コント『普通って言っちゃダメか』 作:第三字宙

コント『普通って言っちゃダメか』 作:第三字宙

コント『普通って言っちゃダメか』 作:第三字宙 約6分(約2500文字)

登場人物
客A
客B

カフェのテーブル。客Aと客Bが向かい合って座っている。コーヒーカップとスマホがテーブルに置かれている。冒頭は沈黙。客Aと客Bがコーヒーを飲む。

客A「・・・最近、知らない有名人増えたよね」
客B「うん。・・・増えたね」
客A「知ってるかな? 最近ハマってる韓国の配信者がいてさ!」

客Aがスマホを取り出して画面を客Bに向ける。

客B「・・・」

少し間があく。結構しっかり見ている。

客B「へぇ・・・・(少し間)なんか、雰囲気あるね」
客A「それがさ、今、日本に来てて、毎晩リアタイで見ちゃうわけ」
客B「へぇ」
客A「昨日、浅草でたこ焼き食べてて、コメント欄で『大阪じゃないの!?』って大盛り上がりだったの」
客B「あぁ。浅草で・・・たこ焼き・・・で盛り上がったんだ」
客A「そう! 普通さ、あ、普通って言っちゃダメか。日本人からしたら、浅草ならではってあるじゃん? 雷おこしとか、電気ブランとか」
客B「うん」
客A「それ、みんなでコメントしてさ、で、ミレニアムが・・・、あ、ミレニアムって言うんだけどね。その、ミレが、あ、ミレっていうのは、ミレニアムの略で・・・」
客B「うん。補完した」
客A「ミレが、コメントを見て・・・あ! 『ミレが見て』ダジャレかよ、ウケる!」

間。

客B「うん」
客A「で、その後、ミレが雷おこしを食べに行ってたよ。コメント見て行動してくれると、リアタイしたかいがあったなぁっ!って思うし、楽しいんだよ」
客B「へぇ、コメントで双方向的に楽しめるんだね」

沈黙。客Aと客Bがコーヒーを飲む。

客B「・・・僕も最近ハマってる人がいるんだよ」
客A「お! 誰誰誰っ! レェダァー? レェダァー?」
客B「うん。ウガンダの配信者で、毎回民族衣装・・・なのかな? うん。その土地っぽい服を着てて、日本語で地元の映画を解説してるんだ」
客A「・・・ウガンダ? 日本語で?」
客B「そう。ウガンダって、英語とガンダ語が主なんだけど、50以上の民族がいるらしくて、それぞれの言葉を持っている多言語環境だから、日本語で紹介するのがちょうどいいって感じみたい」
客A「日本語がちょうどいいの? どういうこと?」
客B「うん、そうだよね。僕もそう思う。でも、その人がそう言うなら、それでいいかなと思うんだよね。で、その・・・」
客A「待って、名前は? 頭に入ってこないんだけど」
客B「名前・・・。名前、あるのかな」
客A「いや、あるでしょ! チャンネル名とかさ」
客B「日本語で映画紹介チャンネルって名前なんだけど」
客A「あぁ、ウガンダの要素ゼロだ」
客B「うん、普通の、あ、普通って言っちゃダメか、ただの映画紹介チャンネルだと思ったから、ちょっとビックリして」
客A「それがウガンダの人だったんだ」
客B「言われてみれば、サムネは確かにアフリカっぽかった。だから、アフリカの映画を紹介するんだろうな、くらいだったから、ちょっとビックリしちゃった」
客A「ちょっとしかビックリしなかったんだ」
客B「うん、ちょっとしかビックリしなかった。・・・それでね、紹介している映画の内容なんだけど」
客A「うんうん。ウガンダの映画ってどんな感じなんだろう」
客B「”男はつらいよ”とほぼ同じなの」
客A「・・・どういうこと?」
客B「うん、そうだよね。僕もそう思ったんだよ。まず、流暢な日本語でだいたいのあらすじを紹介してくれるのね」
客A「うんうん」
客B「こんな感じ『さすらいの路上売りのトゥーラが、久しぶりに街に帰ってきます。彼には妹がいます。妹スクーラは、おじさんとおばさんの店手伝っています。そしていつもトゥーラはゲストのヒロインと恋をしますが、かわそうなトゥーラ、うまくいかないです』ってね」
客A「ふぅん・・・」
客B「うん。それで僕もようやく『これ、もしかして、普通に』あ、普通って言っちゃダメか、『日本映画の”男はつらいよ”を紹介しているのかな?』って思ったんだけど、そのあと、映画の映像が流れるのね」
客A「あ、映画見れるんだ?」
客B「うん、舞台がアフリカっぽい川沿いでさ、自主映画っぽい感じは否めなかった」
客A「へぇ、どのくらいの長さ観れるの?」
客B「オープニングからエンドロールまで丸々1本」
客A「あ、フルなんだ」
客B「うん。フルだった」
客A「でも、何話してるのかはわからないんじゃない流石に?」
客B「うん。日本語で話してた」
客A「あ、日本語だったんだ?」
客B「うん。日本語だった。だから内容もよくわかったし、ほとんど”男はつらいよ”だった」
客A「・・・もしかしてだけど」
客B「え?」
客A「その人が自分で撮ってるんじゃない?」
客B「え?」
客A「日本語勉強するために”男はつらいよ”をどっかで観て参考にして、ついでに自主映画も撮っちゃったんじゃない?」
客B「・・・そうなんだ?」
客A「あ、ちがうちがう! 俺の勝手な想像ね?」
客B「あ、そうなの? 本当かと思った」
客A「ちがうちがう、ビックリさせてごめんね?」
客B「うん。ちょっとしかビックリしなかったから大丈夫だよ」
客A「うん、良かった」
客B「それでね、」
客A「あ、まだ続く?」
客B「あ、ごめん、長い? やめようか?」
客A「あ、いいのいいの、大丈夫、続けて」
客B「最後にロバが横切るんだよ。エンドロールに『特別出演・マサコ』って出るの」
客A「もうエンドロール? なんか、急がせてごめんね」
客B「ううん、大丈夫。ロバのマサコの話がしたかったから」
客A「あ、そうなんだ?」
客B「うん。そう。で、そのロバ、公式インスタあってさ。毎日草食べてるだけなんだけど、フォロワー十万人超えてるんだよ」
客A「・・・へぇ。え・・・なんの話だっけ?」
客B「うん。日本語で映画紹介チャンネルの話」
客A「そうだった。ハマってるんだ?」
客B「うん、ハマってる」
客A「そっかぁ」

沈黙。客Aがコーヒーをすする。

客B「・・・お互い、知らない有名人増えたよね」
客A「ねぇ・・・増えたね」

また少し間。

客A「でもさ」
客B「ん?」
客A「こうやって、お互いよく分かんないもの紹介し合うのも、楽しいかもね」
客B「・・・そうかも」

二人、少し笑う。

客B「今度・・・機会があったらミレ見てみるよ」
客A「あ、ううん! 無理しなくていいよ。普通だから、あ、普通って言っちゃダメか」

暗転。
(了)

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