コント台本『DAWこそ全て -LOVE.SYNTH.ETHICSシリーズ-』作:第三字宙

コント台本『DAWこそ全て -LOVE.SYNTH.ETHICSシリーズ-』作:第三字宙

2025-11-18

登場人物3名、上演想定約8分(約3093文字)

登場人物:

  1. 牧田(もえみの元ストーカーでシンセサイザーに改造された中年男性)
  2. 川崎(もえみの元ストーカーでDAWに改造された中年男性)
  3. もえみ(彼氏のために手作りのシンセサイザーを作った狂人)

もえみの部屋。牧田が入ってくる。

牧田「もえみさん、いますか?  今日の分の配給をいただきたく・・・」

部屋の中央に、スーツを着た中年男性・ダウ川崎がいる。

川崎「(振り向かずに)あなたが、人体改造楽器1号、ストーキングシンセサイザー牧田ですね」
牧田「・・・誰だおめぇ」
川崎「(ようやく振り向く。メガネをクイッと上げる)ダウ川崎と申します。初めまして」
牧田「もえみさんはどこだ」
川崎「もえみさんは少し席を外されています。(淡々と)牧田さん、あなたの行動パターンを99.2%再現できました」
牧田「な、何だそれ」
川崎「公開情報の収集と分析です。合法的な範囲内で」
牧田「お前も、もえみさんのストーカーだろ!?」
川崎「(首を傾げる)いいえ、違います。私は惚れ込んだものには常軌を逸して追っかける、ただのファンです」
牧田「それをストーカーっつうんだ!」
川崎「法的には異なります。私は一度も接触していません。一方、牧田さん。あなたはもえみさんの後をつけましたね」
牧田「つけた」
川崎「ゴミ袋の中身を」
牧田「漁った」
川崎「(平然と)どちらがより問題か、明白ですね」
牧田「お前、何者なんだ」
川崎「(微笑む)私は、次世代です」

もえみが入ってくる。

もえみ「あ? 牧田、なにサボってるの?」
牧田「サボってないですよっ! ゆうたさんがいつものように、作曲に煮詰まって逃走したので、配給をいただきにきたのです」
もえみ「また逃げたの? まぁ、そのうち帰ってくるでしょ(ふと思い出したように)あ、そういえば牧田。私、人間を楽器に改造できる方法をユーチューブで公開することにしたんだ。これで、誰でも楽器になれるよ」
牧田「誰でも?」
もえみ「うん。ゆーくん以外ならね。彼氏が楽器になるのは嫌」
牧田「はい・・・(川崎を指して)そんなことより、もえみさん、こいつ、ストーカーでしょ?」
もえみ「うん、そうだよ」
牧田「うん、そうだよ、じゃないですよ!」
もえみ「大丈夫。DAWにしたから」
牧田「・・・は?」
もえみ「だから、川崎もゆーくんのために開発したの。早く使わせたいな〜」
牧田「ちょっと待ってください・・・DAW?」
川崎「デジタルオーディオワークステーションです」
牧田「何だそれ」
もえみ「牧田、デジタル詳しくないもんね」
川崎「音楽制作の全工程を統括するシステムです。録音、ミキシング、マスタリング・・・全てを一つのプラットフォームで完結させます」
牧田「・・・DTMのこと?」
川崎「(少し嫌そうに)DTMはパソコンを使った音楽制作全般を指します。DAWはその中核となるソフトウェア、あるいは私のようなスタンドアローンのシステムを指します」
牧田「シルベスターだかスタローンだかしらねぇが、同じだろ?
川崎「全く違います。「音楽」と「シンセサイザー」を同じだと言うようなものです」
牧田「(もえみに)じゃあ、わたしはなんですか・・・?」
もえみ「牧田はシンセサイザー、音を出す楽器。川崎はDAW、曲として完成させる存在」
牧田「・・・」
川崎「(淡々と)現代の音楽制作において、DAWは中枢です。シンセサイザーは音源の一つに過ぎません」
牧田「(ムッとして)何だと・・・」
川崎「ソフトシンセという選択肢があります。物理的なシンセサイザーの優位性は、触覚的なインターフェースと、わずかなレイテンシーの差、そしてアナログ回路特有の・・・」
牧田「うるせえ! 誰がそんな講釈聞きたいって言った!」
川崎「(首を傾げる)では、何を聞きたいのですか?」
牧田「お前、本当にもえみさんのストーカーだったのか?」
川崎「繰り返しますが、常軌を逸したファンです」
牧田「だからそれがストーカーだって言ってんだよ!」
川崎「法的根拠を示してください」
牧田「もえみさん、こいつ、本当に大丈夫なんですか?」
もえみ「すごく優秀。この前、ゆーくんのデモ聴かせたら、一晩でマスタリングまで終わらせてくれたんだ」
牧田「一晩で・・・!」
川崎「8時間42分です。正確に申し上げれば」
牧田「もえみさん」
もえみ「ん?」
牧田「わたしはもう、必要ないんですか?」
もえみ「(きょとん)何言ってるの?」
牧田「だって、こいつが全部できるなら・・・私みたいなシンセなんて・・・」
川崎「その認識は正しいです」
牧田「何?」
川崎「効率性と汎用性の観点から言えば、私一つで完結します」
もえみ「牧田は必要」
牧田「(心打たれて)もえみさん・・・」
もえみ「牧田しか出せない音がある」
川崎「ソフトシンセでエミュレート可能ですが」
もえみ「川崎!」
川崎「・・・失礼しました」
牧田「(川崎を睨む)・・・お前な」
川崎「はい?」
牧田「お前がすごいのは分かった。でもな・・・お前、人間じゃねえよ」
川崎「ええ、人体改造楽器ですから」
牧田「そういう意味じゃねぇ! 何でもかんでもデータと効率で考えやがって・・・お前、もえみさんのこと、本当に好きなのかよ?」
川崎「・・・愛情とは、測定可能なパラメータではありません。しかし、私がもえみさんに費やした時間、収集した情報量、分析に使用した計算リソース・・・これらの数値から、私の「好き」の度合いは定量化できます」
牧田「・・・本当に分かってねえな」
川崎「何がですか?」
もえみ「(二人を見て)仲良くしてね、二人とも」
牧田「無理です!」
川崎「私は問題ありませんが」
牧田「そういうとこだよ!」
川崎「もえみさん、一つ提案があります」
もえみ「なに?」
川崎「牧田さんを私のシステムに統合しませんか? MIDIインターフェースで接続すれば、彼の音源としての価値を最大限に活用できます」
牧田「何言ってんだおめぇっ!」
川崎「あなたの音色をサンプリングし、私のライブラリに追加する。そうすれば、あなたは物理的に存在する必要がなくなります。より効率的です」
牧田「効率的じゃねえよ! 俺が消えるってことだろ!」
川崎「データとして残ります。デジタルイモータル。永遠の命です」
牧田「デジタル芋掘り? いらねえよそんな命!」
もえみ「川崎、それダメ。牧田のままがいいの」
川崎「・・・理解できません。非効率です」
牧田「(詰め寄り)なあ、川崎」
川崎「はい?」
牧田「お前・・・これ、分かるか?」

牧田、胸に手を当てる。

川崎「心臓の位置を示していますね」
牧田「違う。ここが・・・ここが、音楽を作る場所なんだよ」
川崎「・・・」
牧田「お前は頭で作る。俺は、ここで作る」
川崎「・・・データには存在しない要素、ということですか」
牧田「そういうこった」
川崎「あなたの「心臓で作る音楽」と、私の「頭で作る音楽」どちらが優れているか。・・・これは挑発ですか?」
牧田「違うな。これは「宣戦布告」だ」
川崎「・・・受けて立ちます」
もえみ「二人とも、いい感じになってきたね!」
牧田・川崎「(同時に)なってないです!!」

二人が睨み合う。緊張感のある沈黙。

もえみ「じゃ、次はゆーくんも交えて、みんなで音楽作ろ」
牧田「(ハッと)ゆうた・・・そうだ、ゆうたさんは大丈夫なのか・・・?」
もえみ「何が?」
牧田「だって、もえみさん・・・誰でも楽器にできるって」
もえみ「大丈夫だよ。ゆーくんは絶対に楽器にしないから」
牧田・川崎「(同時に)・・・なんで?」
もえみ「だって、ゆーくんは私の彼氏だもん。彼氏を楽器にしちゃダメでしょ?」
牧田「・・・圧倒的格差」
川崎「我々、もえみさんを頂点としたヒエラルキーの底辺です」
もえみ「さ、みんな、自分の身分も立場もわかったことだし、早速、ゆーくん探しに行こ🎵」
牧田・川崎「(同時に)その前に配給を!!」
もえみ「働かざるもの食うべからず」

暗転。
(電子音ピピッで終わる)
(了)

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