ライバー。自身を楽器カリンバに改造した求道者)

駅前。ゆうたがウクレレを抱えて、恥ずかしそうに演奏している。まったく人が立ち止まらない。横で牧田だけが異様な熱量で揺れている。

牧田「素晴らしい! ゆうたさん、最高です! ぜんぜん、お客さんが来ませんが、いいですね!」
ゆうた「盛り上がってるのあんただけだよ・・・」
牧田「ゆうたさん? 私を使えばもっと人が来ますよ? どうして使わないんですか?」
ゆうた「シンプルに不気味だからです。路上で、男が男の体を触って音を奏でているっていうのは、なにかしらの条例にひっかかりそうです」
牧田「そうですか・・・まだまだ日本は多様性が浸透していませんね」
ゆうた「公共の場での多様性の範疇を超えていると僕は考えますが」
牧田「でもゆうたさん、もえみさんは言っていました。『これからは自分を拡張しない奴が一番の負け組』だと」
ゆうた「もえちゃんの価値観、常に三歩先行きすぎなんだよ・・・この街、人体改造楽器が流行ってるって聞いてたけど、まさかここまでとは・・・」

向こうで大きな歓声。牧田が首を伸ばす。

牧田「なんだなんだ!」

牧田が見に行く。ゆうたは片付けを始める。牧田が興奮して戻ってくる。

牧田「ゆうたさん! 向こうですごい人を集めているミュージシャンがいます!」
ゆうた「まぁ、そういう人もいるでしょ」
牧田「ゆうたさん! あなたはもえみさんの気持ちわかってないです!」
ゆうた「なにがですか」
牧田「もえみさんは、あなたのミュージシャンになる夢をかなえるために、私をシンセサイザーに改造したのです。さぁ! あんな、女の体を武器にした音楽なんて、この熟成されたおじさんの体で蹴散らしてしまいましょう!」
ゆうた「何を見てきたんですか?」
牧田「それは・・・」

そこに、路上ライバー"きらら"が現れる。胸元にカリンバの鍵盤が埋め込まれている。

きらら「見ない顔ね」
牧田「あ! さっきのカリンバ女!」
ゆうた「カリンバ女?」
牧田「この女、私と同じです。自分の体をカリンバに改造しています!」
ゆうた「この街には狂人しかいないんですか?」
きらら「どうやらあなたも、改造人体楽器ミュージシャンのようね」
ゆうた「そんなカテゴリが存在するんだ・・・」
牧田「ゆうたさん、気をつけてください。この女の音は・・・!」

牧田が言うやいなや、きららが自分の体を触り、カリンバの音を奏でる。周囲から歓声と、妙に色っぽい声が溢れる。

ゆうた「こ、これは・・・癒しと、いやらし、だ・・・」
きらら「フォロワー12万人。再生回数は月間300万。月収は80万。企業案件も来てる」
牧田「数字で殴ってきた!」
ゆうた「倫理的にどうかと思うけど・・・でも、ちょっと感動してる自分がいる・・・いや、でもやっぱり寒いから帰ろう」
きらら「あなた、ウクレレなのね。わたしもウクレレは好きよ。アナログ楽器の温かみのある音、癒される。でも・・・あなたはなぜ、自分をウクレレにしないの?」
ゆうた「人体改造を当たり前の価値観にしていないからです」
きらら「整形反対?」
ゆうた「ぶっこみますね」
きらら「綺麗になれるならいいじゃない。自分の稼いだお金で綺麗になって周りの人が優しくなって、win-winじゃない」
ゆうた「否定ではありません。個人の自由だと思います」
きらら「だったら、自分の体を楽器にしてもいいじゃない?」
ゆうた「恐ろしい飛躍です」
牧田「ふん、親にもらった体にメスを入れるなんて親不孝だぜ」
ゆうた「あなたがそれ言っても説得力ないんですよ」
牧田「わたしは、すすんでこうなったのではない。改造させられたんです!」
ゆうた「まぁ、そうですけど・・・」
きらら「そう。こっちのおじさんが、人体楽器なのね。どうして、使わないの?」
ゆうた「シンプルに気持ち悪いからです」
きらら「それって偏見じゃない?」
ゆうた「え?」
きらら「楽器はすべて等しく美しく尊いものよ。おもちゃのピアノだって、ストラディヴァリウスのヴァイオリンだって」
牧田「わたしは、ストーキングシンセ牧田だ」
ゆうた「『ス』しか合ってませんよ」
きらら「あなた、ウチと勝負しなさい」
ゆうた「勝負?」
きらら「そう。もうすぐクリスマス。クリスマスの曲で、お客さんを感動させたほうが勝ち」
ゆうた「感情に勝ち負けなんてないですよ」
きらら「じゃあ、より人を集めたほうが勝ち」
牧田「なんだ、そんなんでいいのか?」
ゆうた「どこから来るんですか、その自信は? こっちの負けでいいです。帰ります」
牧田「ゆうたさん! やる前から諦めてどうするんですか!」
ゆうた「寒いから帰ります。ヒートテック着てくればよかった」
牧田「冬にウクレレですからね。うすうす感じていましたが、あなたは季節感がありません」
ゆうた「・・・」
きらら「残念ね。いいライバルができたと思ったのに」
ゆうた「ライバル?」
きらら「あなたのウクレレ、ライブをしながらでも私の心に届いていた。自分のライブの最中なのにね」
ゆうた「え?」
きらら「あなたとなら、この駅前の路上ライブシーンを盛り上げられると思っていたのに。残念だわ」

きららが去ろうとする。

ゆうた「待ってくれ!」
牧田「ゆうたさん、言わせていていいんですか? あの女、舐めてますよ。やっちまいましょうよ!」
ゆうた「今、言うから、入ってこないで」
きらら「なに?」
ゆうた「クリスマスの曲でお客さんを集める。その勝負、受けて立とう」

きらら、カリンバを鳴らす。

きらら「そうこなくっちゃね、ライバルさん」
牧田「ゆうたさん・・・! やってやりましょう!」
ゆうた「日時は12月24日の18時。場所はここ。それでいいな!」
牧田「おらおらおらー! ゆうたさんがこうなったら手がつけられねーぜー! おらー!」
ゆうた「なんであなたそんな舎弟みたいなキャラになるの?」
牧田「テンション上がるとキャラ変するんです!」
きらら「あ、ごめん。その日、普通にデートだから無理」
ゆうた「え?」
きらら「クリスマスイブじゃん? 彼氏とデートだから。この勝負、預からせて。またこっちから連絡するから」
牧田「てめぇ! 聖なる夜が性なる夜じゃねーか!」
きらら「ま、こんな親父ギャグ言うような人体楽器じゃ、人の心を動かすなんて無理でしょうけどね。音楽より愛。それが今の時代のリアルよ。チャオ」

きらら去る。

牧田「キーッ!!!! くやしー!!!!」
ゆうた「・・・きらら、彼氏いるんだ」
牧田「ゆうたさん・・・」
ゆうた「音楽って、こんなに孤独で、こんなに狂ってるものなのか・・・」

ゆうた、牧田の電源を切るふりをする。

牧田「ちょ、やーめーろーよー」

暗転。
(電子音ピピッで終わる)
(了)

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