コント『休憩してたら知り合いがクジで当たった下敷きを見せびらかしにやってきた』作:第三字宙

コント『休憩してたら知り合いがクジで当たった下敷きを見せびらかしにやってきた』作:第三字宙

2025-02-17

コント『休憩してたら知り合いがクジで当たった下敷きを見せびらかしにやってきた』作:第三字宙 約10分(約3800文字)

休憩してたら知り合いがクジで当たった下敷きを見せびらかしにやってきた

登場人物:
やすむさん(休憩室で先に休んでいた人)
あたるさん(クジで下敷きが当たった人)

休憩をしている人がいる、そこに下敷きを持って人がやって来る。

やすむ 「あれ、その下敷き」
あたる 「あ、わかりました? 当たっちゃいましたぁ」
やすむ 「わぁ、すごい、クジすぐ売り切れですよね」
あたる 「そうなんですぅ、たまたま入ったら、やってて、まぁ、当たらないかってやったら、なんと、当たっちゃいましたぁ」
やすむ 「わぁ、わぁ、おめでとうございます」
あたる 「あ、ありがとうございますぅ」
やすむ 「くさっ」
あたる 「え」
やすむ 「あ、ごめんなさい」
あたる 「え、くさい? あれ」
やすむ 「いえ、体臭とかじゃなくて」
あたる 「え、え」
やすむ 「くんくん、くん、く、くさっ」
あたる 「え」
やすむ 「あ、これだ、これ、くさい」
あたる 「え、え、だっえ」
やすむ 「この下敷きくさいっす」
あたる 「そんな明確に」
やすむ 「どうしたんすか、え、なんで、普通に」
あたる 「いや、あの」
やすむ 「がまん、してました」
あたる 「いえ」
やすむ 「いや、だって、くさっ! これ、一朝一夕の匂いじゃないですよ、もっと根源的な部分でくさいっす」
あたる 「そんなに、そんなにその万物的な」
やすむ 「がまんしてたんですね」
あたる 「え」
やすむ 「自慢、したい、するために」
あたる 「そんな、いやだって、当たったし」
やすむ 「当たってたって、これ、このくささ、製造工程から疑うレベルっす」
あたる 「あのね、あの、人の物をね、そう、そんなにくさい、くさいって」
やすむ 「だって、当たる前までは、所有してなかったっすよね、くささの根源は、あなたにはないんですよ」
あたる 「いやいやいや、でも、当たったし、当てたのは私ですよ?ということはですよ、今は私のもので、そのわたしのモノをあなたわぁ」
やすむ 「ちょ、あおがないで、あおがないで、尊くないから、全然、仰がれても尊くない」
あたる 「尊いでしょうが」
やすむ 「推しは尊い、かもしれませんけど、私が問題視してるのは、その下敷きそのものなんですよ」
あたる 「不可分なんですから」
やすむ 「何がですか」
あたる 「この推しがプリントされた下敷き、推しと下敷きは別ですか?カレーとライスは別ですか?カレーとライスでカレーライスでしょう?カレーライス好きでしょう?」
やすむ 「話をすげかえないでください、わかります、その一体となっている以上、推しとほぼ同一視して、自分の所有物になったそれそのものに愛着をもつのはわかります、だがしかし、だがしかしですよ、その製造工程、あるいは企画者、このアウトプットにゴーを出した人たちはですね、この問題に気づかなかったのかと」
あたる 「テレワークの時代だから、現物はみていないのでは」
やすむ 「そこですよ!そこ!自分でもいま、気づいてますよね、現物を見て嗅いだら、あれ、これ、ヤバいなと、市場に流通させてはいけないものだなと、どうやって会社までもってきたんですか」
あたる 「まぁ、普通に包んで(何重にもなったビニール袋を見せる)」
やすむ 「ほら!ほら!やばいのだなと、すくなくとも、移動中、周囲に違和感を感じさせないようにするためですよね!喫煙者が携帯灰皿を入れる工夫と酷似してますよそれ!」
あたる 「タバコほどじゃないでしょう」
やすむ 「タバコもね、わたしね、体質的にね、苦手なんですけどね、それ以上のアトミック級のね、ヤバさです」
あたる 「そんなに」
やすむ 「どうするんですか」
あたる 「え」
やすむ 「どうするんですか、それ、体調が悪くなったら推し活だって支障がでるでしょう」
あたる 「…密封して、部屋に飾ります」
やすむ 「だめです!だめですよ、ダメよダメダメ」
あたる 「じゃあ、どうしたらいいの」
やすむ 「捨てましょう」
あたる 「え、捨てる」
やすむ 「捨てましょう」
あたる 「そんな、もったいない」
やすむ 「わかりますよ、だって、推しがプリントされてますからね、そんなイエスが印刷されたくらいの、踏みみたいなね、恐ろしい試練、わたしもさせたくないです」
あたる 「そうだよ、捨てるなんて」
やすむ 「だから、譲りましょう」
あたる 「ほぅ」
やすむ 「必要としてる人に」
あたる 「ん」
やすむ 「必要としている人に施せばもしかしたら、もっと良い出会いがあるかも」
あたる 「ちょっとまって」
やすむ 「はい」
あたる 「あれ、うそ、もしかしてなんだけど」
やすむ 「え?わたしが、そうお思いで?」
あたる 「うん、だってさ」
やすむ 「わたしはいりませんよ!だってわたしがいち早くくさいと気づいたのですから、まず、わたしは除外でしょ、推理モノだったら真っ先に消えるでしょ、容疑者から」
あたる 「いや、ここまで喚き立てられると、逆にミスリードかなって」
やすむ 「こんなところにはいられん、わしは部屋に戻るって、いって真っ先に殺されるタイプでしょう、なんらなら」
あたる 「うん、そうだね、たしかに」
やすむ 「てことは、犯人ではないですよね」
あたる 「え、なに、犯人?」
やすむ 「私は犯人ではなく、第一、あるいは第二の被害者であると」
あたる 「ちょっとまって、ちょっと落ち着こう、整理しよう、あの、これはまず」
やすむ 「くさいっす」
あたる 「それで提案は」
やすむ 「捨てることです、手放しましょう」
あたる 「捨てるのはあれだから、手放すとして、誰、あるいはどこに」
やすむ 「チ、チ、チ、チ」
あたる 「うん、教えて」
やすむ 「メルカリっす」
あたる 「えー、いいのかなぁ、くさいんでしょ、あとで低評価つけられて、メルカリでフリになるじゃない」
やすむ 「書いとけはいいんですよ、めちゃ臭いって」
あたる 「えー」
やすむ 「ノークレーンノーリターンで」
あたる 「んー、なんか値下げ交渉とかされてめんどくさそうなんだよね」
やすむ 「くさいだけにね」
あたる 「あ、ははは」
やすむ 「わたしが代わりに出品しましょうか?」
あたる 「いいの?」
やすむ 「いいですよ、メルカリ全然やってないんで」
あたる 「やってないんだ」
やすむ 「そうです、やってないので、別に不利になってもいたくもかゆくもないですね」
あたる 「おぉ、じゃあ、お願いしようかな」
やすむ 「代わりにここで払いますね、わたしが」
あたる 「あ、ありがとう至れり尽くせりだ」
やすむ 「いくらですか?」
あたる 「えーと、クジが500円だったから、500円でどう?」
やすむ 「いやしい」
あたる 「え」
やすむ 「いやしいですよ、なんなら、強欲です」
あたる 「そんなに」
やすむ 「いいですか?いま、供養されようとしています、この下敷きは」
あたる 「えぇ、はい」
やすむ 「それをあなた、お寺さんに逆にお金くださいといえますかね」
あたる 「え、いわないですけど、いくらですかっていうから」
やすむ 「かぁ、チ、チ、チ、チ」
あたる 「ちょっとイラッとくるから、それやめてほしいかな」
やすむ 「0です」
あたる 「ゼロ」
やすむ 「ゼロで済むんですよ、マイナスちゃいまっせ」
あたる 「なんで急に関西っぽさ」
やすむ 「わたしが、無料で、この下敷き、供養してさしあげます」
あたる 「メルカリで」
やすむ 「そう、メルカリで、手数料はわたし負担」
あたる 「メルカリじゃなく」
やすむ 「売れると手数料とられるんですよ、むしろ、わたしが取られるくらいの」
あたる 「その手数料見込んで金額積むわけでしょ、なんなら、もしかしたら、ほら、売れてるから、プレミア価格ついて」
やすむ 「あーあー、もう、ほら、そこ、そこですよ、強欲ですよ、火に焼かれますよ、塩化ビニールだから、燃やしてはだめですよ、なんですか、急にあおいで」
あたる 「いや、なれたのかなと」
やすむ 「え?なれた?その下敷きの香りに?くんくん、くさっ!何さすんすか!」
あたる 「いや、結構な時間一緒にいてさ、もうなれちゃったのかなって、その程度のものなのかなって」
やすむ 「みくびらないでくださいよ!その下敷きの臭さを!」
あたる 「みくびってるわけじゃないのだけど、あれね、結構慣れってあるよね」
やすむ 「なれは怖いです」
あたる 「そうね(と、しまう)」
やすむ 「あれ、しまってどうするんですか」
あたる 「うん、会社にもってこないでさ、部屋に飾ろうかなって、そうしたら誰にも迷惑かからないし」
やすむ 「え、あ、いや、体調が」
あたる 「うん、そうかもしれないんだけどね、そんなにほら、お手数おかけするのも申し訳ないし、今後メルカリで処理してもらったっていう負い目を推しにも、君にも背負いたくないかなって」
やすむ 「あ、あ」
あたる 「それに、僕も悪かったよ、当たった事がうれしくて、くさいにもかかわらず、君にみせたいが一心でさ、こんなビニール袋何重にもして、いま袋もタダじゃないのにね」
やすむ 「あの」
あたる 「ごめんね、今日は持って帰るよ、もう二度と持ってこない」
やすむ 「そう、ですか」
あたる 「うん、ありがとう心配してくれて」
やすむ 「はい」
あたる 「もうそろそろ休憩も終わるね、戻るよ」
やすむ 「はい」
あたる 「じゃあ」
やすむ 「あの、」
あたる 「うん?」
やすむ 「たまに見に行っていいですか?」
あたる 「…」
やすむ 「すいません」
あたる 「いいよ、もちろん」

(了)

コントワークショップのお知らせ

コントワークショップ「心は青空、草コント教室」参加者募集中

草野球みたいに、コントを趣味で楽しむ教室です。毎回、コントを創作してその時間のうちに披露まで行います。毎回1本、あなたのオリジナルコントが作れます。参加無料(会場費のカンパ歓迎)。

KUSAConte

 

ビジュアルシミュレーション