登場人物3名、上演想定約10分(約3971文字)
- 不堂(不動産屋)
- 刈田(借主)
- 宝生(保証人)
不動産屋の店内。
不堂が書類を読んでいる。宝生がその隣にいる。
刈田が入ってくる。
刈田「こんにちは」
不堂「いらっしゃいませ。ちょうど今、いただいた契約書を確認していたところです」
刈田がカウンターに座る。
刈田「大丈夫そうですか? 部屋、借りられますか?」
不堂「はい。大丈夫そうです。それでは、予定通り、今日は保証会社からのご説明ということで」
と、不堂が宝生を紹介する。
宝生「どうも、保証会社から参りました、宝生と申します」
刈田「はじめまして、刈田です。保証のほう、よろしくお願いします」
宝生「はい。何かご不安な点があれば、なんでも保証いたしますので」
刈田「聞きたいんですけど。僕、実はペット飼ってまして」
不堂「えっ? こちらペット不可の物件でして」
宝生「大丈夫です。保証します」
不堂「いや、保証するとかしないとかじゃなくて、規約でペット不可なんですけど」
宝生「我々が保証しますので」
不堂「(困惑)……何を保証するんですか」
宝生「ペットを」
刈田「あ、それと楽器も。夜中にドラム叩くんですけど」
不堂「いやいや! 非常識です! 楽器禁止です、規約に書いて、」
宝生「保証します」
不堂「騒音を保証するってどういうことですか?」
宝生「大丈夫ということです」
不堂「大丈夫ってあなた──」
刈田「あと、僕、ちょっと家賃遅れがちなんですけど」
宝生「保証します」
刈田「(感銘受けて)無敵じゃないですか」
宝生「無敵です」
不堂「(間)……あの、そちら本来、家賃の保証をしていただく会社なんですが」
宝生「ええ。それに加えてなんでも保証します」
不堂「範囲、広すぎません?」
宝生「狭いより広い方が、安心じゃないですか」
間。不堂、考え込む。
不堂「……あの、この部屋、なかなか借り手がつかないんです」
刈田「そうなんですね」
不堂「ですので、この条件で決めていただけるなら、こちらとしても願ったり叶ったりで」
刈田「はい、これで契約します」
不堂「(宝生に)では、こちらの内容でサインを」
宝生「はい、喜んで。あ、ただ一つだけ」
不堂「何でしょう」
宝生「幽霊だけは、保証できません」
間。
刈田「は?」
不堂「(顔色が変わる)……幽霊」
刈田「いや、なんでですか。ペットも騒音も滞納も保証するのに、幽霊だけ急に線引きするんですか」
宝生「範囲外なんです」
刈田「どこまでが範囲であって、どこからが範囲外なんですか」
宝生「(少し詰まる)……常識で考えて、線引きというものがありまして」
不堂「常識で線引きするなら、ペットと楽器の方が先に引っかかるでしょう」
宝生「実体があるものは保証できますが、幽霊・・・のような概念は保証できません」
不堂、押し始める。
不堂「あの、正直に申し上げますと、こちらの部屋、事故物件でして。だからこそ、そこを保証していただけると非常に助かるんですが」
宝生「事故物件」
不堂「はい」
刈田「僕は気にならないですけど」
宝生「(急に語気が変わる)それは最初に言ってください!」
不堂「いや、なんでも保証するとおっしゃったので、てっきり」
宝生「なんでもとは言いましたが、幽霊は別です」
刈田「幽霊は別? なんでですか」
宝生「(間、小さく)……個人的に、無理なんです」
刈田「個人的に? 会社としてじゃなくて?」
宝生「わたし個人が、現地に立ち会えません」
刈田「いや、別に立ち合いは不要ですよ、保証人なんですから」
宝生「契約上は保証しますが、実際に何か出た場合、わたしは気絶します」
刈田「気絶するんですか」
宝生「バタンキューです」
不堂「家賃は保証はされるんですよね?」
宝生「家賃は保証します」
刈田「話、家賃に戻すんですね」
宝生「家賃は、何があっても保証します」
不堂「(食い下がる)幽霊が出て、借主が逃げ出しても?」
宝生「家賃だけは保証します」
刈田「ペットも騒音も保証してくれるんなら、別に幽霊くらい」
宝生「幽霊なんていませんよ、いないとされているものが出てきたら、怖いでしょう」
刈田「そうかもしれませんけど、ただひっかかるなぁ。幽霊は保証してくれないの?」
宝生「わたしが? 幽霊を保証するんですか?」
刈田「幽霊が出ても別に害はないでしょう、」
宝生「幽霊が出たら怖いでしょう! なんなら、呪われるかもしれないじゃないですか!!」
刈田「めちゃめちゃ信じてるじゃないですか、いるって保証になっちゃってますよ」
宝生「いやいやいや、信じない! 幽霊なんていない! いないものは保証はできない!」
不堂「まぁまぁまぁ、あの、我々、ほら、利害は一致しているじゃないですか? 貸したい人、借りたい人、保証したい人。ね? 事故物件ってことは貸主も借主も同意済みなんです、だから、あとは保証人がつけば、契約締結なんですよ」
刈田「どうなんです? ダメなんですか? なんでも保証してくれるんでしょう?」
宝生「なんでも保証しますが、幽霊だけはダメです」
刈田「えー、せっかく無敵だったのに」
宝生「それでは、幽霊は絶対にいない、と保証してください」
不堂・刈田「え?」
宝生「事故物件であっても、幽霊は絶対にでないと」
不堂「いや、それは・・・」
刈田「いないという証明はできませんよ」
宝生「ほらね! 証明できないものを保証することは無理なんですよ!」
刈田「それを保証するのが無敵の保証会社でしょう」
宝生「う・・・」
不堂「さすがにそれは、」
宝生「我々は無敵の保証会社だと、社員一同、自負しています。業界NO.1の保証率です。経営理念にも「保証できることはとことん保証する」です。しかし、幽霊は保証ができない!」
刈田「(不堂に)どうしたらいいんですか?」
不堂「いや、こちらとしてはお貸ししたいんですが、保証人が埋まらないのでは、契約は難しいかもしれません」
刈田「そんなぁ……。宝生さん、なんとかならないんですか?」
宝生、深く考え込む。
宝生「わかりました、保証します」
刈田「え?」
宝生「幽霊が出ても、保証します」
不堂「本当ですか?」
宝生「はい」
刈田「やった! 契約できる!」
宝生「ただし、条件があります」
刈田「条件?」
宝生「幽霊が出た場合、私が確認します」
刈田「さっき、現地に立ち会えないって……」
宝生「私は「無敵の保証」の看板を背負っています。逃げるわけにはいきません」
不堂「いや、でも気絶するんですよね?」
宝生「します」
刈田「するんだ」
宝生「・・・録画します」
不堂「何をですか」
宝生「私が気絶するところを」
不堂「確認になってないじゃないですか」
宝生「・・・」
刈田「やっぱりいるんですよ幽霊、だから保証できる」
宝生「幽霊はいません! だから保証はしません!」
間。
刈田「じゃあ、こうしましょうよ。幽霊が出たら、家賃を払わなくていい」
不堂「めちゃくちゃだ!」
宝生「それは無理です」
刈田「なんで?」
宝生「家賃は保証します」
不堂「当たり前です!」
刈田「じゃあ、幽霊が出たら僕はどうなるんですか?」
宝生「住んでください」
刈田「嫌ですよ!」
宝生「事故物件なのは同意済みですよね?」
刈田「幽霊が出るんなら、話は別です!」
不堂「ちょっと待ってください」
不堂、突然何かに気づく。
不堂「つまり……幽霊が出ても、家賃は保証されるんですよね?」
宝生「はい」
不堂「借主が怖くなって逃げても?」
宝生「家賃は保証します」
不堂「借主が一日も住めなくても?」
宝生「家賃は保証します」
不堂、満面の笑み。
不堂「それなら、問題ないじゃないですか!」
刈田「いや、僕が問題なんですよ!」
不堂「でも家賃は入るんですよ?」
刈田「僕は住めないんですよ!
不堂「でも家賃は入る」
刈田「不動産屋として最低ですよ!」
宝生「……待ってください」
宝生、何かに気づく。
宝生「この部屋、幽霊が出るんですね?」
不堂「・・・はい」
刈田「出る前提なの!?」
宝生「そして、今までの借主は怖くて逃げ出した」
不堂「はい・・・」
宝生「でも、家賃は払ってもらう」
不堂「はい」
刈田「逃げたら、払うもなにもないでしょう」
不堂「そのための保証人なので」
刈田「あーうー・・・」
不堂「では、契約書を・・・」
刈田「いやいやいや、ちょっと待ってください、幽霊が出るんなら、止めます、別の部屋にしてください」
不堂「や、それは、困ります。別の部屋にしても、同じかと」
刈田「どういう意味ですか?」
不堂「他の部屋も事故物件なので」
刈田「え、大島てるが経営してるの? (貼ってある物件を差しながら)あれもそれも事故物件なの!? 」
不堂「はぁ…。この事務所も、事故物件なので」
刈田「(間)……いや、部屋自体は、気に入ってるんですよ。日当たりもいいし」
不堂「でしたら」
刈田「でも、事務所まで事故物件なのは、ちょっと。もう止めます、この契約書、返してください」
刈田、契約書を見る。
刈田「あれ? この保証人の欄……いつのまにか名前が書いてありますけど」
不堂「はい」
刈田「「宝生」って」
宝生「私です」
刈田「こういうのって普通、保証会社の会社名を書くんじゃないの?」
宝生「個人的に」
刈田「個人的に?」
宝生「あなたが心配なので」
刈田「何が?」
宝生「……幽霊が」
刈田「やっぱり信じてるじゃないですか!」
宝生「信じてません!」
刈田「じゃあなんで心配なんですか!」
宝生「いないからです!」
刈田「いるから心配なんでしょう!」
宝生「いません!」
不堂「お二人とも、落ち着いてください」
突然、店の奥から物音。
(……ガタッ)
三人、固まる。
刈田「……今の、何ですか?」
不堂「……倉庫です」
宝生「……」
刈田「この事務所も事故物件っていいましたよ・・・。宝生さん?」
宝生「……保証します」
刈田「何を?」
宝生「この音は、幽霊ではありません」
間。
(……ガタッ)
宝生「……」
刈田「じゃあ、何ですか?」
宝生「……私にも、分かりません」
刈田「分からないのに、保証したんですか?」
宝生「……なんでも保証するって、言ってしまったので」
暗転。
(了)
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