登場人物3名、上演想定約8分(約2867文字)
- 医者
- 患者(本橋)
- 看護師
医者と患者が対面して座っている。
看護師が傍に立っている。
医者「では本橋さん、今日は最新式の内視鏡検査を行います」
患者「口からのやつ、キツいんですよね……」
医者「ご安心ください。うちは鼻から入れる方式も、口から入れる方式も、両方あります」
患者「へえ、選べるんですね」
医者「はい。……ちなみにどちらもえずきます」
患者「しょうがないですよね、嫌ですけど」
医者「嫌ですよね? そこでうちの病院、今回導入したのがこちら。ケーブル無し、極小ドローン式胃カメラです」
医者、ぱっと見は見えないサイズのドローンを見せる
患者「ドローン!? それ大丈夫なんですか!?」
医者「映像はブルートゥース転送。ケーブルを飲み込む必要は、もうありません」
患者「じゃあ、えずかない……」
医者「あ、いや、糸だけは結んであります。回収用に」
ドローンから細い糸がぶら下がっている。
患者「結局、糸あるんだ。凧あげと変わらないじゃないですか」
医者「では、いきますよ。……起動」
ブーンという音。ドローンが飛ぶ、医者と患者と看護師がそれを目で追っている。
ちょっと拙い飛び方。
医者はゲームのコントローラーを握っている。
患者、顔をしかめる。
看護師「はい、アーンしてください」
患者「あーん・・・」
医者「じゃ、入りますよ〜」
患者「うっ……羽が、羽が喉に当たって…」
医者「喋るともっと気道が狭くなるので、我慢してください」
患者「うううう・・・」
モニターに映像が映る。
医者、操縦桿的なコントローラーを構える。
看護師「先生、本橋さんって血液型何型でしたっけ」
医者「今操縦中だから」
看護師「あ、そうだ、お昼どこ行きます?」
医者「操縦中」
看護師「あそこの新しいパスタ屋、並んでるらしいですよ」
医者「操縦中だって!」
ドローンがぐらつき、機体が壁にぶつかる音。
患者「痛い痛い痛い! 先生、パスタの話してる場合ですか!」
看護師「すみません、ついクセで」
患者「何のクセですか!」
医者「おや……モニターの様子が」
モニター画面、ゲームのような表示に切り替わる。
患者「なんですかこの8ビットっぽい映像は」
医者「土管がありますね」
患者「胃に土管!?」
医者「あ、ハテナブロックも」
患者「先生、それ叩かないでくださいね」
医者「(コントローラーに手が伸びる)……いや、これはコインが」
患者「取りに行くな! 操縦して!」
映像のドローンが、ハテナブロックを叩くと、1UPキノコのようなものが出てくる。
医者「あ! 本橋さん、やりましたね、1UPキノコです」
患者「え?」
医者「一機増えましたよ、良かったですね」
患者「やったー!って、どうでもいい!」
ドローン、またもぐらついて壁に激突する音。
医者「失礼、つい・・・お、これは……胃の奥に人影が」
患者「人影!? 僕の胃の中に人がいるんですか!?」
医者「小さいおじいさんと、木でできた少年のような……」
患者「ピノキオとゼペットじいさんじゃないですか」
医者「詳しいですね」
患者「詳しいも何も、なんで胃の中にいるんですか!」
医者「さあ? ただ、幸せそうに木工をしていますね」
患者「僕の胃、どうなってるんですか」
看護師「先生、バッテリー残り20%です」
患者「なんでギリな感じで診察してんですかっ!」
医者「大丈夫です。糸で回収しますので」
患者「その糸、『念のため』って言ってましたよね」
医者「今、その念のためが活きています」
ピー、ピー、と警告音。
看護師「先生、Wi-Fi、圏外になりそうです」
医者「体の中で圏外になるとは・・・想定外だ」
患者「想定しておいてくださいよ! 初めてなんですか!?」
医者「静かに、呼気が粗いと、風で揺れますから!」
患者「うぅぅ・・・」
モニターにGPS表示。ナビ音声が流れる。
ナビ音声「まもなく、小腸付近です」。
患者「ナビついてるんですか?」
医者「経由地案内もできます。次は大腸方面へ」
患者「胃カメラでしょ!? 戻して戻して!」
ガシャン、という着陸失敗の音。
医者「あ、着腸に失敗しました」
患者「コラー!!! どうしてくれんですか! これいま、ドローンが胃の中にいるの?」
看護師「安心してください、糸でひっぱりますから」
と、医者が糸を巻き上げて、回収する。
患者「ちょ、急に引っ張らないで・・・あっ、いたたたた」
医者「あ、糸切れてる」
患者「こ・・・コラーっ!!! ドローンが胃の中に残っちゃったじゃないか!」
看護師「そのうち自然に出てきますよ」
患者「出てくるかっ!」
医者「潮を吹かれるご予定は?」
患者「鯨じゃないんでっ! (ぐったりしながら)先生、僕の胃の中って、結局どうだったんですか」
医者「検査の結果ですが」
患者「はい」
医者「メルヘンですね」
患者「診断名じゃない!」
医者「異常は見当たりませんでした。ただ、ハテナブロックだけ少し気になります」
患者「だけ!? キノピオとゼペットじいさんは?」
医者「潮を吹かれるご予定は?」
患者「だから鯨じゃないんで!」
看護師「大丈夫ですよ、人間には二つ穴がありますからね」
患者「あぁ・・・」
医者「問題ございません」
患者「まぁ、お医者さんが問題ないっていうなら・・・」
医者「本橋さん、ナーバスになってますね」
患者「えぇ、まぁ」
医者「健康診断というのは、出荷前の牛のような気持ちになるものです」
患者「どういうこと?」
医者「流れ作業でいろんな検査を受けて、問題がなければ出荷される」
患者「・・・え、私、出荷されるんですが? そこまで牛の気持ち、わかったことないですけど」
医者「はは。まあ、せいぜいペットショーくらいのものですよ。人間ドックだけに」
患者「いや、うまくない! ドローン! 胃の中にドローン残ってるんですけど!?」
看護師「バリウム飲まなくていいのは助かりますよね?」
患者「助かりますけど! 胃の中に、ドローン残ってるんですよね?!」
看護師「下剤をお渡ししますので、大丈夫ですよ」
患者「うぅぅぅ・・・。明日以降、体からドローンが出てくるかと思うと、それはそれで怖いです」
医者「潮吹けるように手術しますか?」
患者「鯨にするな!」
看護師「あぁっ!」
患者「なんですか?」
看護師「先生、1UPキノコとりましたよね?」
医者「そうか、もう1機ドローン飛ばせるね、それで回収しよう」
患者「やめてください! もういいですっ!」
医者「いや、でも、せっかく・・・」
患者「もういいってばっ! あれ? 映像がまだ」
医者「あぁ、飛べないですけど、映像は届きますね」
患者「ん? ピノキオがなんか喋ってませんか?」
と、映像にテキストウィンドウが出る。
ピノキオ「おじいさん、このドローン検査は本当にあることなんだよ」
ゼペット「へえ、そうなんだ」
映像のピノキオの鼻が伸びる。
患者「あ、嘘ついたから?」
ピノキオの鼻にドローンが引っかかって、口から押し出す。
患者「おええええっ!」
看護師「やった、ドローンが出てきました」
医者「本橋さん、良かったですね、ピノキオが嘘をついてくれて。また1年後、お会いしましょう」
患者「二度と来るかっ!!」
暗転。
字幕「本コントはフィクションです。人間ドックにドローンは使用されません」
(了)
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