登場人物7名、上演想定約8分(約3070文字)
- 会社員:退職願を出せない
- 中年:公園のおじさん。
- 主婦:子供の母。
- 若者:居場所がなく配信。
- 学生:配信を毎回見ているミーハー。
- 子供:主婦の子。
- 白衣:呪いを研究している
公園。全員、バラバラの位置で上を見ている。中年は缶飲料、若者はスマホを掲げ、子供は菓子、主婦は買い物袋。互いに目を合わせない。下手から会社員。ポケットから白い封筒がはみ出ている。
会社員「(誰ともなく)何をされているのですか?」
誰も答えない。会社員、主婦に声を掛ける。
会社員「何を見ているのですか?」
主婦「巣です」
会社員「巣?」
会社員も見上げる。
会社員「デカっ! え? あれ巣ですか?」
中年「だから、さっきからそう言ってるだろうが」
会社員「(中年を見て)すいません」
中年「言ってたんだよ、心の中で」
会社員「はぁ(と、中年と距離を取る)」
若者「(スマホに向かって)どうも、公園から。視聴者、今三人。見て、木の上に大きな巣がある」
と、若者が木の上にカメラを向ける。
会社員「…配信ですか?」
若者「ええ、まぁ」
子供「二人になった」
若者「減らすなよ」
会社員「カラスですかね?」
中年「カラスはあんなでかい巣つくらねぇ」
会社員「お詳しいですね」
中年「飲む時はいつもここだからよ」
会社員「(時計を見て)この時間から」
中年「文句あんのか」
会社員「いえ……」
主婦「(中年に)やめて、迷惑してるでしょ」
中年「ち…」
会社員「(主婦に)お知り合いですか?」
主婦「いいえ、近所の人」
中年「近所の人だ」
主婦「あの人、毎日ここにいるのよ」
中年「毎日いるからな」
会社員「否定しないんですね」
上手から学生。スマホを見ている。
学生「マジだ、ここだ」
会社員「配信見て来たんですか?」
学生「はい、そうです。配信。あの人の」
若者を指す。
若者「視聴者?」
学生「いつも見てるよ」
会社員「(学生に)彼、有名なの?」
学生「ううん、全然。同じクラスの知らない人」
会社員「配信見てて、同じクラスで、知らないんですか」
学生「配信の人と教室の人は別人なんで」
若者「よくあります」
会社員「よくあるとか、そういうことじゃなくて…」
上手から白衣が現れる。
白衣「ここですか、巣」
子供「あ、博士だ」
会社員「博士?」
中年「近所のアパートの奴だ。昨日、ボヤ騒ぎ起こした」
白衣「あれはただの実験の煙です」
中年「騒ぎは騒ぎだろうが」
主婦「そうそう、消防車が何台も」
子供「かっこよかったー! ウウーウーーーーッ!」
と、子供、消防車のサイレンをまねて、走り回る。
主婦「コラ、走らない」
白衣「(会社員に)あなた、見ない顔ね」
会社員「あの、たまたま通りかかっただけで」
白衣「巣の主は見た? 写真は?」
会社員「いえ、ないです」
白衣「つかえないわね」
会社員「知らない人に使えないって言わないほうがいいですよ」
子供「ママもよく言うよ」
主婦「コラ」
会社員「もしかして、あの巣、実験と関係ありますか?」
白衣「ふ、短絡的ね」
中年「実験失敗して巨大生物が出たんだろ!」
白衣「映画の見過ぎか、お酒の飲み過ぎ」
中年「映画は見ねぇ! 酒は飲み過ぎだ!」
白衣「あなたと話すの苦手」
中年「俺はお前が嫌いだ」
会社員「(白衣に)実験って何してたんですか。化学実験とか?」
白衣「化学じゃないの。魔術書を嗜んでて」
会社員「嗜むものなんですね」
白衣「世界を呪ってたの」
会社員「物騒なこと言いますね」
白衣「成功するとは思ってなかったから(と、巣を指す)」
中年「やっぱり、お前のせいか!」
全員、空を見る。大きな影が横切る。風。
子供「あ、来た」
中年「鳥だ、デカい」
若者「(配信)みなさん見えますか! 視聴者、えっ、二百人!」
学生「俺もその一人」
白衣「写真、撮って」
会社員「自分で撮ればいいじゃないですか」
白衣「持ってないの」
中年「俺も持ってない」
会社員「この地域の変な人、全員スマホないんですか。(学生に)…ねぇ、配信見せてくれる?」
学生「え? あぁ、はい」
会社員、中年、白衣が、学生のスマホを覗き見る。間。
会社員「……あれ、この子」
中年「太郎だ」
全員、子供のいた位置を見る。子供がいない。
主婦「太郎が!?」
中年「太郎がさらわれた!」
ここから全員が同じ方向を向き、自然に集まっていく。
主婦「あなた、どうにかして!」
中年「お前こそ、落ち着け!」
会社員「あなた? お前?」
学生「夫婦なんですか?」
主婦「近所の人です」
中年「近所の人だ」
若者「(配信)太郎ー!」
学生「兄弟?」
若者「弟。太郎、あんな顔してたんだ」
白衣「同じ家なのに、今まで気づかなかったの」
若者「最近、家で目合わせてなくて」
中年「家庭を見ろ家庭を」
主婦「あんたもよ」
会社員「どうしましょう、警察? 自衛隊?」
中年「待て。こういうときのために、俺には仲間がいる」
会社員「仲間って…どちら様ですか?」
中年「俺は、どの公園にもひとりはいる『なにしてるかわからないおっさん連盟』の会長だ」
会社員「あるんですか、そんな連盟」
中年、ホイッスルを吹く。客席に向かって。
中年「総員、出動!」
白衣「見て! 小汚いおじさんたちが、次々と木のまわりに集まってくる」
会社員「(客席を見て)ほんとだ。連絡手段、笛なんですね。それにしても、こんなに暇な人が」
中年「暇であることは、緊急事態のセーフティネットなんだ」
会社員「かっこいい……お酒、持ってますけど」
中年「ノンアルだ(缶を見せる)」
若者「(配信)おじさんが重なってる、ジェンガみたいだ!」
学生「視聴者、三千人!」
白衣「おじさんジェンガが巣に届く! すごい!」
会社員「がんばれ!」
中年「たのむぞ、みんな」
全員が客席の同じ一点を見上げ、肩を寄せ合う。無意識に家族が並ぶ。
若者「いま、救出された! リレーされてる!」
会社員「バケツリレーだ!」
主婦「(中年の腕をつかんで)あなた!」
中年「(主婦の手を握って)お前!」
学生「夫婦じゃないですか」
主婦・中年「近所の人です」
白衣「もういいでしょ」
客席から子供が戻ってくる。全員、同じ方向に手を振る。子供、舞台に走り込む。
子供「ただいま」
主婦「太郎!」
子供「空、飛んだ。ママより怖くなかった」
主婦「コラ」
全員「よかったー!」
全員、肩を組んで歓声。一瞬、全員が一つの輪になる。間。
輪が静かにほどける。全員、気まずくなる。
会社員「……じゃあ、これで」
学生「あ、はい、また」
若者「(学生に)配信、また見てよ」
学生「教室で言ってくれたら」
若者「無理」
中年「(主婦に)じゃあな、近所の人」
主婦「夕飯食べるの? 近所の人」
白衣「それじゃ」
全員、それぞれ別方向へ歩き出す。会社員、ポケットから封筒を取り出し、立ち止まる。
白衣「それ、退職願でしょ」
会社員「今日、これ出そうと思ってたんです」
白衣「出せば?」
会社員「…あ〜、楽しかったなぁ」
全員、足を止めて振り返る。
全員 「……」
子供「楽しかった」
他、言葉にしないが、楽しかった、という顔。
白衣「世界を呪うより、ずっといい」
会社員「……なんか、また、ないですかね」
全員、空を見る。
中年「巣はもうない」
白衣「呪いは、解けたと思う」
会社員「解いたんですか」
白衣「ごめんなさい」
間。全員が空を探す。無言。やがて全員が白衣を見る。
白衣「……やりなおせって言うの?」
主婦「今度は、もう少し小さいやつで」
中年「高いところより、地上で頼む」
若者「視聴者増えるやつ」
学生「今度はクラス全員呼ぶよ」
若者「やめて」
子供「僕、またさらわれる」
主婦「コラ」
会社員「(封筒をポケットにそっと戻して)退職願、次の危機の後にします」
白衣「私の呪い、そういう使われ方するの?」
全員「お願いします」
白衣、渋々ノートを開く。全員が円になって上を見上げる。誰が先に気づくか、全員が競うように空を探す。
子供「あ、鳥!」
全員、一斉に子供の指す方向を見る。間。
子供「うそ」
(暗転)
(了)
コントワークショップのお知らせ
コントワークショップ「心は青空、草コント教室」参加者募集中草野球みたいに、コントを趣味で楽しむ教室です。毎回、コントを創作してその時間のうちに披露まで行います。毎回1本、あなたのオリジナルコントが作れます。参加無料(会場費のカンパ歓迎)。


