緑の自動販売機の中身  | 川崎ファイブ

緑の自動販売機の中身 | 川崎ファイブ

2012-05-16

川崎市。神奈川県の北東部に位置する人口約140万人の政令指定都市。

京浜工業地帯を抱えるガテン系エリア。口より先に手を出す大人の目をかいくぐり、グレーな空の下、日本一汚い川のそばで小学生の僕達は走り回っていた。

先輩方の道路交通法との戦いをひとしきり聞いてドキドキした後、化粧品店の息子コロンが、緑の自動販売機の存在を口にした。

「あの中にな、エロ本入ってるんだぜ」

コロンは僕らの中で一番最初におちんちんとエロ本の関係性に着目した男だ。そんなコロンの発言に、落ちている濡れたエロ本しか見たことがなかった僕らは一気に色めき立った。

実は僕もその自動販売機の存在を知っていた。銭湯の帰りに見つけた。外観は薄い緑色をしていて、昼間は鏡みたいになっているが、夜になると中身が見える自動販売機。親が一緒の手前、ガン見できなかったが、確かにあれはエロ本だった。

「買いにいこっか?」

佐藤君が言った。佐藤君は僕らのリーダー的な存在。転校してきてすぐにその地位を勝ち取ったやり手だ。運動ができて、頭が良く、家もマンションで、部屋は妹とは別に個室が与えられている恵まれた環境の子だった。僕らは畏敬の念の込めて「佐藤君」と「君」づけしている。ケンカも強いらしいと噂されているが、ケンカしているところを誰も見た事がない。ここまで恵まれていると、とりあえずケンカが強いだろうという事で収まっていた。

「買う時のお金はどうする?」

唇と舌が真っ赤になってるあっちゃんが、凍らせたスモモをかじりながら聞いた。あっちゃんちはこの辺りでは珍しい大きな畑を持っていた。今思えば彼の親はこの辺りの地主だったはずだからお金持ちだと思うんだが、いつもうす汚れた服を着てた。でもこうやって30円のスモモは買えているんだから、お小遣いはそこそこ貰っているはずだ。

「100円ずつ出せば、5人いるんだから買えるっしょ?」

佐藤君は簡単に言うが、小学生のお小遣いから100円を出すのはカメハメ波を出すより大変だ。それに500円では買えない事を僕は知っていた。むっつり黙っている僕に、カーキが小声で話かけて来た。

「お金もってる?」

僕は1日100円貰っている。ぶっちゃけ貰っている方だと思う。ただ今日は駄菓子を買ってジャンケンゲームという何の足しにもならないギャンブルに費やしてしまったので、もう空っぽだった。

「ないよ。これ買っちゃったから」

僕がビックリマンのシールを見せると、カーキが自分のアルバムを開いて見比べたあと「それ交換してよ!」と言った。

「いいよ、悪魔だけど」

「ちょうどソレだけ持ってなかったんだ〜」

カーキは几帳面な性格で、ビックリマンシールをアルバムにおさめている。僕が輪ゴムで束ねているだけのとは違って立派なコレクションになっていた。うらやましかった。1日100円を少しづつ貯める、という発想を持ち合わせていない僕には、親の機嫌が良い時にねだるしか手に入れる方法はない。親は夫婦ケンカの真っ最中のため、つまり、当分、アルバムは手に入らないのだ。

「カーキ!ビックリマンよりエロ本だ!」

コロンが鼻息荒くカーキのアルバムを閉じて奪う。カーキはコロンからアルバムを取り返そうとして体につかみかかるが、小柄なカーキはコロンの顔を触るくらいしかできない。コロンの体からは、母親とかおばさんと同じクサい匂いがする。大人にとってはいい匂いなんだろうけど。コロンとカーキがじゃれあっている間に、金銭的に恵まれた二人、佐藤君とあっちゃんは、真剣に今夜緑の自動販売機に行く打ち合わせをしていた。じゃれ合う二人と、相談する二人、計8つの目が僕に向けられた。彼らの目はこう言っていた。

「ゴっちゃんはどうするの?」

ゴっちゃんこと僕は、もう二度と仲間外れにされたくなかった。だから、どうしても今夜、お金が必要だった。

まさかのto be continue