登場人物7名、上演想定約10分(約3631文字)
- サツエ:カメラマン。
- 社長:見栄っ張りで「人数が大事」が口癖。
- 大坪ネキ(おおつぼねき):古参のお局。年末調整に厳しい。
- 府宰(ふざい):丸の中に保護される社員。淡々としている。
- 稲生(いない):丸の中に保護される社員。ビビりの苦労人。
- 狩谷(かりや):集合写真狩りの親分。
- 焼増(やきまし):集合写真狩りの子分。親分に忠実。
舞台中央上部に「創立10周年」の横断幕。上手に丸い枠が見えるパネル2枚、その隣に黒いパネル2枚。大坪が一人、バタバタと舞台上で動き回っている。
大坪「あぁー忙しい忙しい! 人手は足りないし、年末調整は終わらないし、なんでこんな時期に十周年なのよ!」
カメラと三脚を携えたサツエが客席側※から現れる。※難しければ上手から。
サツエ「こんにちはー、カメラマンのサツエと申します!」
大坪「あー、あなたが? 社長、今日の撮影すっごい気合い入ってるから、しっかりやってパパッと終わらせましょ。私はもう、年末進行で忙しいから!」
サツエ「は、はい!」
大坪「あ、社長だ」
社長が下手から現れる。
社長「君がカメラマン? よろしく頼むよ、何しろ、十周年記念の写真なんだ」
サツエ「はい、がんばります! それで、集合写真と伺っていたんですが…」
サツエ、指でフレームを作って周囲を見渡す。
サツエ「他の方は?」
社長「うん、他は欠席だ」
サツエ「え、お二人以外、全員欠席? じゃあ別の日にした方が…」
大坪「いーのいーの! とにかく撮らないと年末が進行しないから!」
サツエ「はい、じゃあ早速、えー…と(サツエが撮影場所を見繕って見回し)この丸い枠は?」
サツエが近づくと、府宰と稲生が、丸枠から顔をのぞかせる。サツエ、驚き身を引く。
府宰「どうも、欠席の府宰であります」
稲生「同じく欠席の稲生っす」
サツエ「え? 欠席? でも、いますよね?」
府宰「欠席であります」
サツエ「いや、そこに」
稲生「いないっす」
サツエ「いや、いるでしょう!」
府宰「欠席の丸の中なので、欠席であります」
サツエ「そんな理屈通るんですか?」
社長「(唐突に)それもこれも『集合写真狩り』のせいだ!」
サツエ「今度はなんですか?」
府宰「集合写真に写った人を連れ去る輩であります」
大坪「社員旅行で半数が行方不明になったのよ!」
サツエ「半数!?」
大坪「おかげで年末調整が進まない!」
サツエ「安否より、そっちですか! 社員が半数も行方不明なんですよ!?」
社長「そうだ。集合写真の左右のバランスが悪くなった」
サツエ「心配するところ、そこですか!?」
府宰「我々は、いつものように、社員旅行を欠席してたのであります。ここにいれば狩られずに済む。会社に保護され続けて今に至るであります」
稲生「家に帰らせてくんねぇっす」
サツエ「(社長に)帰らせてあげましょうよ! ほぼ監禁ですよ!」
社長「まだ帰らせん! 今日は十周年だ。社員を取り返して、全員で集合写真を撮る!」
サツエ「やばいな、この社長」
大坪「だから罠を仕掛けたの!」
社長「『集合写真狩り』をおびき出すんだ! そのために君が必要だ!」
サツエ「わたし?!」
大坪「連中は『立派なカメラ』と『はい、チーズ』の声に寄ってくるの」
サツエ「野生動物じゃないですか」
社長「頼む、サツエ君。力を貸してくれ!」
サツエ「私、カメラマンとして呼ばれたんですよね」
社長「そうだ。囮としても期待している」
サツエ「そんなの、業務内容に書いてない!」
社長と大坪、深々と頭を下げる。府宰、稲生も頭を下げる。
サツエ「(覚悟を決め)…分かりました。撮ります。皆さん、笑顔で」
社長「笑顔?」
サツエ「罠なんですから、楽しそうにしてください!」
「おぉ」という全員の顔、サツエがテキパキと指示を出し始める。
サツエ「社長、大坪さん、こちらに並んでください。あとそっちの丸の中の二人…こんな指示出したの初めてだよ…とにかくっ! 丸の中心にいて、顎引いてください。はいでは、一枚目いきます! …はい、チーズ! カシャ!(エコーのように口で、カシャー、カシャー、カシャーとだんだん小さくなっていく)」
全員、ぎこちない笑顔。長い沈黙のあと、舞台の外から声。
焼増の声「いぃ〜チーズだぁっ! おやびん、こっちですっ!」
狩谷の声「あぁっ! またアルバムが充実するぜぇっ!」
サツエ「…何者かが、アルバムを充実させようとしている…」
社長「来るぞ。全員、構えろ」
府宰・稲生・大坪「はい!」
大坪「丸、準備よーしっ!」
社長「カメラを止めるな! 撮り続けろっ!」
サツエ「はい、チーズ! カシャっ!(エコーのように口で、カシャー、カシャー、カシャーとだんだん小さくなっていく)」
狩谷・焼増、客席側から飛び込むように登場。焼増は巨大なアルバムを抱えている。
狩谷「集合写真はいねかーっ!」
サツエ「ナマハゲかっ!」
稲生「ででで、出たぁーっ!!」
府宰「(慌てるも平静装い)わ、我々は丸の中、あ、安心するでありますっ!」
サツエ「あれが『集合写真狩り』…」
サツエ、思わず指フレームを作っている。狩谷も指でフレームを作って全員を覗く。サツエ、自分も無意識に同じ手つきをしていることに気づく。
サツエ「え、同業者?」
狩谷、サツエに気づき、指フレームのままにじり寄る。
狩谷「(会場を見渡して)写ってるのは二人と、丸が二つ。これを集合写真と言い張るのか?」
焼増「おやびん! 横断幕に十周年と! きっと、後から大勢来ます!」
狩谷「おぉ、そうか。じゃあ、アルバムでも眺めて、ゆっくり待つとするか」
焼増「へへっ! おやびん(アルバムを見せて)見開きで空けてあります!」
狩谷「はっはっはぁ〜っ! おい、変なマネするなよ。おめえたちはもう、オラのものだ」
社長「そうはいかん。大坪君!」
大坪「はい! そりゃぁぁぁぁぁーーーっ!!」
大坪が罠を発動させる仕草。暗くなり明転すると、狩谷と焼増は丸枠の中にいる。
狩谷・焼増「わーーーっ!!」
狩谷「な、なんだこりゃっ!」
焼増「で、出られないっ!?」
狩谷は慌てて出ようとし、焼増は抵抗しながら、アルバムを抱きかかえる。
府宰「欠席扱い! これで集合写真狩りは、今日ここに、いないことになったであります!」
稲生「お仲間が増えたっす!」
焼増「へ? おやびん、オイラたち、いないそうです」
狩谷「しまった! いない者に集合写真は狩れねぇっ!」
焼増の抱えるアルバムが開き、写真が数枚、吹き出し落ちる。
府宰「アルバムが…!」
稲生「開いたっす!」
焼増「や、やめろぉ! 並べ直すのに三時間かかったんだぞ!」
稲生「そこ!?」
舞台外の社員たちの声。「社長ー!」「出られたー!」の声が増えていく。
※解放された社員の声を観客にお願いしたいですが、難しければ音響で対応。
稲生「みんなの声だ! 戻ってきたっす!」
社長と大坪のハイタッチ。狩谷と焼増、丸の中でうなだれる。サツエが恐る恐る、狩谷に近づく。
サツエ「あなた、なんで集団写真狩りなんかしたの?」
狩谷「…うらやましかったんだぁ」
全員「(それぞれの)え?」
狩谷「オラァ、いつも撮る側だった。一枚も、オラが写ってる写真がない」
焼増「おやびんのアルバム、全部、他人の写真なんですよ」
大坪「自撮りしたらいいじゃない!」
狩谷「集合写真に自分しか写ってなかったら、それは集合写真と言えるのか?」
大坪「集合してないからね」
間。サツエ、ぽつりと。
サツエ「…撮る側は、誰の写真にも写らないもんなぁ」
間。
狩谷「…なあ。ここにいるみんなで一枚撮ってくれねぇか」
大坪「あんたらなんかと?」
狩谷「…だよな」
間。
社長「いいだろう、サツエ君も入れ」
サツエ「え、わたしもですか?」
社長「みんな十周年の関係者だ。それに、人数が増える」
サツエ「ブレないですね」
稲生「よかったっすね! 欠席のオレらより、写ってねぇし」
サツエ「ありがとうございます。…じゃあ、お言葉に甘えて」
サツエ、三脚にカメラをセットし、ボタンを押して走ってくる。
サツエ「セルフタイマーです!」
狩谷「あぁ! その手があったか!」
丸の中は、府宰、稲生、狩谷、焼増。サツエ、社長と大坪の隣に並びかけ、狩谷の丸枠の脇で足を止め、一瞬ためらってから、その隣に立つ。
大坪「みんな、いい顔!」
全員、自然な笑顔。サツエだけ顔が固い。
社長「サツエ君、顔が固いぞ」
サツエ「(息切れし)もう、いろんなことがありすぎて…」
稲生「じゃ、皆で言いましょうっ!」
サツエ「え?」
全員「はい、チーズ!」
サツエ「カシャ! (吹き出して)……いや、わたしに言うんですか!」
全員、満面の笑み。間。サツエ、確認しに行って戻ってくる。プロジェクターで写真が映し出される。丸の中の四人が一番いい笑顔。
サツエ「撮れてます。……わたしの顔が一番固い、ははは」
間。サツエ、写真を見つめたまま。
サツエ「…みんなで撮る、集合写真、か」
狩谷「…オラァ、初めてだ」
焼増「おやびん、今度は、目が潤んでます」
府宰「ところで、我々はいつ出られるのでありますか?」
稲生「このままでいいんじゃないすか? 丸の中、意外と居心地良いんで」
社長「カメラマンが一人、狩りが二人、うちの社員が全員。……過去最高の人数だな」
客席社員たちの声。「社長ー! 着きましたー!」
社長「よし、全員そろった! 今度こそ、周年記念の集合写真だ!」
大坪「その前に…年末調整の締切は明日です!」
全員「えぇーっ!!?」
大坪「年末進行で忙しいのよっ!」
全員、それぞれの表情のまま固まる。暗転。
(了)
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