役者におけるアバターとペルソナの違い

役者におけるアバターとペルソナの違い

2024-03-28

役者が演じる時、その役柄にそった役割を演じることになるのだが、アバター役者とペルソナ役者に分かれるように思える。

アバターとは、化身。
ペルソナとは、仮面。

とする。

アバター役者とは、役を自分に寄せる。
ペルソナ役者とは、自分を役に寄せる。

とする。

アバター役者は役を利用して自分そのものの発露を行う、その対に、ペルソナ役者は自分に仮面を被せて役柄に成り切ろうとする。

ロバート・デニーロのデニーロアプローチは、ペルソナ型で、役柄そのものの状態に自分を持ち込んで改造を行う。スタニスラフスキーシステムの流れ。

アバター役者は、そうしたことよりも役者が持つ素質、過度に演技を取り繕わなくても、本人がそこにいた時にどうなるかをリアルに行うため、台本に書かれたセリフやアクションを行う際に、物語の整合性や一貫性が失われやすい。が、役者本人はそこに居続けることが可能なため、側から見れば、成立して見える。

どちらかの傾向に偏っている場合と、間にたっている場合があり、また、役者が持っている肉体と声と思考は、まぎれもなくその役者のものであることから演じることはアバター化しやすいがため、ペルソナ化するためには専門の訓練を必要とする。

器用と言われる役者は、アバターとペルソナを縦横無尽に行き来し、その作品にふさわしいムード、あるいは文脈を備えて舞台に立つことができる。

とする。

演技スタイルの二類型:アバター型とペルソナ型

1. 基本概念の定義

役者が演じる際、役と自分との関係性において二つの方向性が観察される。本稿ではこれを便宜的に「アバター型」と「ペルソナ型」と呼ぶ。

アバター型演技とは、役柄を自分自身に引き寄せ、役者自身の個性・身体性・声質・思考様式を役の中で発揮するアプローチである。「化身」という語が示すように、役者本人の本質が役を通して顕在化する。

ペルソナ型演技とは、自分を役柄に寄せ、仮面を被るように自我を役に溶け込ませるアプローチである。役者は自己を変容させ、役柄そのものになろうとする。

2. 演技理論との対応関係

2.1 スタニスラフスキー・システムとの関連

この二分法は、スタニスラフスキーが示した「体験の芸術(art of experiencing)」と「表現の芸術(art of representation)」の区分と構造的に類似している。

  • 体験の芸術:役柄の感情や衝動を役者自身がリアルに体感し、内側から役を生きる
  • 表現の芸術:役柄を外側から技術的に構築し、観客に提示する

ペルソナ型演技は前者に、アバター型演技は後者の一部に対応すると考えられる。

2.2 メソッド演技との関係

ロバート・デ・ニーロに代表されるメソッド演技(Method Acting)は、典型的なペルソナ型アプローチである。役柄の心理状態、動機、生活背景に自分自身を徹底的に同化させ、時には身体的変容や実生活での役作りを行う。これはスタニスラフスキー・システムを継承・発展させたものであり、役を「生きる」ことを重視する。

3. 原考察の修正点

3.1 物語の一貫性について

原考察では「アバター役者は物語の整合性や一貫性が失われやすい」とされていたが、これは必ずしも正確ではない。

役者自身の真実(Actor's Truth)が作品世界に説得力をもたらす事例は多く存在する。むしろ、役者本人のリアルな存在感が、台本に書かれた言葉に生命を吹き込み、観客との間に強い共感を生むこともある。スタニスラフスキー自身も、役者の個人的真実の重要性を認識していた。

3.2 訓練の必要性について

「ペルソナ化には専門訓練が必要」という指摘は正しいが、アバター型演技も同様に高度な技術と自己認識を要する。

  • アバター型の難しさ:自己を開示しながら役柄の要求を満たすバランス感覚、自己の個性を作品の文脈に適合させる判断力
  • ペルソナ型の難しさ:自己を変容させる技術、役柄への深い理解と同化能力

どちらも訓練なしには達成できない芸術的技能である。

3.3 器用さの本質

優れた役者は、アバター型とペルソナ型を場面・作品・役柄に応じて使い分ける能力を持つ。この柔軟性こそが、演技における「器用さ」の本質である。役者は作品の文脈、演出家の意図、共演者との関係性を考慮しながら、最適なアプローチを選択する。

4. 現代的展開

近年、VR(仮想現実)環境における「アバター体験」が演技研究の新たな領域として注目されている。

デジタル・アバターを通じた演技は、「自己の化身」として他者性や異なる身体性を体感する手法として研究され、演技における真実性(リアリティ)や共感の拡張が模索されている。これは、伝統的な演技理論に新たな視座を提供する可能性がある。

5. 結論

アバター型とペルソナ型という二分法は、役者と役柄の関係性を理解する一つの視点を提供する。しかし、実際の演技実践においては、この二つは対立するものではなく、連続体の両極として存在し、役者は状況に応じてそのスペクトラム上を移動する。

両アプローチとも高度な技術と深い自己理解を必要とし、優れた演技とは、役者が自己と役柄の最適な関係性を見出し、作品に真実をもたらすことである。


参考

参考文献:
- Stanislavski システムと現代演技論[1][2][3]
- デニーロによるメソッド演技の展開[4][6][5]
- アバター体験と演技研究[8][7][9][10]

情報源
[1] Stanislavski's system https://en.wikipedia.org/wiki/Stanislavski's_system
[2] Constantine Stanislavski - The Method, A Revolution in ... https://www.theactorsforge.com/resources/constantine-stanislavski-the-method-a-revolution-in-acting-craft
[3] Stanislavsky Technique https://schott-acting-studio.de/en/stanislavsky-technique/
[4] Exploring the many annotated scripts of Robert De Niro https://faroutmagazine.co.uk/annotated-scripts-of-robert-de-niro/
[5] Robert De Niro on the Art of the Long Career https://www.nytimes.com/2012/11/18/magazine/robert-de-niro-on-the-art-of-the-long-career.html
[6] Robert De Niro's Method : acting, authorship and agency in ... https://repositories.lib.utexas.edu/items/8a7cb494-1d85-4c12-8c3f-b726a6488d84
[7] Actor, Gamer, Character, Avatar: The Similarities Between ... https://chcgamestudies.wordpress.com/2013/03/18/actor-gamer-character-avatar-the-similarities-between-acting-and-gaming/
[8] Immersive role-playing with avatars leads to adoption of ... https://www.frontiersin.org/journals/virtual-reality/articles/10.3389/frvir.2023.1025526/full
[9] My avatar and the affirmed self: Psychological ... https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0747563220301990
[10] A study on the influence of situations on personal avatar ... https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11420416/