観劇感想「短編集 踊る阿呆に見る阿呆」-空飛ぶペンギンカンパニー-2018年12月23日

観劇感想「短編集 踊る阿呆に見る阿呆」-空飛ぶペンギンカンパニー-2018年12月23日

2018-12-30

今年客演で携わった劇団の、もう一人の作家・角砂糖さんの作品。

こんな趣向だった

短編集とあり、直接のつながりはないがストーリーテラーを配して観客に「部屋」を覗き見る、ある種の見世物小屋な趣向。三作品とも男と女のあれこれがもつれる。

ほぼ素舞台に、大道具としてテーブルや家具が置かれ、照明、音響効果もシンプルで、主張しすぎないスタッフワーク。

若葉町WHARFは、コンクリートの建物で内からも外からも音がこぼれやすい。反響が大きいため、発話は繊細にするか、これでもかと大音量で反響音を味方につけるか、むずかしい小屋だったように思う。

良かったところ

3つとも違ったお話でありながら、ストーリーテラー、一つの部屋、男女のもつれを描き、大きな枠組みを構築していて、短編集であっても入りやすいパッケージであった。

私が好きな順は、
短編3:「犬とバウムクーヘン」
短編1:「ハイシンシャ」
短編2:「改稿 つぼみ」

「犬とバウムクーヘン」の状況設定の異常さと、キャラクター作りは、本谷有希子を思わせるものもありキャッチーだった。あこがれの先輩男性を監禁した女性が、長く暮らしていくうちにそんな人ではなかったと飽きてしまう女性の身勝手さと、監禁されたからしかたなく適応してきたのか元からそういう資質があったのかあやうい男性。本物の鎖を着けられ、その音が鳴る時、笑いと恐怖が同時に迫ってくる。「ストックホルム症候群」のように生存戦略を強いられた男性には、現代の「男卑女尊」の傾向も重ねられ、ほんわかしているともいえる、コミカルな空気の中に風刺をプスっと指してくるので、空飛ぶペンギンカンパニーは油断できない。

「ハイシンシャ」は、ネットの動画配信者の元に、天から神の使いが現れ、処女懐胎を配信者に告げる。こちらもコミカルな寸劇風味であるが、結婚しない、子供を産まない、ネットでつながっているとはいえその裏返しの孤独とも言える現代的なテーマを持っていた。マリア役の渡邊陽子は、こういったネットの中の現実味がない人、ガブリエル役の松原敦の真面目な顔をして可笑しな人というキャラクターも、とても似合っていた。長年の付き合いがあるからこそ、見出した配役なのだろう。

「改稿 つぼみ」は、時代に因われない普遍性を持った男女の葛藤を描いていて、飛び道具ではない王道に真っ向から挑んだ作品であったように思えた。陽真役の菊本亘孝は内に秘めていた想いが溢れとまらない熱血な風体、雪菜役の佐藤麻美は、夫を亡くした未亡人を落ち着いたトーンで静かに演じた。テーブルに押し倒すシーンは段取りをしっかりやったのであろうな、というくらい、見事にお茶もこぼれずいて感心した。

最後に、これは良い意味でもあるのだけど、ストーリーテラーの井上英行の存在感がありすぎて、もっとあなたの素性が知りたいと思ってしまった。世にも奇妙な物語のタモリの立ち位置だとしても、もう、気になってしょうがなかった。

気になったところ

役者と観客席が近いせいか、ときおり第四の壁を突き抜けて客と目線が合う時があったように思えるのだが、いかがだっただろうか。覗き見なので、目があったらドキリとしますね(笑)。

作品紹介

約20分の短編劇を、オムニバス形式で3本上演します。
ふたりだけの、秘密の空間。あなたも「のぞきみ」しませんか?

短編1:「ハイシンシャ」
いつもの動画の生配信中、マリアの目の前に突然天使・ガブリエルが現れる。
百合の花を差し出して、ガブリエルがマリアに告げたことには…

短編2:「改稿 つぼみ」
兄の葬儀の日。気丈に振る舞う亡兄の妻・雪菜に、陽真はどうしても尋ねたいことがあった。
幻の旗揚げ公演「つぼみ」、いよいよ再演!

短編3「犬とバウムクーヘン」
ハナが憧れの先輩・イチロウを監禁してから3年。
時間は、ふたりをそれぞれの心境に導いていた。

【空飛ぶペンギンカンパニーとは?】
2013年に旗揚げした、横浜を中心に活動する社会人劇団。
劇団名は、無類のペンギン好きの社長と、ペンギンでも空を飛びたい副社長が命名。
かわいらしい劇団名に似つかない、濃密な人間関係を描く作品を上演することが多い。

【キャスト】
伊藤慧、菊本亘孝、松原敦、渡邊陽子
(以上、空飛ぶペンギンカンパニー)
佐藤麻美、野中政昭

【回替りキャスト】
22日(土)15時〜 *山之口晋也
22日(土)19時〜 関谷康滋(劇団Q+)
23日(日)11時〜 山内琴実(演劇集団ごっこ)
23日(日)15時〜 *善村彩代
23日(日)19時〜 井上英行
24日(月)11時〜 佐藤高宏(unit-IF)
24日(月)15時〜 佐藤高宏(unit-IF)
*…空飛ぶペンギンカンパニー

【スタッフ】
舞台監督 緑慎一郎(演劇プロデュース『螺旋階段』)
照明 蔵重智(ライト・トラップ)
舞台美術 大嶋智彬
音響 空飛ぶペンギンカンパニー
制作 空飛ぶペンギンカンパニー
引用元:http://sorapen0413.blog.fc2.com/blog-entry-99.html

チラシ