暑い日、庭に蚊取り線香を置き、網戸を閉めて、扇風機を回して寝転がっていた。視線を感じて外を見ると上品な色のグレーの猫が部屋の中を覗いていた。一目惚れだった。
猫を飼うことが許されない家に住んでいるが、この猫と暮らしたいと思った。猫を飼うのではなく一緒に暮らす。自分の都合のいい愛玩動物ではなく、パートナーに近い存在で。
寝転がっていただらしない姿勢を正して正座をし、精一杯優しい声で「一緒に暮らしてください」と頭を下げてお願いした。
顔をあげると猫はいなくなっていた。急すぎるお願いだったかもしれない。フラれた。
フラれた猫に名前をつけるなんて未練がましいが、あの猫の事を夏と呼ぶ事にした。この夏が続く間に夏という名の猫はまた来てくれるだろうか。