ショートショートストーリー 回線所

ショートショートストーリー 回線所

2019-03-04

街から電波が消えて久しい。

今の若者は回線をしたことがない者もいる。私のような古い人間には文字通り何を考えているのか分からない。彼らは思念で対話をするので、なおさら口数も少ない。

生まれつき思念を読み取れる人間もいる。が、そうでない旧世代の者が大半にも関わらず、思念送受信機が普及したせいで、回線はすっかり用済みになってしまった。

回線がもてはやされていた時代が懐かしい。誰もがどんな場所でも利用していたのに、その悪影響が取りざたされ、精神衛生改善法なるものが出たお陰で、利用に制限がかかるようになった。

ようやく目当ての回線所にたどり着き、コンビニで買った回線用のカートリッジを差し込んで端末の画面を表示させる。企業もすっかり回線の情報提供からは手を引き、目の前に映るのは「いいね」や「ファボ」の墓場だ。

いつものように不平不満のグチを書き込んだ。画面が少し黒くなった。次に嫌回線家の過剰反応も書き込んだ。さらに画面が暗くなる。次々と書き込んでいく。真っ暗になった。もうおしまいだ。

物足りなさを感じつつも、抜き出したカートリッジを叩いて振る。真っ黒なデジタルのマイクロチップが、カラコロと音をたてて灰皿に積み上がった。その音をきっかけにして、意識を集中させる。考えていることにやましいことがないか慎重に注意を払い、思念送受信機を着けて、回線所を出た。

街には電波の代わりに、前向きで、正しい思念に満ち溢れている。

(息苦しい)

つい思ってしまい、周囲から批判的な視線を浴びた。

カートリッジを取り出しながら、再び回線所に駆け込んだ。