コント『ぶつかり地獄』作:第三字宙 約9分(約3600字)
登場人物:
姫谷(ひめたに)元・女性(20代)姿は男性。
無道寺(むどうじ)元・おじさん(中年)姿は女性。
紫(むらさき)紫色の鬼。チャラい。繁華街にいるキャッチっぽい。SNS感覚。
緑(みどり)緑色の鬼。いつもだるい。理屈っぽい。マニュアル人間
地獄。姫谷、おじさんの姿で目覚める。
姫谷「ここは?・・・んん!(声に驚く)やだ、おじさんの声! ・・・そうだ、私、おじさんにぶつけられて・・・死んだ?」
紫鬼、軽快に登場。
紫「チィーっす! ぶつかりの人?」
姫谷「ち、違います! ぶつけられた人です! どこですかここ?」
紫「ぶつかり地獄っす。ぶつかりの人しか来ねぇ、」
姫谷「ぶつかり、地獄!?」
紫「最近"相互ぶつかり"多いんすよ。セットでご来場」
姫谷「私、おじさんの体になってて・・・」
紫「あ、そうなんすね。入れ替わったんすかね? ま、問題ないす。働いてもらうだけ」
姫谷「はたらく?」
紫「ぶつかり発電。死者同士でぶつかり続けて地獄の電力を作るの。再生エネルギー?」
姫谷「再生エネルギー!? 地獄って意外とSDGs意識高い」
紫「めっちゃ意識高いっすよ。地獄2.0って感じ」
姫谷「でも、なんで私が、そんな罰を!」
紫「”罰”じゃない、ただ”働く”だけっす」
姫谷「地獄だ・・・」
紫「だから、地獄だっての!(スマホを取り出す仕草)今日のノルマ確認しとこ」
女の姿になった無道寺と緑鬼が登場。
無道寺「は、はなせ! はなせよ、この!」
緑「ダメ。マニュアル第4条「誤配送された死者は速やかに返却すること」」
姫谷と無道寺が向き合う、二人同時に
姫谷・無道寺「あ!」
姫谷「私?」
無道寺「俺!?」
間。
姫谷「・・・シャツ、タックインにしてたのに」
無道寺「俺のネクタイ、もっと曲がってたぞ
紫「細けぇっすね」
緑「こっちのこれが、そっちのそれってことか。中身戻さないと」
無道寺「いい俺は! この女の体のままで!」
姫谷「返してよ! わたしの体! ん?・・・体? 死んだのに?」
緑「ああ。(マニュアルをめくる)アバターみたいなものだ」
無道寺「課金する! このアバターを買わせてくれ!」
緑「対応不可」
無道寺「地獄の沙汰も金次第って言うじゃないかっ!」
緑「マニュアル第13条・・・"賄賂禁止"」
無道寺「えっ」
緑「・・・お前、どういう人生送ってきた?」
無道寺「・・・おじさんの体に戻りたくない・・・! 女の体なら誰かが助けてくれる!」
緑「ここは地獄。おじさんも女も等しく苦しむ。マニュアル第1条」
紫「あー、そっか。おじさんで生きてた時が辛すぎたってことっすか? エモっ」
無道寺「お前らにはわからないだろ!」
緑「・・・ふーん。(マニュアルをパタン)で? ストレス溜まって、弱い奴にぶつかった?」
無道寺「・・・ああ」
紫「あら正直☆ 炎上案件っすね」
姫谷「最低!」
無道寺「ぐっ・・・」
緑「小心で卑怯な正直者だ。(淡々と)さ、あんたらの体を交換しよう」
姫谷と無道寺が、適度な距離で配置される。
紫「はーい、じゃあぶつかってー」
姫谷「え? ぶ、ぶつかると戻るんですか?」
紫「さぁ、わかんねぇっす」
姫谷「えぇぇぇ・・・?」
緑「何回かぶつかって、互いに理解したら戻る・・・らしい」
姫谷「結局、ぶつかるしかないんですか? ・・・しょうがない」
無道寺「・・・いや、俺は、この体でいたい! いやだ!」
無道寺、逃げようとするが鬼に捕まる。
無道寺「いやー!!!」
間。
緑「・・・やめよう」
紫「え、マジっすか? ここでやめます?」
緑「本来は直接ぶつかる方が発電効率が3倍いい。でも抵抗する場合は・・・(マニュアルめくる)ぶつかり柱、か」
紫「え、そんなのあったんすか!?」
緑「別冊。読んでないのか」
紫「別冊とか知らないっす!」
緑「だからお前は・・・」
いつの間にか、ぶつかり柱が用意されている。
紫「効率悪いやつっすね」
緑「妥協案だ」
姫谷「あの、柱にぶつかる?」
無道寺「いやだ、いやだ」
姫谷「あんたも、いい加減に観念しろよっ!」
無道寺「ひっ!」
紫「おー、こわっ!」
緑「・・・さぁ、はじめて」
姫谷・無道寺が渋々、ぶつかろうとする。
姫谷・無道寺「や、やぁーっっ!」
2人が柱にぶつかると、SE「ポン」とかわいい音。長い沈黙。全員固まる。
紫「・・・今の音、完全にLINEの通知音じゃないすか?」
緑「発電量、スマホの充電1%分」
姫谷「少なっ!」
無道寺「しょぼい地獄だな・・・」
緑「予算削減でな」
紫「あんたらが、もっと強くぶつからないと!」
姫谷・無道寺「すいません・・・」
緑「続けて」
紫「次ーっ!!」
姫谷・無道寺「やぁーっっ!」
暗転。
紫(声のみ)「もう3時間っすよ? まだ28パー」
緑(声のみ)「このペースだと、あと9時間」
姫谷・無道寺「「えぇぇぇ!?」」
ゆっくり明るくなり。
紫「残業代出ないんすよね、俺ら」
無道寺「地獄だな・・・」
紫「だから地獄だっつってんじゃん!」
緑「続けて」
紫「次ーっ!!」
姫谷・無道寺「(疲労困憊)・・・やぁーっ!」
SE「ドーン」と激しい音。おじさんの体の姫谷が強く柱にぶつかり、女の体の無道寺が吹っ飛ぶ。
無道寺「痛っ!」
姫谷「あ、ごめっ!」
紫「(姫谷に)なにやってんすか? ガタイの良い方がちゃんとぶつかんないと!」
緑「(無道寺に)大丈夫か。打ち所が悪いと死ぬぞ」
無道寺「もう死んでます」
緑「あ、そうか・・・(スマホ見せて)まだ28パー。残業確定」
姫谷・無道寺「「すいません…休憩…」」
鬼たち、目配せして退場。
紫「(去り際に)すぐ戻るんで。見回りが来てもお口ジッパー!」
沈黙。2人、背中を向けて座っている。
姫谷「・・・あんた、この体で生きてたの?」
無道寺「あぁ・・・、それがどうした?」
姫谷「この体、重い。視線がない。誰も見てくれない。毎日そうだった?」
無道寺「・・・慣れる」
姫谷「慣れちゃダメなやつじゃん」
間。
無道寺「この体・・・軽いのに、なんでこんなに疲れるんだ」
姫谷「常に警戒してるから。無意識に」
無道寺「警戒?」
姫谷「あんたみたいなのが、いつぶつかってくるかわからないから」
無道寺「・・・っ」
間。
姫谷「・・・辛かったでしょ」
無道寺「!!・・・うぅ(こらえる)」
姫谷「余計なこと言っちゃった」
無道寺「・・・女って、みんなこうなのか? 他人の視線が・・・怖い。常に品定めされているみたいで・・・。不安がいつも身の回りに・・・」
間。
姫谷「あたし、別に女の代表じゃないからね?」
無道寺「ああ・・・」
姫谷「あの日・・・なんで私だったの? なんでこんなことされないといけないの? とっさに、ぶつかり返したけど」
無道寺「・・・反撃されると思ってなかった」
姫谷「・・・あんたがなんで、ぶつかってたのかなんて、わかりたくもないけど」
無道寺「・・・俺も、痛みがわかった」
姫谷「・・・女の体になって、わかったってこと?」
無道寺「・・・女は、幸せそうに生きているように見えたんだ。でも違った。みんな、恐れ、傷ついている。おじさんの体が理由じゃなかった・・・」
姫谷「想像すれば、わかりそうなことだったね」
無道寺「・・・そうだな。わかろうとしなった。想像できなかった」
二人の体が光り始める。鬼、戻ってくる。
紫「お、光ってる光ってる」
緑「終わりか」
紫「見回りに報告しなくていいっすか?」
緑「・・・報告義務なし」
紫「じゃ、いいか」
緑「マニュアル通り。理解して、戻って、消える」
姫谷は女の体に、武道寺は男の体に戻っている。
姫谷「消える…って、どこに?」
緑「次に行く。マニュアルに詳細記載なし」
紫「天国か、転生か、まぁどっかっすよ」
無道寺「!! な、なぁっ!」
姫谷「(振り向く)」
無道寺「ぶつかって、す・・・すまなかった。・・・ごめん」
間。
姫谷「許すわけないでしょ」
間。
無道寺「すまない」
間。
姫谷「ぶつかるんじゃなくてさ」
無道寺「え?」
姫谷「想像しよう」
無道寺「・・・想像」
姫谷「そして、優しく。相手にも自分にも優しく」
無道寺「・・・ああ」
長い沈黙。二人、初めて互いを見る。
光が強くなる。二人、消滅。
紫「戻ってましたね、元の体に」
緑「あぁ」
紫「ノルマ未達成だけど・・・まぁいっか。二人、ちゃんと話したし」
緑「マニュアル第8条"真の理解に至った場合、発電量不問"。また誰か来るだろ。(マニュアルを閉じる)稼働率は上昇中」
紫「電力上がっても給料変わんないんすよね」
緑「地獄だな」
紫「っていうか、俺ら、いつまでここで働くんすかね?」
緑「・・・マニュアルに記載なし」
エピローグ。
駅の通路。雑踏の音。
姫谷らしき女性、スマホを見ながら歩いてくる。
無道寺らしき男性、反対側から歩いてくる。
ぶつかりそうになる。
二人、ほぼ同時にスマホから顔を上げる。
目が合う。
一瞬、時が止まる。
無道寺、半歩横にずれる。
姫谷、会釈する。
すれ違う。
二人、同時に小さく息をつく。
振り返らない。
雑踏の音が戻る。
人々が行き交い続ける。
暗転。
(了)
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