コント台本『メロン2つ』作:第三字宙 原作:あづまつこ

コント台本『メロン2つ』作:第三字宙 原作:あづまつこ

2026-10-12

登場人物3名、上演想定約8分(約3005文字)

《登場人物》

  1. 八百屋:商店街の八百屋。近所に大型スーパーができて、客足がさっぱり。
  2. 主婦:漬け物とメロンを買いに来る客。
  3. ボランティア:「笑顔のボランティア」を名乗る男。実は主婦の夫。

八百屋の店先。八百屋が一人で商品を並べている。

八百屋「はぁ…。近くに大型スーパーができてから、客足もさっぱりだ。」

主婦が現れる。

主婦「すいません」
八百屋「(飛びつくように)はい、らっしゃい!」
主婦「ここ、お漬け物が美味しいって聞いたんですけど」
八百屋「そうなんです、家内の自家製でね。今日はシバ漬けぐらいですけど」
主婦「あら、手作り? 美味しそうね。じゃあ、シバ漬けください。あと……フルーツなんかあります?」
八百屋「メロン! メロンがおすすめでね」
主婦「じゃあ、メロン、2つ」
八百屋「(声が裏返る)ふ、2つ!? あぁ、ありがとうございます! あの、1個4000円ですけど、大丈夫ですか?」
主婦「大丈夫です」
八百屋「…本当に?」
主婦「お願いします」
八百屋「はい! じゃあ全部で8500円になります」
主婦「8500円。(カバンから財布を探して)……あ。ごめんなさい、お財布忘れたみたい。家近いので、取ってきます」
八百屋「あ、そうですか。……あの、漬物、袋に詰めちゃったんで、返品できませんけど」
主婦「大丈夫です、すぐ戻ります」
八百屋「お待ちしてます。大丈夫ですね? 本当に戻ってきますね?」
主婦「はい、はい」

主婦、去る。

八百屋「……って言って、大型スーパー行くんだろうな、あのお客。あぁ〜あ…」

ボランティアがやってくる。

ボランティア「(満面の笑顔で)こんにちは〜」
八百屋「え? あぁ、こんちは。なんすか?」
ボランティア「暗い顔してらっしゃったんで、どうされました?」
八百屋「(思わず)いやぁ、今ね、高級メロン2個買ってくれたお客さんが、財布忘れたっつって帰っちゃって。戻ってこなかったらどうしようかと」
ボランティア「そんな暗い気持ちはね、笑顔でボランティアをやれば吹き飛びます。心が豊かになるんですよ。ほら、一緒に笑顔で」
八百屋「なれませんよ、笑顔なんか今。…嫁とも喧嘩しててね。口もきいてくれないんですよ」
ボランティア「(ふっと素に戻って)…うちもなんですよ」
八百屋「え、お宅も?」
ボランティア「家でね、一言も。(すぐ笑顔に)でも、家で笑えないぶん、外で笑ってるんです!」
八百屋「無理してません?」
ボランティア「してません。それでね、いま私ども、子供食堂のために食材と寄付を集めてまして」
八百屋「子供食堂って、あぁ、ボランティアですか」
ボランティア「お腹をすかせた子供たちを、笑顔にする活動なんです。廃棄になりそうなものがあれば」
八百屋「廃棄になりそうなものったって急には。うちも商売だからねえ…」
ボランティア「(積んである野菜を指して)この茎とか、もう、しなびてますよね」
八百屋「(ちょっとムッとして)まあ……それくらいなら(いいですよ、と言おうとして)」
ボランティア「(すかさず)ありがとうございます! じゃあこれ3本。あと、この大根も、今日中に売れなければ廃棄ですよね?」
八百屋「売れ残る前提かよ。グイグイ来るな、この人」

八百屋がよそ見している隙に。

ボランティア「ありがとうございます! じゃあ、これも」
八百屋「(止める)ちょちょちょ、言わないと勝手に持ってくの? 新手の強盗?」
ボランティア「失敬な、そうじゃありません、あくまで善意の施しを」
八百屋「寄付ってのは食材のこと?」
ボランティア「あぁ、あと、お金もちょっと」
八百屋「あのね、今、売れてなくて寄付する手持ちがないの。さっきのお客さんが戻ってきたら現金が入るけど…」
ボランティア「戻ってこなかったら?」
八百屋「縁起でもないこと言うなよ。寄付欲しくないのか、あんた」

主婦、息を切らして戻ってくる。

主婦「すいません、戻りました! ああ、よかった、まだあった。……あら」
ボランティア「(固まる)」
主婦「あんた、こんなところで何してんの?」
ボランティア「お、お前こそ!」
八百屋「え、お知り合い?」
主婦「うちの主人です」
八百屋「えっ!? じゃあ、さっきの『口をきいてくれない嫁』って……」
主婦「(ボランティアに)あんた、夫婦喧嘩のこと、人様に喋ってんの?」
ボランティア「(態度悪くなり)悪いのかよっ! えぇ?」
八百屋「あ、笑顔が消えた」
ボランティア「(八百屋に)…笑顔のボランティアです」
主婦「何その笑顔。家じゃそんな顔しないくせに」
ボランティア「余計なこと言うな、この野郎!(八百屋の目線に気づいて)笑顔のボランティアです」
八百屋「(主婦に)家だと笑わないんですか?」
主婦「全然。外でだけなんですよ、この人」
八百屋「ああ、そうなんですか…。じゃ、メロン2個とシバ漬け、8500円になります」
主婦「はい、これ1万円(渡そうとする)」
ボランティア「ちょっと待て、ちょっと待て! お前、何買ってんだこれ。メロン?」
主婦「(嬉々として)メロンよ、メロン」
ボランティア「俺が子供たちの笑顔のために活動してる時に、メロン買うのか。いくらだ、これ」
主婦「8500円」
ボランティア「その金があったら、子供たち何人分食えると思ってんだ。買うな」
八百屋「買ってもらわないと困るんで」
主婦「じゃあ、1個にする」
ボランティア「待て。1個いくらだ?」
八百屋「4000円です」
ボランティア「高いな。2000円ならどうだ?」
八百屋「なんで勝手に値引きするの! ……ていうか、さっきからうちの商品、もってくばっかりでしょ!」
ボランティア「子供たちに回すためです」
八百屋「分かりました、つまり寄付が欲しいんでしょ? メロンを1個にすれば4000円浮くでしょ。その分、奥さんが寄付すればいいじゃないですか?」
主婦「(ボランティアに)これは私のお金なんだから、寄付関係ないでしょ」
ボランティア「子供食堂の子供たちの笑顔が欲しくないのか」
主婦「そりゃ欲しいですよ。でもあたしもう、口がメロンになっちゃってんのよ。そういうあんた、いくら寄付してるの?」
ボランティア「(歯切れ悪く)俺は、その、時間を」
主婦「お金は?」
ボランティア「…年金生活だから」
主婦「人のお金は欲しがるのに?」
ボランティア「…」
主婦「我々の笑顔も、欲しいでしょ?」
ボランティア「…それは、まあ。(八百屋に)そのメロン、廃棄になりませんか?」
八百屋「なりませんよ、びっくりすること言わないでください」

八百屋、すかさずメロンを差し出し、お金を受け取ろうとする。

ボランティア「(メロンを見つめて)……分かった。ただし、俺は買わないぞ。食べるだけだ」
主婦「食べるの? 買うの私で、あなたも食べるの?」
ボランティア「家族だろうが! なにか? お前、1人で1玉全部いくのか?」
主婦「数日に分けて、美味しくいただくわよ」
ボランティア「その数日分、子供達(の笑顔が)」
八百屋「(収拾つかなくなりそうで)分かりました! 分かりましたよ! 買うんですか? 買わないんですか?」
主婦・ボランティア「(同時に)買います!/買いません!」
八百屋「え、何?」

主婦とボランティア見つめて牽制しあって、

主婦・ボランティア「(同時に)買いますん!」
八百屋「どっち!?」
主婦「(夫の抱えた茎と大根を見て)あんた、それは?」
ボランティア「もらった。廃棄だ」
八百屋「いえ、1000円払ってください」
ボランティア「え? どうして?」
八百屋「あなた、欲しがってるでしょ。需要があるんで、廃棄じゃなくなりました」
ボランティア「(引きつった笑顔のまま)…笑顔のボランティアです」

ボランティア、そのまま固まる。暗転。

(了)

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