登場人物2名、上演想定約6分(約2082文字)
- 刈田(借主)
- 不堂(不動産屋)
不動産屋の店内。
カウンターを挟んで刈田と不堂。
刈田「今日内見させてもらった部屋で決めたいと思います」
不堂「そうですか、気に入っていただけて良かったです」
刈田「契約、進めてもらえますか?」
不堂「かしこまりました。ちなみに契約には保証人様が必要になりますので、」
刈田「あー・・・、保証人いないんですよね・・・」
不堂「でしたら、保証会社をご利用いただけます。月々840円です」
刈田「選べたりします?」
不堂「株式会社セーフティ、セーフティ合同会社、セーフティホールディングスからお選びいただけますが」
刈田「全部セーフティですね、同じ会社?」
不堂「・・・選択の自由を大事にしております」
刈田「それ、選択の自由あります?」
不堂「ございます」
刈田「名前が違うだけじゃないですか」
不堂「会社としては、それぞれ別です」
刈田「へえ」
不堂「では、保証会社を利用するということで」
刈田「その会社が、僕を保証してくれるんですか」
不堂「はい」
刈田「何を」
不堂「家賃を」
刈田「僕を、じゃなくて」
不堂「家賃を」
刈田「じゃあ僕、保証されてないじゃないですか」
不堂「……そういう意味では、そうですね」
刈田「それの何が保証人なんですか?」
不堂「保証人制度は、貸主の安心のためにありますので」
刈田「貸主の安心?」
不堂「はい。万が一、借主様から家賃をいただけない場合でも、保証会社から貸主様にお支払いします」
刈田「じゃあ僕が家賃払えなくなったら?」
不堂「保証会社が立て替えます」
刈田「それで終わり?」
不堂「いえ。その後、保証会社から刈田様に請求がいきます」
刈田「結局、僕が払うんじゃないですか」
不堂「はい」
刈田「じゃあ何のための保証なんですか?」
不堂「貸主様に家賃が入らないことを防ぐためです」
刈田「僕のためじゃなくて?」
不堂「貸主様のためです」
刈田「……」
不堂「……」
刈田「じゃあ、僕が家賃払えなくなっても、大家さんは困らない」
不堂「はい」
刈田「保証会社が払ってくれるから」
不堂「はい」
刈田「でも、そのあと僕は保証会社に払う」
不堂「はい」
刈田「……保証されてないなぁ、僕」
不堂「保証というのは、そういうものです」
刈田「じゃあ、その保証会社が飛んだら?」
不堂「え? 刈田さんがではなく?」
刈田「保証会社が倒産したら、誰が保証してくれるんですか?」
不堂「……保証会社が倒産することは、基本的には想定しておりません」
刈田「でも、飛ぶことってあるじゃないですか、その場合は?」
不堂「その場合は……別の保証会社を」
刈田「また保証会社?」
不堂「はい」
刈田「その会社も飛んだら?」
不堂「……最終的には、社会全体で保証する仕組みになっておりますので」
刈田「社会全体」
不堂「はい」
刈田「僕も社会の一員ですけど」
不堂「……はい」
刈田「じゃあ僕、最初から社会に保証されてるじゃないですか」
不堂「……それとこれとは別でして」
刈田「便利ですね、それ」
不堂「はい」
刈田「保証人がいると、借主が「迷惑をおかけしないよう気をつける」効果がある、とかも言うんですよね」
不堂「……よくご存知で」
刈田「気をつけるだけで防げるなら、事故なんて起きないでしょう」
不堂「(間)……まあ」
刈田「だったら、迷惑がかかる可能性があるなら、最初から借りないほうがいいですよね」
不堂「いや、そこまで極端に考えなくても」
刈田「じゃあ、借りません」
不堂「え」
刈田「・・・いや、借ります」
不堂「は? はい」
刈田「・・・やっぱり借りません」
不堂「どっちなんですか!」
刈田「借りたいんですよ、わたしは」
不堂「・・・そうですよね」
刈田「だから困ってるんですよ」
不堂「では、保証会社をご利用いただければ、契約できますので」
刈田「(間)……さっきの話に戻りますけど、それ、保証っていうより取り立てじゃないですか?」
不堂「……保証しております」
刈田「何を?」
不堂「貸主様が、家賃を取りっぱぐれないことを」
刈田「……」
不堂「ですから、ご安心ください」
刈田「安心するの、貸主ですよね?」
不堂「……そうですね」
刈田「僕は?」
不堂「……部屋を借りられます」
刈田「そこだけなんですよね、保証されてるの」
不堂「……」
刈田「じゃあ、まあ、借ります」
不堂「ありがとうございます」
刈田「……あの」
不堂「はい」
刈田「あなた、保証会社のこと詳しすぎません?」
不堂「……」
刈田「さっきから全部即答ですよね」
不堂「……まあ、仕事ですから」
刈田「本当に不動産屋さんですか?」
不堂「……不動産屋です」
刈田「なんか保証会社の人みたいですよ」
不堂「……そう見えますか?」
刈田「見えますよ」
不堂「……保証できます」
刈田「何を?」
不堂「私が不動産屋であることを」
刈田「誰があなたを保証するんですか?」
不堂「……」
刈田「あなたにも保証人が必要なんじゃないですか?」
不堂「……必要ですね」
刈田「じゃあ、あなたの保証人を呼んでください」
不堂、少し考える。
不堂「……わたしが、わたし自身を保証しております」
刈田「何を保証してるんですか?」
不堂「……この仕事を明日も続けられることを」
刈田「それ、保証じゃなくて願望ですよ」
(了)
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