ある暑い日のこと。政治家と科学者が頭を悩ませていた。
なんとかしてこの国に蔓延する争いを収めることはできないか?
科学者は内輪で話し込んでいる人々が、みんな団扇を持っていることに着想を得て、“どんなものでもくっつくうちわ”を思いつく。この科学者は思いついたことはなんでも実現できるすごい科学者なのだ。
さっそく、くっつくうちわをつかってみると、おもしろいように内輪ができる。敵対していた内輪同士をひとたびあおげば、ひとつに内輪になり、小さい内輪は次々と大きな内輪になっていった。
そして年の瀬、ついに国内最大規模の内輪同士が、対峙することになった。科学者はその巨大な二つの内輪をくっつけるために、特製の特大団扇を用意して山の頂上で構えている。政治家も助手達も、どちらかのグループに行ってしまったため、この半年はたった1人の孤独な戦いだった。それもこれでついに終わるのだ。
科学者がスイッチを入れると、巨大な団扇が動き出し、強風が戦場へと送り込まれる。そしてついに、巨大な二つの内輪は、一つの大きな大きな内輪になった。
科学者は歓喜して、早く自分も内輪の一員になろうと山を降りた。たくさんの人々が互いを認め合い、喜びを分かち合い、平和な日々が訪れることを期待して。
しかしその期待に反して、人々の間に不穏な空気が流れているのを科学者は感じとる。今後、くっつくうちわをどう使うのか、意見が割れていた。
ある者は、この団扇を使って、他国とも内輪になろうと言う。
ある者は、今の内輪だけで幸せに暮らそうと言う。
ある者は、この団扇の技術を輸出して儲けようと言う。
うちわ揉めである。
(おわり)