登場人物4名、上演想定約6分(約2083文字)
- 小原(おばら)・・・中年、その昔ノロマでダメ人間だった
- 野村(のむら)・・・中年、その昔ヒロインだった
- 大将・・・居酒屋の大将
- はねる・・・中年、メンコバトルの世界に生きる男
大将の居酒屋、カウンター席、小原、野村がカウンターで飲んでいる。
小原「・・・いや、だから、あの夏の冒険だよ。あったろ?未来の道具で空を飛んで、敵の宇宙船を追撃してさ」
野村「またその話?」
小原「またって・・・どうして僕たちの冒険を覚えてないんだよ!」
野村「あんた一人で妄想してただけでしょ」
小原「妄想じゃない! 大将は知ってるよね!?」
大将「(片付けをしながら)ああ、わたしはテレビで見たけど・・・」
野村「え? テレビで流れてたの?」
小原「映画にもなったじゃない、どうしてわすれちゃったのさ」
そこへ、勢いよく戸が開く。はねるが入ってくる。手にメンコの束。
はねる「・・・失礼する」
大将「はい、いらっしゃい」
はねる、カウンターの端にメンコを並べ始める。
野村「(大将に)何してんの、あの人?」
はねる「(振り向かず)見ればわかるだろ」
野村「メンコ?」
はねる「違う、メンコファイトだ」
野村「メンコじゃん!」
小原「(小声で野村に)・・・なんか、俺たちと近いにおいがする」
野村「一緒にしないで」
はねる「(一枚を取り出し)・・・こいつを使うのは、十年ぶりだ」
はねる、聞いて欲しそうに、野村を見る。
はねる「(一枚を取り出し)・・・こいつを使うのは、十年ぶりだ」
はねる、聞いて欲しそうに、野村を見る。
小原「・・・野村、彼が見ている」
野村「だからなに?」
小原「聞いてあげるんだ」
野村「はぁ?」
はねる「(一枚を取り出し)・・・こいつを使うのは、十年ぶりだ」
野村「・・・(仕方なく)なんで十年も?」
はねる「封印していた」
野村「・・・」
小原「野村!」
野村「っ、・・・なんで?」
はねる「こいつで、親友を・・・」
野村「何したの」
はねる「裏返した」
野村「メンコで?」
はねる「そうだ」
小原「(思わず)・・・わかる。俺もある。空の上で、親友を、裏返した」
野村「新しい妄想が生まれた」
はねる「(小原に気づく)・・・お前も、メンコファイターなのか?」
小原「メンコファイター?」
はねる「ふ、そうか。俺しか覚えてないんだな」
小原「待って、あなたも?」
はねる「なに!?」
小原「僕も(野村を指して)こいつに『あの夏の冒険、覚えてないのか』って、ずっと言ってて、」
はねる「(嬉しそうに)・・・お前も、忘れられた側か」
小原「多分・・・!」
二人、初対面なのに妙に意気投合する。
野村「・・・何、この二人」
はねる「(小原に)俺たちは、あの日、全国大会に行った」
小原「全国大会に?」
はねる「お前もいた」
小原「僕も?」
はねる「そこのおばさんもいた」
野村「おばさんて! あんた、なんなの?」
はねる「メンコファイター、はねるだっ!」
小原「メンコファイターはねる・・・?」
野村「だから誰なの?」
はねる「地方予選を勝ち上がり、県大会を制し、全国、そして世界大会。最後は、メンコによる国家間紛争にまで発展した」
大将「(グラス拭きながら)ああ、それもテレビで見た気がするな」
野村「大将、なんでもテレビで見てるね」
はねる「・・・やるぞ」
野村「なにを」
はねる「決まってるだろ、メンコファイトだ!」
野村「ここ、居酒屋だよ?」
はねる「関係ない」
野村「床、油でぬるぬるだよ、メンコやる場所じゃない」
はねる「俺には関係ない!」
はねる、床にメンコを叩きつける。
パァン!と小気味いい音だが、メンコは油でぴくりとも動かない。
全員「(思わず)おお・・・」
はねる「(静かに)・・・見ただろ、今の一撃を」
野村「いや、いい音はしたけど」
はねる「俺はまだ、戦える」
一瞬、店が静かになる。
小原「(ぽつりと)・・・その気持ち、わかるよ・・・はねるさん」
はねる、別の一枚を取り出し、じっと見つめる。
はねる「・・・このメンコだけは、裏返してはいけない」
小原「なんで?」
はねる「黒メンコだからだ」
小原「・・・黒メンコ?」
はねる「知らないのか」
小原「し、知らない」
はねる「・・・そうか」
少し落胆する。間。
野村「(小原に)あんた、こいつより普通じゃん」
小原「え?」
野村「よかったね、まだこっち側で」
小原「こっち、側?」
はねる「黒メンコには、マイナスの力が備わっている。触れた者は、これから先、あらゆる勝負に負け続ける」
大将「(グラスを拭く手を止めて)・・・あったね、そういう呪いの札」
野村「大将、詳しいね」
大将「テレビでやってた」
野村「(呆れながら)もおぉ、大将まで乗っからないでよ」
小原、はねるの手の中の黒メンコを見つめる。長い間。
小原「(ぽつりと)・・・見せてくれよ、それ」
はねる「・・・いいのか」
小原「別に、負けたって、今更失うものなんてないし」
小原、メンコを一枚、そっと手に取る。
小原「僕さ・・・もう一回、あの頃みたいに何かと戦ってみたいんだ」
はねる「・・・」
小原「僕と、一戦、付き合ってもらえないか」
はねる「(少し笑う)・・・いいだろう」
野村「ちょっと、あんたまで! せっかくこっち側だったのに!」
小原「(構えながら)・・・いいんだよ、これで」
二人、カウンターの端でメンコを構える。
大将「(つぶやく)・・・うぉぉ、あの場面の再現か、これは熱い!」
野村「だから、どの場面よっ!?」
(了)
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