コント『結論から言ってくれ』 作:第三字宙 約6分(約2200文字)
登場人物:3名
上司(40代男性)効率主義で焦りやすい。会議を素早く進めたいが、部下の予測不能な返答に徐々に消耗していく。
部下(20代・性別不問)真面目に考えすぎて実存的な領域に到達してしまった人物。狂気ではなく、過度な誠実さゆえに現実を突き抜けている。身体表現は最小限。
総務(30代・性別不問)現実感覚を持つ常識人。会議に「現実」を持ち込む役割。登場のたびに空気をリセットしようとするが、徐々に実存の渦に巻き込まれていく。
会議室。中央にテーブルと椅子3脚。上手側にホワイトボードがあり「新企画提案」と書かれている。散らばった資料。白色蛍光灯のような照明。
開演。上司が資料をめくりながら座っている。部下は姿勢良く座り、前を見つめている。
上司「よし、じゃあ・・・先週頼んだ春向けキャンペーン企画の件。結論から、短く言ってくれる?」
部下「結論からですか?」
上司「うん、結論から」
間。
部下「・・・人は、いつか死にます」
上司、メモを書きかけるが言葉に気付き、間。
部下「結論からです」
上司「・・・いや、そういう哲学はいいから(少し微笑む)論文じゃなくて企画ね」
部下「どういう結論ですか」
上司「今日の企画書。春向けキャンペーンの企画書の話」
部下「ああ。企画の結論から言います。生きているうちに、やりましょう」
上司「そういう意欲論でもないんだよ。成果。成果はどうなの?」
部下「生きるということ自体が成果です」
上司「それ、ちょっと企画の枠から外れてる気がする。宗教?」
部下「いえ。社内宗教を立ち上げるのが、私の提案ではありません」
上司「そうだよね、企画の話だよね」
部下「はい」
総務が入ってくる。手にタブレットを持っている。
総務「すみません、ちょっといいですか?」
上司「何?」
総務「・・・この会議、いつ終わりますか?」
部下「人生が終わるまでです」
総務「・・・今日中には?」
部下「今日も、人生のうちです」
総務「いやでも、17時には終わりますよね?」
部下「17時も、死ぬまでの途中です」
総務、愛想笑いで一歩下がる。
総務「・・・この会議、長引きそうですかね?」
上司「ごめん、早めに、終わらせるから」
総務、退場。
上司「・・・じゃあ具体的に、企画の期待できる成果を数字で言ってくれる?」
部下「数字ですか?」
上司「うん、数字」
部下「まだ始まっていないので、0です」
上司「え?」
部下「始まれば、1になります」
上司「はぁ」
部下「つまり、生きる前は0です。生きている間は1です」
間。
部下「死んだら・・・保存されません」
上司「ファイルじゃないのよ・・・聞きたいのは、この企画をするとどういう成果が出せそうなの?」
部下「0と1です」
上司「えぇ・・・。あ! 続きがあるのかもしれないね、それ。うん。その心は?」
部下「生と死の二進法です」
間。
部下「まだ始まってない状態ですので0です。始まったら1になります」
間。
上司「・・・以上?」
部下「はい」
上司「そのくだり、さっきやったじゃない! 企画なんだから、もちろん、まだ0だよ。うん。だからさ、その企画をすると、どうなるの?」
部下「存在そのものがですか?」
上司「う・・・企画の存在そのものが、というか、うーん。企画が存在したら、どうなってくの? なにか測定できるの?」
部下「KPIで測定できます」
上司「(少し安心して)あぁ! そう! K・P・I! それで?」
総務が再び入ってくる。
総務「すみません、また」
上司「何?」
総務「KPIって、何の略でしたっけ?」
上司「どういうタイミング?」
部下「(即答)KPI『結論、パニック、意味喪失』です」
総務「・・・え?」
部下「現象として、そうなっています」
上司「それは今の状況」
総務「KPIは、結論、パニック、意味喪失?」
上司「いやいや、そういう意味じゃないよ」
総務「じゃあ、正しいKPIは・・・」
上司「Key Performance Indicator。重要業績評価指標だよ」
総務「そうそう、それそれ」
部下「でも、この会議では『結論、パニック、意味喪失』です」
上司「・・・なるほど」
間。なんとなく空間を見渡して。
上司「確かに、そうなってる」
総務「はぁ・・・」
総務、退場。
上司「ああ、もうっ・・・。報告書、明日までに現実的にまとめてくれる?」
部下「承知しました。結論から書きます。『死ぬまでに頑張ります』」
間。
上司「その結論は、報告書には書けないかな」
部下「ダメですか?」
上司「うん、なんか泣きそう」
部下「結論から言うと、泣くのも人生です」
上司「・・・そうだね」
再び総務が扉をそっと開け、
総務「あの・・・すみません。コピー機、また止まりました」
上司「それは生きてるうちに直せる話?」
部下「コピーも、死ぬまでに使い切るものです」
総務、固まる。
総務「じゃあ、コピー機も、いつか死ぬんですね」
部下「その通りです」
総務「・・・そうですよね」
総務、ゆっくり退場。の束の間、総務が再び入ってくる。
総務「あの・・・社内報の締切なんですが」
部下「死ぬまでに出します」
総務「(うなずく)ですよね・・・私も、いつか出します」
上司「この会議、まだ始まってもいないな」
間。
部下「結論から言うと・・・そうなりますね。0」
上司「・・・もう会議、終わりでいいよ、〆て」
部下、立ち上がる。資料を整える。
部下「では、結論から言います」
静かに見回し。
部下「皆さんも、いつか死にます」
間。
上司「・・・結論から言うと、もう帰りたい」
間。
総務「すみません、結論から言って・・・私も帰っていいですか」
上司「いいよ。生きてるうちに」
部下「それが生きる理由です」
間。
上司「その結論、採用」
照明、ゆっくりフェードアウト。ブラックアウト。
(了)
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